06
「手を前について……できるじゃん」
彼は手を冷たい路面につけたまま、彼らの顔をひとつずつ見た。
「あとは、『ごめんなさい』だな」
「いや、『お許しください』かな」コイツ、一人でバイクに乗っていたヤツが使えるか。
タカオはその、少しだけ気弱な男に向かってキーを発した。
「ショウタはいつも仲間外れだ」
その男は、翔太という名前だった。小学校時代はずっといじめられていた。光景が急に、目の前にみえたのだ。
ショウタはぎくっとなって、目を見開いた。白目が赤く充血している。
タカオの中に、ドロドロとした思念がどっと流れ込んできた。まずい、吐きそうだ。ここをぐっとこらえる。
脇にいたリーダーが彼の背中に足をかけたまま、不審げな顔をショウタに向けた。
「知り合いか? コイツ」
「いや……」ショウタの意識はいまや、タカオにがっちりと食いつかれていた。
「仲間、はずれ……」
「ショウタ」タカオがかすれた声で、しかしはっきりと言った。
「オレを助けてくれ、コイツらを追っ払え」
「何言ってやがる」もう一人がタカオの頭に手をかけようとした時、
「やめろぉ」ショウタが突然、彼に掴みかかった。
「この人を離せ」
リーダーもあっけにとられて思わず背中に乗せた足を外した。
その瞬間をねらって、タカオはついた手をバネにしてぱっとはね起きた。
「こいつ……」そのリーダーにも、ショウタは蹴りを入れていた。
「やめろ、ケンジ!オレ、オレ」蹴りながら泣きそうな声を出す。
「何するか分かんねえ! やめてくれよぉ」
「ショウタ、どうしたんだよ」まさか彼が攻撃してくるとは思っていなかったらしく、二人は次の行動にちゅうちょした。その隙にタカオはだっ、とチャリに向かってダッシュ。同時にショウタは、バイクに走っていって、二台ともキーを抜いて道路の向こうに放り投げた。
「あっ」何しやがる! 気でもふれたのか? と仲間割れの彼らを後に、タカオは必死で逃げた。頭がガンガンした。目の前が暗い。しかし、足だけは力強く、前に向かっていた。
確かめられるだろうか? 間に合うだろうか? それだけがペダルに合わせてぐるぐると回っていた。
病院に着いた時には、すでに父親は息を引き取っていた。間に合わなかった。




