第一話《黒い箱の少女》
俺の名前は中原勇。「なかはらいさむ」
年齢は二十五歳のフリーターで住んでいる場所は周りを山々に囲まれたドがつくほどの田舎である。服は金がないので昔の古着を使っている。
だがこれが俺には合っているんだ。
たまにあるバイトは近くの古い寺の清掃くらい。
人は滅多に来ないので俺は好きだ。いるとしたら住職くらいか。
家と呼べるか分からないが一応ボロ小屋にすんでいる。住職の人が無料で貸してくれると言うんだから文句は言えない。
だが今の時代にぼっとん便所ときた。夜、トイレに行く時なんかガクガクのブルブルだっつーの。
そんな生活がだらだらと過ぎ、半年が経った。
今日から七月、本格的な夏が始まってしまう。
「そういえばこのボロ小屋、そろそろ掃除でもするか。どうせ暇だし」
畳の上には俺の古着の山々、トイレはカビだらけ、押し入れはまだ開けた事もなかった。
「そういえばあの押し入れって、なんかこう……不気味で手をつけてなかったな。今は真昼!お化けなんか怖くない」
ホラーが苦手な俺は勇気を持って押し入れのドアを開ける。
「なんだ。何もないじゃん……ん?何だあれ?」
押し入れの一番隅っこにポツンと小さい黒い箱が置かれていた。
俺はその箱を取り開けようとするが開かない。どうや鍵が掛かっているようだ。
この黒い箱、何の箱か見当がつかない。形はそうだな、ティッシュペーパーの箱に似ている。
だが周りは金属でカチカチでしかも全く開かない。
俺は興味が失せ、その箱を押し入れに投げ入れた。
そして後ろを向いたその時、俺は変な声を聞いた。
「あなたが……私を……」
確かに少女の声だった。しかも押し入れの中から聞こえたので恐る恐る振り向いてみた。
「な!!」
口が開けっ放しになってしまった。
だってそこには黒いワンピースを纏った長髪の少女がいたのだから。
「ここ……どこ?……あなた……誰?」
ボソボソと呟くその少女はゆっくりと押し入れから出てきた。ちっこいな…小学生くらいか?
「……………いや!お前のほうこそ誰だよ!」
俺には理解が出来なかった。だってさっきまで誰もいなかった場所に人がいるんだぜ。しかも押し入れに…
「私は……箱……」
箱?何を言っているんだこいつは?いや、待てよ。そういえばよく見ると押し入れに投げ捨てた黒い箱がないんだけど。
「え?まさか……あの……黒い箱さんですか?」
少女はコクリと首を傾ける。
そして、俺の方へ近づき口を開く。
「今は太陽……出ていますか?」
「ああ、出てるよ。今は昼だからね」
「そう……ですか。よかった」
少女はそう言い終えると瞳から涙を流した。