エピローグ
「痛て……」
おっ、目が覚めたみたいだな。
賑やかな商店街のベンチに、ソーイチローが寝かされている。
そして、オレはその隣に座っている。
ショーコはオレの腕を掴んで、ソーイチローをにらんでいる。二階堂はベンチの横で腕組みして目をつぶってる。キザな奴だ。
ソーイチローは顔にかかったハンカチを除けると、起き上がる。
意識が戻ってよかったよ。大事にならなくて何より。
「目が覚めたか? はいコレ」
オレはソーイチローにミネラルウォーターのペットボトルを、キャップを開けて渡す。
「あ、ああ……」
ソーイチローは受け取ると、ミネラルウォーターを少し飲んだ。
「どうだ、痛むところはあるか?」
「ん……、ちょっと頭が痛かったけど、もう大丈夫だ」
「本当か?何かあったらすぐに医者に行けよ」
オレはソーイチローの顔色を見る。特に悪い事もなさそうだ。
「よっし、じゃあオレ達は帰る。ハンカチ返して。オレのだから」
オレは立ち上がると、ソーイチローに手を出す。ソーイチローはオレにハンカチを渡した。
「……お前、何も気にしてないのか?ヘンなヤツだな」
オレが親切にしているのがそんなにおかしいな。おかしいんだろうな。
オレは小心者だから、怨みを買いたくは無いんだよ。
「まあ、色々あったけど、これってゲームなんだろ?終わったんだから、ノーサイド。後腐れのあるゲームは楽しくないからな」
二階堂に、あとはよろしくというと、つぶっていた目を少し開けて分かったとだけ言った。重ねがさね、キザなヤツだ。
「それじゃ」
オレは言うと、ショーコの手を引いて、その場を立ち去った。
「なんで、アイツの心配なんかしているんですか!」
帰り道、ショーコはオレに食って掛かる。まあ、無理も無いよね。
「だってさ、あんな奴でも何かあったら嫌だろ?」
「でも、普通はあーいう状況になったら、文句の一つ言ってやるのが普通でしょ!」
お約束かい。
「オレは人に説教出来るほど、えらい人間ではございません」
オレは手をヒラヒラと振る。
「人の世は、おかげ様とおたがい様で出来ているんです。済んだ事は済んだ事なのです」
「でも!」
「それに下手な恨みでも買ったら、今後がますます面倒になるでしょ」
人に怒るってのはしんどいものなんです。
だから、怒る価値のある人しか怒りません。
「なんで私がSEKKYOUされてるんですか!」
少なくとも、貴方にはしんどい事を言う価値があると思っているからです。
「あ、クレープでも食べる?」
「え、いいんですか?って違います!そういう事じゃなくて」
一瞬引っかかりそうになったな。やっぱり彼女はチョロイ。
こういう、バカ話が出来るのも、無事に今日という日が過ごせたおかげ。
「お姉さまは何とも思ってないんですか?」
「さっきも言っただろ。済んだ事は済んだ事だって」
オレが窓口業務を手伝った時、ちょうどモンスターなんちゃらの方が来て、滅茶苦茶へこまされたことがあった。だけどそんな人、忘れちゃいなさいって、隣で受付してたこの道ウン十年のおばちゃんが教えてくれたっけ。今日の出来事も、そうだな、モンスターアロハに襲われたと思えば、なんてことは無い。
あー、今日は入学式の日だったんだなぁ。
明日から学校が始まる。
久しぶりの学校生活が、始まる前に終わらなくてよかった。
オレはショーコの頭をなでると、駅に向かった。