弾幕シューティングとアイアンクローその3
「もうお前の手の内は分かってるからな。さっさと終わらせるぜ!」
オレは吠えると、ソーイチローに向かって突っ込んでいった。
……オレは本当に足が遅いな。
いや、世間的に見れば平均よりやや下くらいなんだろうけど、飛び回るソーイチローを相手にするには役不足もいいところだ。
「ハッハ、オレをバカにしてんのか?」
嘲笑と共にあっさり距離を取られる。そして弾幕の嵐。
やっぱりそう思うよね。
でも動きが遅いのも、利点があると言えばある。
気合避け。
シューティングは敵の攻撃をすべて真っ向から避けきっているわけではない。オレがやったようなジグザグ行動や、敵の行動を読んでパターンをある程度構築して対処する。
パターンで対処できない、真っ向からの回避を気合避けというわけであるが、動きが速すぎると、敵弾に突っ込んでしまって誤爆してしまう。その場合は、ある程度動きが遅い方が精密な動作が出来て、ギリギリの回避が出来るという訳だ。
オレが精密な動作が出来ているかという点については、置いておく。
あとは、オレならではの動作『ガード』これは卑怯。シューティングで防御なんてシステムは、まあたまにはあったかな。でもたまにしかない。
オレは、きっと精密であろう回避と、ガードを使いながらじりじりと間合いを詰める。
そしてオレばかりに気を取られていると、ショーコの攻撃が飛んでくる。
「えーい!」
特大の溜め撃ち。
「おっとっと。オレが何度も同じ手に引っかかると思うか?」
そうそう何度も、同じ手には引っかからないよね。
そしてそうなると、ソーイチローの攻撃は当然ショーコに向いてくる。
赤、青、紫の光弾が一斉にショーコに向かうが、ショーコは建物の陰に隠れて回避する。オレと違って『ガード』も出来ず、耐久力も低いであろうショーコには、攻撃されたら逃げるように言ってある。
アイツ、オレは別にいいけど、ショーコにもそれなりにガチな攻撃してくるな。
路地に駆け込むショーコの後を追いかけるように、光弾が着弾する。
オレとは全然スピードが違う。
動き自体が、華麗だ。
悲しくなってくるが、オレはオレの仕事をしよう。
必殺のゴルフスイング!
「ファー!」
変な掛け声とともにショットした瓦礫は、ソーイチローの方へかっ飛んでいくが、
「甘ェ!」
素早く反応したソーイチローによって、撃墜されてしまった。
チッ、油断してなかったか。
「あー、うぜぇ」
大分、イライラしてきたみたいだな。
とはいえ、オレ達も挟み撃ちしか有効な手立てはない。
「やっぱ、お前だな。お前から先にやるとするわ」
ソーイチローはオレを指さす。
「まー、俺はそれなりに、綺麗に勝とうとしていたわけよ」
ソーイチローはひょこひょこと、オレに近づいて来る。
「お姉さま!」
ショーコの叫び。オレは手で彼女を制する。大丈夫、そういう気持ちを込めて頷く。
「でもまあ、お前に勝つのは実は簡単だ」
気付いたか。
あの手を使われては、オレに勝ち目はない。コイツ、プッツンする癖にそれなりに考え手やがるな。
ソーイチローはオレの目の前に立つ。
「どうした、お前の間合いだぜ?」
生意気にも、ソーイチローがオレを挑発してくる。
そう、ソーイチローがオレを倒そうと思ったら、実は簡単だ。
至近距離でボムを撃ってやればいい。オレは足が遅いから間合いから逃げられない。最初の一発はショーコが助けてくれたから逃げられただけだ。
オレ達は視線を交錯する。ニヤニヤ笑いのソーイチロー。無表情のオレ。
「やってみろよ」
オレは『挑発』仕返してやる。
「ハッハ!いい度胸だ!吹っ飛びな」
ソーイチローの哄笑と共に体が光り輝く。
半球状の閃光がオレとソーイチローを包み込んだ。
「お姉さま!」
ショーコの叫びとともに、轟音が辺りに響いた。
「グハッ!?」
うめき声と共に、無傷のオレとソーイチローが光の中から飛び出す。
オレは空中でソーイチローに組み付くと、そのまま地面に叩きつけた。
超必殺技、スカイドライバー!
