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01

 オヤジなんか早くシネバイイ、タカオの頭の中はそのフレーズで一杯だった。


 むしゃくしゃしたまま、学校に向かう。

 そんな時に限って、自転車のハンドルが少し曲がっているのが気になったり。

 どっかのバアサンにぶつかりそうになって、怒られたり。


 ひと暴れしてやりたい、シイナ・タカオ。現在高校二年生。


 わるい目つきで、商店街を見渡す。

 だあれも絡んでくれそうな人は通りかからない。

 元はと言えば、そんな目つきをさせたのは、いつものように父だった。

「その目つき。オマエの母親とそっくりだ」

 朝も出がけに、憎々しげに言われた。

「探るような、スキあらば食いついてやろうみたいな、さもしい見方はやめろ」

 別にそういうつもりだったわけではない、と思う。

 今年大学を卒業して一流の企業に就職した長男をジマンしてたのでつい

「またかよ」

 と言ってしまっただけだ。きっと睨まれ、つい見返しただけなのだが。


 貴生と兄とは母親が違う。しかも六歳離れているのであまり共通点がない。

 のんびり屋でしかしいざという時にはちゃっかりしている兄の総一郎は、勉強も運動もそれなりにできて、人当たりもよく、父の自慢の息子だった。

 反対に、弟の自分はどうも要領が悪い。自分ではがんばっているつもりなのに、あまり認めてもらえたことがない。


 昨夜は宿題もほとんどしていなかった。

 せっかくオヤジを見返すために、中三の後半からがむしゃらに勉強してオヤジと兄の出身校に入ったというのに(中三の時の担任からは、奇跡か何かの間違いだと言われた)、勉強にはロクについていけていない。

 それでもいつも一通り宿題はするのだが、ゆうべも食事の時にオヤジからグダグダ言われたせいで一人むかついて早く寝てしまったのだ。

 この高校に入学した時は、

「椎名の息子なら当然だろう」

 と少しは認めてくれた、というか微妙な言い方をしていたオヤジも、近頃では

「どんなに金を積んでも、オマエみたいなクズを入れる全うな大学なぞない」

 とまで言うようになったし。

 マットウな大学って何だよ、アンタの出たような某有名国立大か? そう叫んでやりたいのをその時もタカオはぐっと呑み込んでいた。

 がんばって今から勉強して、立派な大学に入ったとしてもその後はまた一流企業にでも入らなければ、オヤジは認めないだろう。

 ならばいっそ、このままドロップアウトしてクズはクズらしく面白おかしく暮らしてやろうか。

 急に学校に行く気が失せた。今までにないくらい強い衝動がおこる。

 彼は、大通りとの交差点に佇み、右に見えてきた学校を眺めた。

 いつもの校舎にいつものグラウンド。特にイヤなこともなく、休んだことのない学校だが、なぜかそれ以上足が進まない。彼は、左折して大通りをまっすぐ下っていった。

 それでも根が几帳面な彼、途中で公衆電話をみつけて学校に電話。

 すみません、熱があって休みます、と担任に伝えると人のいい中年男は

「……そうか、今日はゆっくり寝てろよ」と言ってから不思議そうに

「外にいるのか?」と聞くので

「病院に行く途中です」とあわてて付け足した。

「そうか、」あっさり引き下がるかと思っていたら

「どこの病院に行くんだ?」ついでのようだったがまさかの質問。

「あ、あの」ちょうど電信柱にあった看板を読む。

「ミシマクリニック」

「えっ」担任は意外そうな声を出す。

「産婦人科じゃ、なかったっけ? ミシマさんって」

「い、いえ」本当に熱が出てきたくらい、顔が熱くなる。

「内科もあるらしいです」

 そうか、と担任、特に悪気のあるふうでもなく

「じゃあお大事に」と電話を切ってくれた。


 ボックスから出て、タカオはようやくすがすがしい気分になった。

 さてどうしよう。


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