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仮想浸食 ~ああ素晴らしきゲーム人生~  作者: 矢尾板
【ROUND1】弾幕シューティングとアイアンクロー
11/15

約束の日

 湊銀座商店街。


 地名に銀座をつけただけの、そんなどこにでもありそうな商店街の、入り口近くの広場にオレは居た。



そろそろ日も暮れだす時間、まわりは帰宅途中のサラリーマンや学生で賑わっている。

 オレは、露店のクレープ屋で買ったラズベリーのクレープを食べながら、ベンチに腰かけていた。

 この前ショーコと行ったような、いかにもオシャレな喫茶店は一人では入れないけど、こういう露店のクレープは、割と平気で買える。この辺の、微妙なぼっちごごろを分かってもらえるかなぁ。


 オレは甘党だ。酒が飲めない人種は甘党が多いとも聞く。

 この露店のクレープ屋は、結構おいしいんだよね。オレもたまに、ゲーセン帰りに買ってたりした。その時のオレは、周りからどう見られていたんだろうか。

 昔のオレならともかく、今ならそれなりに絵になるのかな。

それともぼっちは何処まで行ってもぼっちか。

 下らない事を考えながらも、オレは来てほしくない待ち人を待っていた。



「お姉さま~!」

 げ。こっちが来るのは予想外だ。

 向こうから私服姿のショーコが走ってくる。


 今日は入学式だから、在校生はまだ春休みか。

 例によってオレの胸にダイブして顔をグリグリ。この短期間で何回やられたんだろう。

「なんで来たのさ。危ない目に合うかもしれないのに」

 オレはショーコを無理やり引きはがした。

「だって、お姉さまは巻き込まれただけで……」

 ショーコの目が少し潤んでいる。

「ショーコも巻き込まれただけだろう。助けたのはオレの責任。その後に起こることもオレの責任だ」

「でも!」

「というわけで、子供はおとなしく家に帰りなさい」

「お姉さまだってまだ子供の癖に」


 ああ、そうだった。

 オレはすっかり彼女の保護者みたいな気分になっていたが、年齢はそれほど変わらないんだよな。小動物系の彼女は、特に人の保護欲を掻きたてるらしい。

 ……オレは別にロリコンじゃないよ?

