弾幕シューティングとアイアンクローその2
壁を突き破って戦車が現れる。
「ええええええええええ!?」
これにはさすがの俺もびっくりだ。
戦車の砲塔が油切れを起こしたような、耳障りな金属音とともにこちらを向く。
砲塔の奥が赤く光る。
「ちょっと待ってー!」
オレは思わず叫んでしまうが、相手が待ってくれるはずもない。
戦車から光弾が発射。あくまでも光弾なところが、こいつもシューティングのキャラだという事を証明している。
オレは横っ飛びで回避。
「ぐあっ!」
ジグザグ走行のパターンをくるわされたせいか、何発か貰ってしまった。
「お姉さま!」
ショーコがこちらに来ようとするが、オレは止める。
「ショーコは攻撃を続けて!」
「でも……」
なおもショーコは迷っている。
戦車の砲塔の奥が、また赤く染まる。
「オレは大丈夫!言ったろ、打たれ強いのがオレの取り柄だって!」
ショーコの攻撃で、六芒星の形をした敵はかなり減ってきているが、次々補充されている事には変わりはない。ここで攻撃の手を緩めては、逆にこちらが押される。
戦車の砲塔から、またも光弾が発射される。
爆音。
だがオレはキッチリ『ガード』していた。だけどこれは、ガードしても結構削られるなぁ。ソーイチロー戦の事も考えると、攻撃はきちんと避けていきたい。
「な、大丈夫だったろ?」
オレはショーコに向かって笑顔を見せる。
「はい!」
ショーコはそんなオレの姿を見て安心したのか、改めて雑魚敵の掃討に移って行った。
「さて、オレの相手はコイツというわけか」
石畳の床を破壊する、耳障りな走行音を響かせながら、戦車が迫ってきた。
「まったくあのソーイチローってやつ、結構守備範囲が広いのな」
六芒星の魔術っぽい敵が現れたと思ったら次は戦車。ミリタリー系も行けるのか。というかシューティングはもともと、そっちだしな。
次は衛星軌道上からの攻撃が来ないことを祈っておこう。
基本、戦車からの攻撃の回避も同じ。オレはまたジグザグ走行を開始する。六芒星からの攻撃も、一時ほどではないとはいえ、まだ止んでいない。足を止めたら蜂の巣だ。
とはいえ、やられっぱなしというのもしゃくだな。
オレは街灯に手を掛けてターンするついでに、街灯を力任せに引っこ抜く!
抜けちゃったよ……。
アンティーク調の、先端がランプの形をした街灯がオレの手の中にある。長さは大体五メートルくらい。
自分のバカ力にちょっとびっくりしつつも、オレは戦車の周りを回転しながら、距離を縮めていく。何度も言うが、足はあまり早くない。
「そーれ!」
距離が縮まったところでオレは街灯を掴みながらジャンプ、そして戦車の砲塔部分を思いっきりぶっ叩く。
大きな金属音を響かせ、砲塔が拉げた。オレはそれ以上に拉げた街灯を投げ捨てる。
戦車は砲塔部分を、それでも俺に向けるがしかし、突然砲塔が吹き飛んだ。
無理やり光弾を撃とうとして、自爆したな……。
同時に、オレの頭上に閃光が走る。
上を見上げると、ショーコが両手を前に構えて、肩で息をしている。
多分、溜め撃ちを放ったんだろう。その証拠に六芒星の形をした雑魚が一掃されていた。
ショーコはそのまま、ふらふらと地面に着地する。
彼女も良く頑張ってくれた。というか、彼女がいなければオレは正直こいつらに対処する方法が思いつかない。
もうもうと煙を上げる戦車。これが止まってくれたら、ひと段落出来るのだが。
しかし戦車は無限軌道を唸らせ、床を破壊しながら向きを変えると、こちらに進路を向ける。
まだ動けるのか。やっぱりゲームの戦車だなぁ。
しかし、戦車の狙いは明白だ。戦車はオレに向かって突進してくる。
そしてオレの後にはショーコが。
ここは引けない。
突っ込んでくる戦車を、オレは手四つで受け止める。
ショーコには指一本触れさせない!
オレは超人じゃないけど、今なら新幹線だって受け止めてやるぜ!
