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世界を変える方法  作者: 朔月悠
‐1章‐ 崖下の街
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‐1章‐ 崖下の街

人間とは順応性が高い生き物だ。

誰かが言った言葉を、リオルド・ダリオンは身を持って感じていた。


崖上からここ崖下に落ち、シオンと出会って早くも3年が経ってしまっていた。


始めこそ、違和感を感じていたこともそういうものだと納得し、今では何も思わない。

勿論、シオンに言った”宣言”を諦めるつもりは毛頭なく、今なお決意は揺るがない。

「はぁ・・・」

リオルドは四角い建物の上でごろんと空を見上げる。

崖上から500メートルも下にある崖下から空を見上げると、どうしても視界に岩肌が入ってしまうが、空は雲1つない快晴。

もっとも、この国があるのは砂漠のど真ん中。雨季でもない限り、空に雲が浮かぶことはない。

「はぁ・・・」

再び溜め息が漏れる。

3年前、この国を、ひいては世界を変えると宣言したはいいが、その活動は難航していた。

まず、当時のリオルドが考えたのは人を集めること。

どんなときだって人間は何かをやり遂げるとき、大勢の人間が同じ目的で動いてきた。

そう思い、仲間探しを始めたが・・・結果は散々。

この崖下の無法地帯ぶりから、今より良くなることを言えば案外うまくいくと思っていた。

ところが、問題は根本的なところにあった。

荷物運びの仕事で崖下の街をあちらこちら回り、それだけ多くの人を説得した。

大人も子どもも見境なく声をかけてきた。

それでわかったのは、今の生活の質云々ではなく、崖上がどんなに裕福か知らないことだった。

知らないことをイメージし、夢みることはできない。

結果、リオルドの話はどうしても現実味がなく、相手にされなかった。

ならばと、同じ年代、子どもに話をしてみたが、そもそもこの高い崖の上に街があることも知らないことが多かった。

確かに、崖下から崖上の街が見えるわけではなく、ただただ岩肌だけがあるだけだから教えられなければ街があると気づくことはないだろう。

何がどうで、これがこうなると詳しく生活がこう変わると言っても、真面目に考えてくれる人はいない。

自分しか知らないことを他人に伝えるのはなんと難しいことか。

「またこんなところにいたのか。」

ざり、と砂を踏む音がして、リオルドの隣に、白髪の青年が屈みこむ。

目深にフードを被っていて顔が見ずらいが、こんなところを砂を踏む音だけで来れるのは1人しか知らない。

「仕事はもういいのか?」

リオルドは上体をお越し、青年、シオンに目をやる。

シオンは頷く。

ここ3年でシオンはその異常な身体能力を買われ、今では荷物運び以外にも酒場や娯楽施設が集まっている商館の用心棒をしている。何事にも無関心で言われたことを淡々とこなすためか、最近ではもっぱらそっちの仕事をしていることが多い。

ちなみに、このシオンがリオルドの仲間第1号だ。

当然の流れといえば流れだが、3年前の宣言をしたとき、シオンに鼻で笑われたことはリオルドの中で根強く残っている。

ある種のやけといってもいい。

とにかく、やる気のないシオンをどうにかしてやる気を出されることが今のリオルドの活動の目標だ。

2人はともに、乗っていた建物の上から飛び降りる。

結構な高さがあり、リオルドは地面に手をついて衝撃を和らげたが、隣に降りたシオンは階段でも下りたかのような軽さで着地する。

こういうとき、リオルドはなんともいえない悔しさがこみ上げる。

同じくらいの年で、リオルドよりも多少背が高いだけなのにこの力の差はなんだろうかと思う。

荷物運びなんてやっているリオルドも同年代と比べると力はある方だ。

それでもシオンの力はそれの比ではない。

そんな気持ちをこめて視線をシオンに送るが、気を止める様子もなくさっさと歩きだす。

今回に限ったことではないので、リオルドも気にせずシオンに続く。

もうじき日が沈む。


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