 オレの好みは、キリッとしたクールビューティーなのさ。

 そのクールビューティーは、絶対手の届かないところに行ってしまったが。


「まあまあ、お菓子買ってあげるから、おとなしく帰りなさい」

「また人を子ども扱いして~!」

 ショーコはブー垂れると、ますます外見年齢が下がる。

「私だって、お姉さまの役に立てます!」

 まあ、正直ショーコがいてくれると助かる部分はある。

正直言って彼女はオレよりずっと強いと思う。

だけれども、彼女は危なっかしい。

くるくる変わる表情そのままに、思い付きで行動する。

 あの二人、アロハの男ソーイチローと学生服、二階堂に対して、いきなり攻撃して逃げ出そうとした事も、考え無しにも程がある。


 仮説と検証を重ねて、考えて、考え抜いて、その上で行動するものだ。

 と、年を重ねたオレは思ってしまうのだが。

 まあ、痛い目を見ながら人は大人になっていくのだよ。

オレも散々な目に合いながらも、こうして老成してしまった。

今回の出来事は、その中でも屈指の出来事になりそうなんだが。


「はいはい」

 オレはショーコの頭をなでる。

 彼女は、何故かちょっと不満そうだ。

「どうしたの?」

「お菓子、買ってくれるんじゃないんですか?」

 不満なところはそこかよ。

 オレはショーコの為にクレープをもう一つ、買ってやった。



 オレとショーコが漫才をしながらベンチでクレープを食べていると、本命の待ち人が現れた。ソーイチロー、そして二階堂雅人。

 ん?一瞬、二階堂が少し驚いたような表情をしたな。

理由は分からないが覚えておく。

「やぁ、マコトちゃん。待っててくれるなんて嬉しいよ」

 人をちゃんづけで呼ぶな。鳥肌が立つ。


 相変わらずのニヤニヤ笑いとガニ股。そして前回とはガラ違いのアロハ。

コイツ、まだ肌寒いのに、なんでアロハなんだ。

そして何着持っているんだ。そんな沢山いる物でもないだろうに。

そういえば、欧米人は冬でも半袖で過ごしてやがるな。


「がるるるる~」

 ショーコはほっぺにクリームをつけたまま、威嚇する。

 それは威嚇になっていません。おじさんの心を鷲掴みにするだけです。


「無視しても良かったけど、後あと面倒くさそうだから」

 硬質ガラスを思わせる目と声。拒絶の意志を表すには最適の声と表情を、オレはデフォルトで搭載している。

「それに、二階堂さん、だったっけ?アンタも来るとは思わなかったな。まさか二人がかりって事?」

「ん?ああ、俺はソーイチローの見張り役だ」

 少し心ここに有らずと言った感じの二階堂。

そういえば今日は腰に大小を下げていない。

もっともそんなものを下げていたら、すぐに通報されてしまうだろう。


「それに、国村さんだけならともかく、佐伯さん。君は強いからな。もしもの時の保険だ」

「ん、女相手に二人がかりって事?」

「そうだ」

 二階堂はあっさり認める。

「俺は君を過少にも過大にも、評価しているつもりはない」

 ってことは、ソーイチロー&二階堂ペアなら、オレとショーコに確実に勝てると踏んでいる訳か。

「ハッハ、二人掛かりなんて必要ねェよ、マサト。じゃあちょっとお話ししようぜ」

「どこで?」

 オレは聞き返す。

「こんな外だと寒いだろ。あそこのファミレスさ」

 寒いのかよ。じゃあアロハやめろよ。

 それにコイツならもっと、個室で真っ暗でハレンチなところに連れ込みそうだと思っていたが、以外と言えば以外、普通と言えば普通な選択だ。

「いいのか?ショーコ?」

 オレはショーコに小声で尋ねる。ショーコはオレの腕を強く抱きかかえると、意を決したように、オレに頷く。

 オレとショーコは立ち上がる。

「じゃ、行こうか」

 オレ達は促されるままに、ファミレスに入った。



「んで、結局の所、オレ達にアンタらの仲間になれと。そういう事か?」

「そうそう」

 ファミレスのボックス席で、オレ達は向かい合って座っている。

 ショーコはパフェを頬張り、オレは適当にピザをつまんでいる。

今日の晩飯はこれで終わりだな。

ソーイチローはずるずるとパスタをすすり、二階堂はコーヒーだけだ。

「オレも、アンタらも、もちろんマサトも、ちょっと違う力を持っている。それでお互い、この力を使って仲良く楽しくやろうよってわけ」

「で、この前オレは死にかけたんだけど?」

「それは謝るよ。この通り、ゴメン!」

 ソーイチローは、テーブルに手をつくと頭を下げて、拝むように手を合わせる。


 別に死にかけたわけでもないが、意図的に攻撃されたのは確かだ。

ただ、どちらかというとソーイチローに直接やられたよりも、『ジェイク』にやられたダメージの方が大きかったが。多分『ジェイク』のほうは、二階堂の指図だ。

「二階堂さんのほうは?」

「ああ、俺も謝罪する。国村さんを追いかけるために『改変』したのだが、妨害されてな。それがあまりにも的確だったものだから、意図的なものだと思ってああいう対処になった。単に巻き込まれただけだとは思っていなかった」

 二階堂も頭を下げる。


 意外とこの二人、素直だな。ここで強硬な姿勢に出られた方が、交渉決裂しやすかったのだけれど。

「的確な妨害、ね。そんな事をする相手に心当たりでもあるのかな?」

 オレはかまをかけてみる。

 敵対組織でもいるのかな。多分いるんだろうなぁ。ますます面倒くさそうな気配だ。

 二階堂は、少しの間オレの顔をじっと見つめる。

 いかにイケメンとは言え、オレはさすがに男にはなびかないぜ。

それともオレの美貌に見惚れたか。


 二階堂は結局返答はしなかった。

 まあ、いいや。オレの中では最初っから決まっていたことだけど、これで結論は出た。

 オレはこいつらの仲間にはならない。

 ソーイチローはプッツン野郎だし、二階堂はまだマトモそうだが、他にも裏がありそうで、敵対組織の気配もある。面倒臭いことこの上ない。


 オレは平和なぼっち生活を満喫したいんだよ。


ショーコは会話に加わってはいないが、二人を睨みつけている。

オレの意見に従ってくれるだろう。

後はいかに後腐れなく、おサラバするかなのだが。

オレは制服を着てきたから、学校はバレたな。

こいつらは既にショーコと連絡をつけている時点で、遅かれ早かれ住所も学校もバレる可能性は大だから、これは別にいい。


「お誘いは、丁重に断らせてもらう」

 オレは応える。

 その返事は二人にとっては予想の範囲内のようだ。

「まず一つ。女を力づくで従わせるようなヤツらは信用できない」

「それは、謝ったじゃねェか」

「金曜日の事は、仕方ないから水に流す。だけれども、そういう事をするヤツは今後も同じことをしないとは、限らない」

「正論だな」

 二階堂は言う。ソーイチローは隣を忌々しげに睨みつける。

「第二に、別に貴方たちの仲間にならなくても、オレ達に何の不都合も無い。それどころか、さらに面倒事に巻き込まれる可能性がある」

 これは二階堂が少し表情を変える。情報を漏らしてしまったと思ったのだろう。

「第三に、オレ達は降りかかる火の粉は自分で払える。楽しくやりたいなら自分たちだけでやればいいし、何か目的があっても勝手にしたらいい。という訳で以上。代金はここに置いておく。それじゃ」

 オレは千円札を二枚取り出すと、テーブルに置いて、立ち去ろうとする。


「待てよ」


 低い、ソーイチローの声。そろそろお得意のプッツンか?