オレは追撃を止めない。ソーイチローの顔面を鷲掴みにする。アイアンクローの体勢。
「グアッ、な、舐めやがって……!」
ソーイチローは、オレの手を掴む。
「むかーしむかし、あるところに小さな子供と名人と呼ばれる人がいました。その子供は、名人に憧れてある技の練習をしました」
オレは指に力を込める。
「その技の名前は連打といいます。というわけでだ、連打勝負と行こうか!」
アイアンクローは掴み技、ゲームだと掴み技は連打で威力が決まる。相手も連打で振り解くことが出来る。実際に技をかけているこの状況で連打するわけではないが、オレの心の中には名人がいる。
「ハアアアアアアアアアアア!」
腰を落として気合、オレの魂の連打が炸裂する。オレの連打は過去、一回だけだが、秒間16発を記録したことがある。ほんの一瞬だけだが、オレは神に並んだことがあるのだ。正直大したことのないオレのゲーム歴の中の、数少ない自慢。誰にも出来ないけど。
あの時の奇跡をもう一度!
ソーイチローはオレの両手を握り、足をばたつかせてもがく。
苦し紛れの光弾が何発か来るが、これは根性で耐える。ボムが来なければ行ける!
「オート連打が当たり前の連中に、負けてたまるか!」
弾幕を避けられないひがみを乗せて、オレは最後の力を込める。
両手を掴んでいたソーイチローの手から力が消える。
オレはソーイチローから反撃が来ない事を確認して手を放した。
オレは生まれて初めて、連射装置を買ってもらえなかった事を感謝した。
「ありがとう、お母さん。おかげで勝つことが出来ました」
正直、色々な要素がオレに味方しなければ、オレは勝つことが出来なかった。
最初にソーイチローが、そのまま戦ってたらオレは多分負けてたと思う。ソーイチローは一回撤退したことで、オレに対策を取る時間を与えたのだ。
ボム、あれはヤバかった。オレは結局、捕まえて投げる事しか出来ない。ボムで緊急回避と反撃をされたら勝ち目はない。あの威力なら、オレでも耐えきる自信はなかった。そこで、オレは道中ステージで、雑魚敵を倒すことで気力をためた。
RPGだったら、マジックポイントを消費する事で魔法を撃つように、ゲームでは使用制限のある技がある。格闘ゲームだと、ゲージを消費して放つ超必殺技ってやつだ。貯める方法は気合を入れたり敵に攻撃を当てたり、逆に喰らったり、システムによっていろいろだが、オレの場合は、攻撃を当てる、攻撃を喰らうでゲージが増えるようになっているハズだ。
ダメージも貰うから攻撃を喰らってゲージをためる事は避けたい。オレは攻撃する事でゲージをためたのだが、途中で雑魚敵を倒した時の、あのみなぎってくる感じが、多分それなんだろう。
そして、ソーイチローのボムから無傷で脱出した技。アレはオレのゲージを使う技の一つで、飛び道具完全無敵がついている。あの技ですり抜けつつ、攻撃したのだ。組み付くことが目的で、ソーイチローのボムの残弾数が分からなかったので、本気で使ってないけどね。いちおうあと2回は出来るはずだった。ここら辺は、賭けだった。
ここまで準備しても、最後は気合の勝負にしかならなかった。
倒れたソーイチローを見下ろす。
オレの足元に、光る物が転がっている。
「なんだこれ?」
六角形の水晶に細い鎖がついているペンダント。水晶は光の加減で、赤や青、紫に色を変えている。オレは水晶を手に取ってみた。
「綺麗だな……」
装飾品に興味が無いオレでも、綺麗だなって思ってしまう。
いつの間にか二階堂が傍にいた。
「それはソーイチローの物だ。返してやってくれ」
ああそうか。途中で取れてしまったのかな。こんなに綺麗なんだから高価なものなんだろう。オレはソーイチローの手に、水晶のペンダントを握らせた。
「お姉さま~!」
ショーコがオレに飛びついてくる。その後で相変わらずの、顔を胸に押し付けてのグリグリ。
ソーイチローは結局、オレかショーコのどちらかを集中的に狙えばそれだけで勝てた。ショーコが狙われたら、オレは二人のスピードにはついていけない。何も出来ず終わっただろう。この辺も、運が良かったんだろうか。
「ソーイチローは大丈夫?」
結構本気で掴んでしまった。
「大丈夫、気絶しているだけだ」
ああよかった。何かあったら寝覚めが悪い。
二階堂は言った。
「君達の勝ちだ」