第八話《白い来客》
そこには白い傘。
そこには白い服。
そこには白い肌。
そこには白い短髪の少女が立っていた。
「暑いデスワー。やっぱり夏は嫌いデスワー。このセミの鳴き声……うるさいデスワー」
白いワンピースが夏のそよ風を受ける。この暑さにも関わらず少女は汗を一切流していない。
「私の勘に間違いはないデスワー。センサーがビビビ!と反応してますデスワー。さあ、早く見つけなさいデスワー。せーの!」
少女は傘を地面に立ててから手を離す。傘が倒れ、その先の方向を指差した。
「あっちねデスワー。早く会いたいデスワー」
傘が倒れた方向へ少女はテクテクと歩き出した。
―――
――
―
「は!嫌な予感が!」
箱娘は一瞬ブルッと体を震わせながら公園のブランコで遊んでいた。
「おい、もう帰ろうぜ!よくブランコ一つでそんなに遊べるよな。俺は飽きてしまった」
「中原にはこのブランコの楽しさが分からないのか!揺れれば揺れるほどこの体に風を感じさせる事が出来るのだぞ!」
こいつは風を感じて何が楽しいのだろう?
やはり頭の中はお子様レベルだな。
「俺帰っていい?」
「ダメだ!私は風を感じつくすまで帰らないぞ!そうだ!私は風!風なのだああああ!!」
やめてくれ!恥ずかしいから!チョー恥ずかしいから!
「バカな事を言ってないで帰るぞ!もう二時間近くブランコで遊んでるだけじゃん。お昼にもなるし家に戻って早く飯を食べようぜ」
「知らん!!私は風だああああああ!!私は風なのだああああ!!私は飯なのだああああ!!いや、風なのだああああ!!」
頭の中で飯と格闘してるなこいつ。
「風だああああああ!!飯だああああああ!!風だああああああ!!飯だああああああ!!風だああああああ!!飯だああああああ!!く!負けてしまった。よし、飯にしよう」
あ、飯が勝った。
「ほら、帰るぞ」
「む――、風飯『かぜめし』だああああああ!!」
合体しちゃったよ!
「よしよし、分かったから帰るぞ」
「む――、風飯『かざめし』だああああああ!!」
読み方が変わっただけじゃねーか!
「む――、風飯『ふうめし……」
「この終わりがない会話はいつまでやるんですかああああ!!」
「む――、ツッコミが遅いぞ!だから中原のお腹はプヨプヨなのだよ」
プヨプヨ関係ねーし!お前、世の中のプヨプヨをなめるなよ!
【三十分後……】
家に帰り、冷蔵庫で冷やしといたスイカをむさぼり食う箱娘。
しかし昼食にスイカだけとは……。
あ!俺はちゃんとした昼食を食べています。レトルトのカレーで作ったカレーライスです。ご飯だけ炊きました。
「おい、箱娘。カレーは食べないのか?」
「今日はスイカの気分♪」
いや、気分って何だよ。スイカを食べるのは今日が初めてのくせに。
箱娘はスイカの果汁でテーブルをグチョグョにしながらご満悦の様子。
「ふふふ、種を口から飛ばしながら食べるのがスイカに対してのエチケットなのだよ!……と、誰かに聞いたような聞かなかったような……」
何のエチケット?こいつ、エチケットの意味を分かって言ってるのか!
箱娘はそう言いながらスイカの種を部屋中に飛ばしまくる。
「おい、やめろ!外でやれよ!部屋がお前の種マシンガンで汚れる!……ぎぇー!俺のカレーライスにお前の唾液まみれの種がああああ!!」
「ふ、哀れなり」
「そーとーでーやれええええ!!」
俺は箱娘をつまみだし外に放り投げた。
「ああああ!私のスイカがああああ、地面にダイブしたああああ!私のスイカが……私のスイカが……よくも私のスイカを……殺す」
俺に放り出されて地面に横たわっていた箱娘が殺気を全身に纏いユラユラと近づいて来る。
「え!俺が悪いの?俺が悪いの?」
「うふふ、殺します」
「恐い恐い恐い恐い恐い!目がいっちゃってるよ……ってギャアアアアアアア!!」
箱娘は俺の股間に狙いをさだめて最大級の威力で前蹴りを放った。
「り、り、り、理不尽……だ」
俺……天国に行ってきまーす……ガク……
箱娘はご機嫌がななめのままどこかへ行ってしまった。
おい!俺を冷たい地面の上に放置するな!……ああ、意識が……みなさん……さようなら。
―――
――
―
「うーん、助けてくれええええ!理不尽だああああああ!……は!」
夢にうなされながら俺は目を覚ました。
そして俺は唖然としてしまう。
だって……だってだよ。
俺の顔の近くに知らない少女が顔を覗かせているんだもん。
いやいやいや近い近い近い近い、顔が近いよー。
「あ、やっと目を覚ましましたデスワー。あんな場所で寝ているなんてバカなの?デスワー。もう爆笑の大爆笑デスワー」
「えーと、とりあえず、家まで運んでくれてありがとう。そしてあなたは誰ですか?」
肌は透き通るように白く、髪は短めだが髪色もこれまた白い。少女の横には小さい白い傘が置かれていた。体型は箱娘とたいして変わらないな。
天使か!天使が舞い降りて来たのか!
「私ですか?デスワー。私の名前は白雪『しらゆき』デスワー」
ツッコミどころが満載な名前なんだけど!
夏にその名前を聞くと凄い違和感があるな!
「あのー、えーと、そのー、白雪ちゃん。見ない顔だけど……」
「それは当たり前デスワー。だって初対面なんだからデスワー」
白雪はそう言うといきなり立ち上がり周りをキョロキョロ見渡し始めた。
「どうしたのかな?何か捜し物?」
「あいつはどこにいるの?デスワー。」
「あいつ?えーと誰のこと……」
「あ―――!白雪、何であんたがここにいるのよ!」
俺の言葉を遮り、いつの間にか俺の後ろにいた箱娘が叫び出した。
「あ、箱娘デスワー!やっと会えたデスワー!」
え?え?え?箱娘の知り合い?
「おい、箱娘。白雪ちゃんを知ってるのか?」
「当たり前だよ!だって私の妹だもん」
え―――――――――!!マジっすか!!
―――ユラユラと白が舞う。
―――ユラユラと雪が舞う。
―――ユラユラと私が舞う。
◆粉のような
◆ 私自信が
◆あなたを捜しに私は舞う
◆あいたいと
◆会いたいと
◆逢いたいと
◆願いがようやく
◆叶いました