「おおおおおおおおおあっ!」
両肩に凄まじい衝撃。
足は地面にめり込み、それでもなお戦車の勢いは止まらない。
いくらなんでも、戦車を止めようってのは無茶だったか!?
いや、でもオレは、戦車の突撃を正面から受け止められている!オレはやれている!
そしてこの状況は、戦車にオレというつっかえ棒が挟まっただけの状態だ。戦車の馬力なら、つっかえ棒が挟まったところで地面毎抉りながら進んで行くだけの事。
考えろ!
だったらその力を利用したらいい!
オレは身を沈めると、戦車の前を一気に持ち上げる!
前進しようとした戦車の力の一部が、上に分散される。オレはその力を利用し、足を踏ん張ると、一気に戦車を肩の上に担ぎ上げた。
「お、おおおおおお!」
戦車が、オレの上にある!そのまま俺は戦車と一緒に、後ろに倒れ込む。
ブレーンバスター!
派手な轟音と土煙を上げ、ひっくり返された戦車が地面にめり込んでいる。
戦車はしばらく、無限軌道を動かしていたが停止し、光に溶け込むようにして消えた。
残されたのは、戦車が叩きつけられて派手に破砕された床と、ポカンとした顔でオレを見ているショーコ。
「す、凄い……」
オレもびっくりだよ。戦車って持ち上げられるんだね……。
「ハ、ハハハハ……」
オレは、乾いた笑しか出てこなかった。
オレとショーコは、地面に座り込んで一息ついていた。
ショーコは、一人で雑魚敵を殲滅させ、オレはまあ、戦車を投げた。
「お姉さま……」
ショーコは口に手を当てて、オレを見ている。目も潤んで、心なしか、怯えているように見える。
無理も無い。オレも自分でびっくりしている。怖がらせてしまった。
オレ自身に対して怯えてしまっても、オレは彼女を責められない。
それにもう一つ。
これから戦う相手は、この俺の投げ技を何度喰らっても、平然としていた相手なのだ。そういう意味でも、恐ろしさを改めて実感して、怖気づいたとしてもそれは自然な事だ。
「ショーコ……」
オレは彼女にどう声を掛けていいのかわからない。
「ショーコは十分、オレを助けてくれた。もう、ここで止めても」
「お姉さま~!」
途中まで言いかけたオレの言葉を、ショーコの突撃が中断させる。彼女はオレの胸に突撃すると、顔をオレの胸に押し付けてグリグリしてくる。
「凄いです凄いです!本当に凄い!まさかあんなおっきいの投げちゃうなんて!もう勝ったも同然ですね!あんなやつら、私達でガーンとやっつけちゃいましょう!」
……どうやら俺の心配は杞憂だったらしい。
「あ、ああ。そうだね」
でも良かった。彼女に嫌われてなくて。
オレはぼっちだけど、ことさら好んで、人に嫌われたいとも思っていないから。
「静かになりましたね」
「そうだな、ちょうどいいから少し休憩しよう」
「え、そんな呑気な」
「いいからいいから。休める時は休んでおく。ほら」
オレはポケットからあめ玉を取り出すと、ショーコに渡す。オレも一個口に入れる。
「疲れた時は甘いものが一番、ってね」
「はい」
オレとショーコは、椅子代わりに手頃な瓦礫に隣り合って座る。
どうやらさっきの戦車は中ボスだったのだろう。
あいつを倒したことで、周囲の敵もまた一掃された形になったのだと思う。
長居は出来ないだろうが、今は少し腰を下ろしたい。
「ああ、膝を擦りむいているな。ちょっと見せて」
ショーコの方には攻撃は一発もいってなかったはずだ。さっき着地した時にでも擦りむいたんだろう。彼女の飛行はソーイチローのそれに比べると、大分体力を使うらしい。無理をさせてしまった。
オレは絆創膏を取り出すと、ショーコの擦り傷に貼った。一応、絆創膏くらいは持ってきている。
「ありがとうございます」
ショーコは俺に礼を言う。
「なあ、こんなことになって後悔していない?」
「うーん……」
ショーコは膝を抱えて、体育座りの恰好だ。
「正直、色々な事が起こってびっくりしていますけど、後悔はしていません」
その目は前を向いている。