 オレはショーコに軽く目配せすると、ソーイチローに手が届く間合いに立つ。

 ソーイチローが手を出して来たら、ショーコが素早く『改変』を発動する。


 そしてオレはヤツを『投げる』


 この間合いなら、オレは三十分の一秒で相手を投げ飛ばせる。

ソーイチローがいかに弾幕と言えるほどの光弾を出しても、オレを倒すには少々時間不足だ。

 オレは打たれ強さだけは自信があるからな。


 そのまま締め落として終わり。

痛い目に合わせて、あとは二階堂に安全弁になってもらう。

どこまで二階堂が信用できるか分からないが、このまま永遠にソーイチローに付きまとわれるのも、面倒だ。

「分かった分かった。諦めるよ」

 ソーイチローは顔を上げると、ニヤニヤ笑いでオレを見る。


「じゃあさ、さっきの話は無し。チャラ。その上でさ、オレの彼女になってよ」


 は?頭おかしいのかコイツ?


「オレ、君の事本当に好きになったみたい。美人だしかわいいし、気が強い所もオレ好みだなァ」

 DQNの思考回路は本当にわからない。オレの仮説の、軽く斜め上を行きやがる。

「この状況で、ハイって言うと思うのか?」

 硬質ガラスの様な冷たい声で『挑発』する。


 ソーイチローが動く気配を見せた時、隣から二階堂がストップをかける。


「そこまでだ、ソーイチロー。佐伯さんもこれ以上刺激するのは止めてくれ。俺から提案がある。場所を替えよう」


 痴話げんかと思ったのか、こちらをちらちら見ている客もいる。


 この悪目立ちしている空気。ぼっちには居たたまれない。オレも場所を変えるのは賛成だ。


それにしても厄介なのは、やはり二階堂の方か。



 商店街の広場。そこでオレ達は向かい合って立っていた。

 ソーイチローは、だるそうに、店の壁に背中を預け、ショーコはオレの手をつかんで離さない。

「提案っていうのは?」

 オレが二階堂に問いかける。交渉の相手はどうやら、こっちに移ったようだ。

「ソーイチローは勿論そうだが、オレも君達に仲間になってほしいと思っている。佐伯さん、正直俺の君に対する評価は高いし、国村さん、彼女の能力も惜しい」

「褒めていただいて恐縮ですが、それはありえないかと」

「そう。だから条件を出そう。これからソーイチローと君達でゲームをしてもらう。ゲームに勝ったらオレ達は君達の事は諦める。負けたら、オレ達の仲間になってほしい」

「条件が不利過ぎない?」

「たとえば佐伯さん、君が狙っていたように、無理やり交渉を決裂させても今後もソーイチローに付きまとわれる可能性があるだろう」

「オレをストーカーみたいに言うなよ」

ソーイチローは不機嫌そうに言う。

「この条件を飲んでくれたら、今後ソーイチローは君に付きまとわせない。オレが責任を持つ」

「信用できると思うか?」

「そこは信用してもらうしかない」

 二階堂は苦笑する。

「ゲームの内容は?」

「まあ、金曜日の夜と似た様なものだ。君達がソーイチローを倒したら君達の勝ち。逆ならソーイチローの勝ちだ」

「結局、力押しって事?」

「そうなるな、君たちは強いから」

 二階堂は言うと、ソーイチローに対して向き直る。

「これで良いな、ソーイチロー。君は二対一でも彼女たちに勝てると言っていたな」

「ああ、良いぜ」

 ソーイチローは低い声で言う。どうやら既にプッツンはしているようだ。行動に移さないのは、二階堂がいるせいか。


「君達が本当に危険になったら、俺の判断でゲームを止める」

 もともと、荒事になることは、覚悟の上だった。

 今後の安全を保障するとなると、反抗する気力を失うほど徹底的にやるしかいとも、覚悟を決めていた。二階堂を信用する部分が大きいとはいえ、このあたりで手を打つべきか。

 だが、ショーコを危険にさらすわけにはいかない。折角助け出したのだから。

「私はお姉さまと一緒に戦います!」

 そんなオレの気持ちが伝わったのか、ショーコは言う。

 これは決意を固めるしかなさそうだ。

 オレはショーコに頷くき、二階堂と、ソーイチローに向き直る。

「ああ、オレも了解した。このゲーム、受ける」



 いつの間にか、二階堂の腰に日本刀が下げられていた。

「ハッ!」

 気合と共に、彼は刀を抜き打つ。

 閃光。

 刀の軌跡は、空間を切り裂く。

破れた空間からまるで壁紙をはがすかのように、世界は一変する。


 廃墟になった商店街。

 ボロボロの壁。割れたガラス。ヒビの入ったアスファルト。点滅する薄暗い街灯。

 あれだけ賑やかだった商店街に、今は誰もいない。

 吹く風もどこか冷たく、早春から冬に戻ってしまったかのようだ。


 オレがオレでなくなった世界。

 この世界にオレは再び来た。

 オレがオレとして生きていくために。


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