第六話《お風呂!!》
箱娘は夜になると黒い箱に戻ってしまう。なので入浴する時間は夕方の16時くらいと少し早めである。
この住まいにはちゃんとお風呂もある。電気、ガス、水も一応通っているので暮らしに不便は特にない。お風呂も昭和時代のガス風呂で、種火を点けお湯を沸かします。
そして、箱娘は今入浴中。
「む!やっぱり石鹸ってあの四角い白い食べ物に似ている!……美味しそう」
お風呂の中から箱娘のいじきたない声が聞こえる。
「おい、食うなよ!石鹸食うなよ!」
俺は大きな声で箱娘に向かい声をあげる。
「分かってるわよ……でも……美味しそう……」
本当に分かってるのか?石鹸なんか食べたら口から泡がブクブク溢れるぞ。
「よいしょ。ふー、生き返るー」
どうやらお風呂に浸かったらしい。
「おい、箱娘。ちょっと出掛けてくるから変な事するなよ」
「はーい。でもどこに行くの?」
「寺の住職さんに今週の仕事代を貰ってくるから。すぐ帰るよ……じゃあいってくるぞ」
「ふーん。いってらっしゃい」
……は!……と言う事は今は私一人。この小屋にたった一人。やったああああ!うるさい中原がいないぞ。お風呂から出たら一人で夕食だぞ!
ザバーン
よし!お風呂から出ていざ台所へ!
「えーと、カップラーメンは……あれ?ないぞ。こっちは……ない。こっちも……ない。前に商店街で大量購入していたのを見たのに。もしかして……全部中原が食べたのか!」
あわわ。せっかくのチャンスなのに。どこかに隠したな!こうなったら絶対見つけてやる。
「うーん、台所にはない。じゃあ、どこだ?こんな狭い小屋に隠す場所は少ないし……」
こうなったら全部を捜索してやるぜ!!
あっちか!こっちか!いや、そっかあああ!
うぬぬ、ないぞ。なぜだ!なぜないのだ!
私は余計に腹がへってきたぞ!
あ!そうだ。そういえば外に小さい物置小屋があったぞ。まさかそこではないのか。よし、行ってみよう。
「えーと」
ガチャガチャ
「うわ!蜘蛛!はあー、びっくりしたぞ」
ガチャガチャ
「これは……なんだ?えーと、なんかいっぱい裸の女性がいるぞ。……まあーいいや」
ガチャガチャ
「お!あったぞ。美味なカップラーメンがあったぞ。一、二、三、四、五……たったの五つだけか。いったいほかのカップラーメンはどこにあるんだ!……でもお腹空いたし早く食べよう」
私はカップラーメンの袋を持ち小屋の中に入ろうとする。
すると……目の前に中原が立っていた。しかもびっくりしたような目で私を見ていた。
「どうだ!中原。カップラーメンを五つだけだが無事見つけたぞ!《隠しても》無駄だったな」
その私の言葉に中原は凄い勢いで言い返してきた。
「お前が《隠せよ》!!」
何を言ってるんだ?中原はたまに意味が分からないぞ。
「服だよ!服。服をなぜ着ていないんだバカヤロー!!」
服?そういえばお風呂から出てカップラーメンの事で頭がいっぱいになって………それから……
私は自分の体を見て全てを悟った。
「いやあああああああああああああああ!!」
―――
――
―
「し、死ぬほど恥ずかしい」
箱娘は黒いワンピースを着て顔を真っ赤にしている。
「まあ、自業自得だな。これに懲りたら変な事は考えない事だ」
俺は畳を持ち上げその下に隠してあったカップラーメンを箱娘に渡す。
「あ――!!残りはそんな場所に!!」
「目の見える場所にあったらお前が全部食べちゃうからな。俺に隙はないぜ」
箱娘が何かキィーキィー文句を言っているが俺は無視をします。全くお子様だぜ。
「そういえば箱娘。お前の体を見て何か違和感があったんだが……」
「人の体を見といて何言ってるの?……今死んでみる?」
やべ!こわい!殺気が俺に向けられている!
「いや、ごめん。なんか……ちょっと違和感があったような気がしたんだけど……気のせいだな」
その俺の言葉に箱娘はピクリと体を動かす。明らかに動揺しており顔色も少し悪そうに見える。
「どうした?箱娘」
「……別に……なんでもないわ。早く夕食を食べましょう」
「お、おう!そうだな」
何かを隠している反応だがもうこれ以上は何も言わないでおこう。
だけど……確かに箱娘の体を見た時、何かがおかしかったのは覚えている。慌てて目をそらしたから記憶は薄いんだよな。
「私はこの《カップラーメン。血飛沫味》を食べるわ」
変な味のカップラーメンをチョイスしたな。なんだよ!《血飛沫》って。グロいんだけど!原材料が気になるよ。………あ!よく考えたら買ったのは俺じゃん。
「ねえ中原」
「何だ?」
「………私ね………今……幸せだよ」
何だ?何を急に変な事を言ってるんだ?
「おい。気持ち悪いんだけど。いきなりどうしたんだ?」
箱娘は少し悲しい表情で俺を見る。それは何かを悟ったような表情にも見える。
「別に何でもないわ。私は……ただ幸せでよかったと思っただけ……ごめんなさい。変な事を言って。さぁ、カップラーメン♪カップラーメン♪」
なんだろう?あと少しでとても悲しい事が起きようとしているみたいだ。箱娘のあの目は怯えている目だ。決心した目だ。そして……全てをあきらめた目だった。
「ズルズル……お!血飛沫味。これは……美味だぞ!トマト味だぞ!中原も食べるか!」
「そうだな。じゃあ少しもらうよ」
そしてまた笑顔が戻った。この笑顔の裏にいったい何があるんだろう。だが、今は箱娘は笑っている。箱娘が楽しく微笑むなら俺はその微笑みを受け止めてやろう。
「お!トマトケチャップか!なかなか美味いな」
「やっぱりカップラーメンは美味!」
口を真っ赤にしながらスープを飲み干す箱娘だった。