「だって、元々は私の責任なのに、お姉さまを巻き込んでしまったし」
「それは違うよ。違うと思う。オレは遅かれ早かれ、こういう事になったと思うんだ」
「ならきっと、私も同じです」
ショーコはオレを見る。この状況でも、相変わらずのキラキラした笑顔だ。
「だったら、お姉さまと一緒に戦える、今が一番かもしれません」
「ショーコ……」
「だって、私だけじゃあとてもあの人たちに勝てないだろうし。それになんか、あのソーイチローって人、私嫌いです」
「それはオレも同感だ」
オレ達は顔を見合わせて笑いあう。
「っと」
オレはショーコをひょいと、抱きかかえると瓦礫から飛び降りる。
その直後、瓦礫が四散する。
オレ達の正面に、影がそのまま起き上がってきたような、真っ黒い人型の何か。それが床から沁み出すように立ち上がってきた。黒い人型は、口を開ける。より正確に言うなら、それは口があるであろう所に開いた、真っ赤な穴。そこから光弾が発射される。
「さて、休憩は終わりだ。行こうか」
「はい!」
「そーれ!」
オレはそこら辺に落ちていた鉄パイプを黒い人型に向かって振り回す。鉄パイプが黒い人型にあたると、水を撃ったような音と共に、墨汁を飛び散らせたように散り消えた。
さらに俺は、人型の群れの中に飛び込むと鉄パイプを振り回し、人型を蹴散らす。
いやぁ。無双って本当にいいものですね。
今まで一方的に逃げたり避けたりする展開ばかりだったから、少しストレスが溜まっていた。何かみなぎってくるものがある。
「オレはこっちだ!」
折に触れて『挑発』して、ヘイト管理もばっちりだ。
それにしても、鉄パイプってそこらへんに落ちているもんなんだな。もしかしたらMASAMUNEやMURAMASAも、探したら落ちているかもしれない。
二階堂の腰の大小は、やっぱりソレなんだろうか。
だとすると、アイツ、滅茶苦茶強いんだろうなぁ。
今回は手を出してこないみたいだけど、敵には回したくないなぁ。
今回がステージ1だとすると、次は……。
いかんいかん、変な考えが頭をよぎってきた。
周囲を見ると、黒い人型と一緒に六芒星の形をした雑魚敵もちらほら見受けられる。
「お姉さま!手伝います!」
ショーコが言うが、オレは拒絶する。
「いいよいいよ。今は休んでいて」
「え、でも……」
「いいからいいから。ショーコはラストに備えて休んでおいて。せっかくオレでも倒せそうな相手なんだから、オレ、体暖めておかないと」
オレは周囲をざっと確認する。周囲は瓦礫の山だ。これならいけそうだな。
オレは人の頭ほどの大きさの瓦礫を、ゴルフスイングの要領で打ち上げる。
かっ飛んでいった瓦礫は、六芒星に命中して、四散して消えた。
「おー、ナイスショット!」
これぞ中国四千年の武術ではなく、社会人歴十ウン年の賜物。オレも誘われて、クラブセット買って打ちっぱなしに行ってたこともあったんだけど、結局止めちゃったんだよねぇ。体が覚えてくれていて良かった。的がでかいと言うのもあるけどさ。
オレは鉄パイプを振り回しながら走り回り人型を四散させる。適当な瓦礫があれば駆け寄ってアッパースイング。新たに敵が沸いてきたら『挑発』を繰り返す。
これが無双というものか。
ちょっと気持ちいいかもしれない。
オレって耐えるばっかりだったもんなぁ。
体がどんどん温まってくる。
オレがRPGベースのスキルだったら、MP満タンって感じなのかな。
結局、空の相手は討ち漏らしが多いので、ショーコに少し手伝ってもらった。
一通り、敵を一掃した所で、オレ達は先に進む。
中ボス戦もやったし、もうそろそろ、出てきてもいいでしょう。
ほら居た!
この商店街は反対側にも同じような開けた場所がある。
その真ん中に、お目当てが壁にもたれてヤンキー座りをしていた。
ソーイチロー。
金髪アロハはオレ達を見つけると、ゆっくり立ち上がる。
「待たせたな」
「おせぇよ」
さて、第二ラウンドの開始と参りますか。