第七話《公園のブランコはハイテクではないらしい》
今日、中原は仕事に行っています。
よって私、箱娘は今とっても暇です。
こんな小屋の家に一人いてもやる事がないので私は外に出ています。
近くに公園と言う遊び場を発見したので行ってみました。
子どもが二人、何やらブラブラと揺れている乗り物ではしゃいでいました。
「ねぇー、君達、それは何?」
『ブランコだよ。知らないの?おねいちゃん』
ほおー、ブランコと言うのか!何か面白そうだな。
『おねいちゃんも一緒にあちょぼー!』
小さい子どもが二人、兄とその妹が私の前にテクテクと歩いてきた。
しかしこんな場所にも子どもはいるんだねー。
「私の名前は箱娘です!!そのブランコに私も乗りたい!」
ブランコに座りいざ!ユラユラターイム!!
な!!揺れないぞ!!どうするんだ?どうしたらユラユラ動くんだ?
「……む!動かない」
私はブランコに座りながら色々考えてみた。
この時代の乗り物は全部ハイテクのはず!もしかして拒絶か!私を拒絶しているのか!
ああ、兄妹が痛い目で私を見ているぞ!!
「違うよ!こぎゅのよ」
妹のほうがブランコに乗って一生懸命説明している。兄のほうは後ろを向いてクスクス笑っていた。
「ぷぷ!箱おねいちゃんはブランコを知らないの?僕より全然大きいのに」
バカにされた!こんな小さい子にバカにされてしまった!こらえろ私!!
「ねぇ、僕。年上の人に向かって笑っちゃ駄目だぞー」
「僕、もう小学生三年生だもん!小学生は立派な大人だよ」
小学生?なんだそれは?その小学生って偉い人なのか?
「小学生ってなーに?」
「え!箱おねいちゃん!小学生を知らないの?ふふ、では教えてあげよう。小学生とは幼稚園という殻を破った者だけがなれる伝説の子どもなのだ!」
兄は自信満々に語っている。
すごい!そんなシステムがこの日本にあるのか!
子どもは進化をしているという事なのか!
「あー!おにいたんはうちょをちゅいてる!うちょは駄目よ」
妹が聞き取りにくいお子様言葉で反論している。
……って嘘だったのか!私はこんな子どもに嘘をつかれたのか!
「こら!せっかく面白い事になりそうだったのに。全く、だから三歳児はお子様なんだよ。僕は妹なんか大嫌いだよ」
「え!きらゃい!……ぐすん……え―――ん!おにいたんがいじめる―――!!」
む!妹の方が泣き出してしまったぞ!あわわ、どうしよう!どうしよう!
「あー、えーと、よし!おねいちゃんがビシっと叱ってあげるから泣かないで」
「……うん……あいがとぅ」
私は兄の前に立ちお説教を開始します。ふふ、これが年上パワーだぜ!!
「こら!妹を大嫌いとか言っちゃ駄目でしょ!あなたはお兄ちゃんなのよ。しっかり妹を守らないといけないの!」
よし!子どもに対して大人げないけどこれで大丈夫よね。
「黙れブス」
な!!子どもに、こんな子どもにブスって言われた。しかも真面目な顔で言われた。まっすぐな目で言われた。ううう、ブスって……言われた。
「うえええええん!ブスって言われたああああ」
あれ?なんで私が泣いてるんだろ?でも涙が出ちゃうよおおおお!ブスって心に突き刺さる言葉だよおおおお!
「わああああん!ブスって……ブスって言われたああああ!」
「え―――ん!!おにいたんがいじめぇるよおおおお!」
「ちょっ!泣くなよ。僕が悪かったよ。そんなに泣かないでよ。そんなに泣かれたら……そんなに……うわあああん!僕が悪かったよおおおお」
箱娘、兄、妹は、結局、十分ほど泣き続け和解しました。
めでたし!めでたし!
「……って勝手に終わるなよ。俺が仕事に行っている間になに泣かされてるの?しかも小学生の言葉によ!アホだろ!お前アホだろ!」
「いやー、今の子どもって強いねー。私を泣かすとはなかなか凄いぞ」
「家に帰ったらお前の目が充血していたからどうしたんだ?と思ったらただの泣き疲れとは……」
「むー、だって、ブスって言われたんだもん」
「仲直りしたんだろ。あと、ブスじゃねーよ。かなり可愛いぞお前」
「な!か、か、か、か、可愛いって言ったの?」
「そうだけど……は!いやいや好きとかじゃなくてただ、可愛いなと思っただけだよ。別に変な意味はないぞ!!」
中原は顔を真っ赤にしながらその場所から逃げてしまった。
―――
――
―
夜になり私は箱になり眠りにつく。
とても深い眠りの中で私はいつも同じ夢を見る。
「ザザ……ザザ……お前は……にん……ザザ………げん……ザザ……ない。ザザ……お前は……生まれ……て……ザザ……きてはいけない……存在……殺せ!!……殺せ!!殺してしまえ!!」
雑音が入りよく聞き取れない。誰かが私に向かい喋っている。最後の殺せとはどういう意味なの?
やめてよ!
怖いよ!
なんで殺すとか言うの?
この場所はどこ?
視界がぼやけて周りが見えないよ。
目の前に人がいっぱいいる事だけは分かる。
顔の様子は分からないけどとっても怒っているのは分かる。
「ザザ……殺せ!!ザザ……殺せ……ザザ……殺せええええ!!」
殺せという言葉だけがはっきりと聞こえる。
怖くて私は涙を流してしまう。
とても憎しみを抱いた声だった。
とても怒りを抱いた声だった。
とても……私が絶望する声だった。
その声を聞きたくないと私は耳をふさぐ。
そう、これは夢。夢の世界なんだ。私は何も悪い事をしていないんだから。
―――
――
―
「いやあああああ!!……はぁはぁ、またあの夢だ」
私は元の姿に戻っていた。もう朝らしい。
頭を抱えながら私はまだ寝ている中原の前に立つ。
頭はボサボサ、布団は剥いでる、でも、とっても幸せそう。
私はあなたを見ているだけで幸せです。
私はあなたの隣にいるだけで幸せです。
そう……とても幸せです。
「まだ……寝てる。ほんの少しだけでいいから一緒に寝ていいですか?ほんの少しでいいから私の隣にいて下さい」
まだ寝ている中原の布団に入り私はまた目を閉じた。
―――私は夢が嫌い。
―――私は夢が憎い。
―――私は夢なんか見たくない。
【だって夢では嫌な事でも見続けないとダメだから】
―――だから夢は無でいいの。
―――だから夢は黒でいいの。
―――そうすれば怖い夢は見れないのだから。
【その代償に幸せな夢が潰れたとしても】
―――だって私は……幸せな夢を見る権利がないのだから。
―――でも権利がなくても、たまに見る幸せな夢くらいは……とても幸福な時間でありたいです。