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天使の翼  作者: コハ19
2/3

まだ、始まらない。


(1)


朝、布団から顔を出すと、やけに大きく、柔らかい声が下から聞こえてきた。 私は一瞬嫌そうな顔をして、すぐにその顔を戻す。

窓の外では会社に通勤するサラリーマンに、声の声量を間違っている小学生が道を歩いている。

私は、目覚まし時計を見た。

2027年 午前7時25分

中学生の時に買ってもらったこのデジタル時計は、その当時流行っていたキャラがプリントされている。私はこの時計を見て思う、何でこんなのが流行ってたんだろう。

凍える右手を布団から出し、起き上がろうと決意した。その瞬間、部屋のドアが勢いよく開き、あの声の主が現れた。

「ほら、彩乃ちゃん起きなさい。 もう美希ちゃんはご飯食べてるわよ」

「うん、わかってるよ、今から起きる」

私は右手で布団を足元まで降ろした。全身が凍える。

「あ、そうだ。 今日は学校お昼ないからパンはいらないし」

「はいはい、わかっています。もう美希ちゃんに聞いてますよ」

声の主は呆れたように言い、そばに置いてあった彩乃の制服を差し出してきた。制服のボタンが光の反射でまぶしい。

私はパジャマを脱ぎ捨て制服を受け取った。やけに重たく感じる。

「ミーはもう朝ごはん食べ終わっちゃた? 」

制服に足を通しながら声の主に聞いてみる。

「まだよ。美希ちゃんは朝起きるのは早いけどご飯食べるのは遅いから」

「よかった、一緒に学校行けるじゃん」

制服を着替え終え、近くに置いてあったシュシュで髪を結んだ。柄が入ったピンクのシュシュだ。

「それじゃ私はもう仕事に行きますからね。美希ちゃんにも伝いといてね。」

言い終わった声の主は、開けっ放しのドアから出て一階に降りて行った。階段の軋む音が彩乃の部屋にも響いてきた。


ここで声の主と美希について説明しておこう。声の主の本名は、山口敦子。敦子は彩乃のお母さんでも、美希のお母さんでもない。敦子は彩乃と美希の偽のお母さんだ。彩乃と美希は昔、実の母に捨てられた。その二人を引き取ったのが敦子だ。

彩乃と美希は実の双子ではないが、双子の様に扱われていた。本人たちも納得の上だ。



私は軋む音がする階段をおり切りリビングのドアをゆっくり開けた。生暖かい空気が顔に当たる。

「ミーちゃん、おはよー」

私は目の前の机でパンを食べている美希に向かって言った。美希を後ろから見ると何故かリスを思い出す。実に不思議だ。

「あ、おはようアヤちゃん。早くしないと学校遅れるよ」

後ろを振り向いて言ってくる美希の口元に、パンのカスが着いてる。とても可愛らしい。

「大丈夫だよ、awを使えば一瞬だよ。それよりもっと一大事な事があるの」

私は美希の顔に自分の顔を近づけ、美希の口元に着いているパンをキスして食べてあげる。何故かは分からないがとても美味しい気がする。

「ちょ、ちょっとやめてよ。恥ずかしいでしょ」

顔を真っ赤にしながら言ってくる。そんな美希を無視して私はもう一度、次は口元にキスをして、言った。

「私は恥ずかしくないもんね♪」

美希の目の前の椅子に座り、用意してあったパンを一口食べた。

「美希は恥ずかしいの、今度からやめてよね。それにawを使って学校に行くのはダメだからね。先生に怒られちゃうもん」

awを言う美希の声に違和感を少し感じる。

「大丈夫だよ、途中までだもん」

「だめ、ぜっっっっったいダメだからね」

絶対の言い方が可愛い。そんな事を思いながらawに着いてもう一度考えてみた。


awとは、angel,s wing の略だ。意味は天使の翼。その名の通り空を飛ぶことが出来る。しかし背中に付けるのではなく、足に付ける。いや履くと言った方が正しい。見た目はただの靴なのだが、かかとのボタンを押すと羽根みたいな物が、両端に出てくる。それで飛ぶことが出来る。しかし無限には飛べない、燃料がいるのだ。燃料はアーブライト鉱石の光らしい。一家に一週間に一つ国が提供している。一つの石で充電できる時間は、150時間分。awは一回の充電で24時間分、充電して飛ぶことができる。そのため一つの石でawを約6回、満タン充電が出来る。

awは高校生になると学校から貰える。彩乃たちはもう貰ってから、二年が経った。そう今は高校二年だ。高校ではawの乗り方を教えられる。ほとんどの人は一年かけて慣れていく。まぁ、たまには半年で完璧に乗れる人もいる。彩乃は一年が終わると同時に上手く乗れるようになった。しかしまだ上手い人に比べたら全然だ。

awを何に使うかは教えられない。しかも学校以外の場所では使用禁止だ。使用してるところを見つかると一週間使用禁止になる。



「やっぱり、使ってもばれないって」

私は玄関でawを履いている美希に言った。

「だめ、見つかったら怒られるもん。美希は怒られるがいやなの」

「大丈夫だって、そんな空中に浮かなきゃいいんだよ。歩いてる人と同じぐらいの高さで浮けばいいんだよ」

美希がawを履き終えたので、次は私が履き始める。美希は玄関のドアは開けずに彩乃が履き終わるのを待っている。

「だめ、アヤちゃんにそんな事できないもん。まだ上手く乗れ始めて三ヶ月ぐらいしか経ってないでしょ。絶対すっっっっっっごく高くに浮いちゃうもん」

「もう、そんなに下手じゃないもんね。………………でも、ミーちゃんがそこまで言うならやめとくよ」

「よろしーい」

私はawを履き終え立ち上がる。二人が玄関に立つと相当に狭い。手を上に上げなくては痴漢扱いされてしまう。

「でも、条件があるよ」

「条件?」

首を少し横に曲げた美希が聞いた。

「今日は私の布団で寝ること」

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