02
家に帰ろうかな、と思ったのも一瞬。
どうせあのオバサンがいる。タカオの母が出て行ってから半年もしないうちに家に来た新しいハハオヤ。年齢は兄貴ときょうだいだと言ってもおかしくない程度の開きしかない。
彼女自身はそれほど嫌いな感じではない、むしろ町なかで会って顔見知りになったら、十分好感のもてる、明るいタイプだ。
しかしあのオヤジの妻というところが許せない。
家に帰るのはやめた。
しかたなく、大川の方へとチャリを向ける。
しばらく河川敷で、グランドゴルフをする老人たちをぼんやりと見物していた。
そのうち飽きてきて、なだらかなコンクリートの斜面に長々と寝転ぶ。
九月の風が気持ちいい。もう秋になるのか。そんなことをぼんやり考えた。
こういう場所に、普通はカノジョとかと来るんだよな。二人で並んで座っちゃってさ。自分がそうしている所なんて、想像できない。第一片想いだしな。
彼女ができて、いつかは結婚なんかもするんだろうか? その前にちゃんと就職できているのかな?
未来は全く、見えてこない。
あんな家庭にいるのだから、余計に将来は暗いような気もする。
何を選んでも、オヤジを満足させることはできないのだ。どんな女性を選んでも、どんな家庭を持っても同じだろう。結局、そこに行きついてしまう。
ああだこうだ考えているうちに、いつの間にか寝てしまったらしい。気がつくと日はかなり高くなっていた。
起き上がってほこりをはたき、あたりをうかがう。
グランドゴルフはまだ、続いていた。しかしもう興味も失せたし、どうしよう。
やっぱり、不良化するにはもう少し刺激のある場所に入るべきかな。
土手の向こうに、新しいパチンコ屋が見えた。車がかなり入っているところをみると、すでに開店しているようだ。
彼は、のろのろとその店へと向かった。
店内に入るとすぐ、当然のように店員から声をかけられた。
「なに? キミどうしたの?」
当たり前だ。いくら白いワイシャツだと言っても制服だし。
「……あの、」言い訳も用意していた。
「母を探しにきました。家で急用があるって」
ふうん、と店員はざっと店内を見渡してから彼に探すよう手でうながした。
おそるおそる、探しているフリをしながら彼は通路から通路へと歩いていく。
何人かは、どうしてこんな所に子どもがいる? みたいな目つきでタカオの方をじろりと見たが、ほとんどの人間は目の前の極彩色の世界に没頭していた。
すごい騒音で、耳がどうにかなりそうだ。朝っぱらから繰り広げられるにはタカオにはかなり、濃い光景だった。煙草のきつい匂いで目が痛くなる。大人はよくこんな所に何時間もいられるもんだ、最後の方は、半分小走りで回り、ようやく出口にたどり着く。
すでに後ろを向いていた店員に「いませんでした」と声をかけ、走って外に出る。
ああ、空気がうまい、と何度か深呼吸する。店舗の隣にある立体駐車場脇、チャリを置いた駐輪スペースに戻って、しばらくぼおっと店の方を見ていた。
急に、後ろから声をかけられた。
「おい」
ぱっとふり向くと、案外小柄で、筋張ったような感じの男がにやにやしながらすぐそばに近づいていた。
「オレ、覚えてない? ホラ、よく会った……」
「はい……?」親戚にこんなのいたかな?
髪はかなり短く、よく見ると毛先が細かく丸まっている。赤っぽいシャツは化繊なのかペラっとした半袖だった。
「覚えてないかぁ? そうか?」
愛想よく笑いながら、体を揺らしている。