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世界を変える方法  作者: 朔月悠
‐序章‐ 上から降ってきた少年
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‐序章‐ 上から降ってきた少年 04

子どもは意外に早起きだった。

わずかに目の下に隈ができているから、早起きというより、寝付けなかっただけもしれない。

「…お前、よく寝れるな。」

まるで信じられない、と言いたげな表情でそんなことを言われる。

座って睡眠を取るのは慣れたものだ。

何より横になっているとすぐには動けない。

「足はどうだ?」

と、子どもの足に巻いていた腰布を外す。

・・・水で濡らした程度では、やはりというかそこまでよくはなっていなかった。

立つ分には問題なさそうだが、走るのは厳しいだろう。

「・・・行くのか?」

子どもが不安げな声で聞く。

持っていた水を再び腰布で湿らせ、再び巻きなおす。

「ここにいても腹が空くだけだ。」

手を出して、子どもを助け起こす。

そして、子どもを引き寄せ、抱えようと腕を伸ばした時、

「待った待った!頼むから姫様抱っこはやめろ!」

・・・姫様・・・

「お前男だろ。」

「その男を横抱きにするなってんの!」

なんつーか、いろいろ傷つくんだよ!!と喚く。

子どもの体勢的に楽な方法だと思ったのだが、不満らしい。

仕方なく、肩に担ぎあげたり、脇に抱えたりしたが・・・

「荷物みたいに扱うな!」

・・・結局、背中に背負うことで落ち着いた。


一夜を過ごした建物から居住区はそう遠くはない。

その区内でもっとも人が集まる市場に子どもを連れてきた。

市場には、最近ゴミが降ってきたために物が溢れている。

「ずいぶんにぎやかなんだな。」

子どもがそう言うように、あちらこちらから物を宣伝する声が上がっている。

きょろきょろとしている子どもをよそに、一軒の店に入った。

「よう、来たか。」

入るなり、店主の老人に声をかけられる。

「後ろの坊主はなんだ?」

当たり前といえば、当たり前だが、背に背負った子どもを指された。

「拾った。それより仕事はあるか?」

「あぁ、丁度お前を待っていたところだ。」

店主はそれ以上子どもに興味を持つことなく、仕事の話を始めた。

「今回は、ここら一体の荷物を頼む。」

と店主が腕を振ったあたりに目を向ける。

見たところ、大きな箱の中に大きなロボットが2体、小ぶりなのが5体ある。

「オイル?」

「そうだ。」

店主の返事を聞いて、一度子どもを降ろし、近くに会った椅子に座らせる。

まずは、重さを確認する。

さすがに大きな箱そのままは無理なので、3つに分ける。

大きいロボットが入った方を肩に、その上に3体の小型ロボットを積み上げる。

残りは脇に抱える。

「おい。」

「オレ?」

目線を向けると、何やら店主と話していたらしい子どもが自分を指す。

「お前以外に誰がいる。」

「”おい”なんて言われても、誰を呼んでいるかわからね、ってちょっと。」

子どもを脇に抱える箱の中に入れる。

その箱を持ち上げ、店主に振り返る。

「いつもの用意してくれ。」

「おお。」

力がないが返事を聞くと、店を出た。

脇からきゃんきゃんと喚く声がするが、来た時見たく背負うことができないのだから仕方ないだろう。

そのまま通りを歩く。

いつも以上に目線が集まっているのは、脇に抱えた子どものせいだ。

あまり大声で喚かれると、咽を痛めるうえに水が欲しくなる。

案の定、しばらくすると水!と言い出したので、ベルトにある水袋をとれと返す。

水を飲んで落ち着いたのか、ごそごそ動いて楽な体制を作ったようだ。

「・・・ところでさ、お前名前は?」

大人しくなったと思ったが、そうでもないらしい。

「オレ、リオルド=ガートナー。だから、もうおいとか呼ぶなよ。」

「そう。」

とりあえず、返事を返す。

「あの、名前は?」

返事だけで黙ったので、リオルドが再度聞いてくる。

「ない。」

それにいつものように答えると、毎回のようにリオルドは顔を顰めた。

「ないって、家族とかいないのか?」

「いない。」

すると、リオルドの表情が戸惑いに変わった。

今の言葉に戸惑うところがあっただろうかと、思案する。

名前がないのはここでは珍しくない。特に会話にも不便もない。

それでも、リオルドにとってはよほど深刻なことらしかった。

「ごめん。」

だから、リオルドが何に謝ったのかわからない。

それっきりリオルドは黙りこんでしまった。

体調が悪くなったわけではなく、落ち込んでいるだけのようだったので、自分もこれ以上声をかけることはなかった。

そのまま互いに口を開くことなく、目的地にたどり着く。

「オイルはいるか?」

大きなシャッターをくぐる。

そうして、今まで抱えてきた荷物を、奥から出てきたオイルに渡す。

「オイルって人だったんだ・・・」

沈んだ声でリオルドが呟く。

「機械を扱っているためか、いつでもオイル臭いからそう呼ばれるようなった。」

そう答えると、再びリオルドは黙りこむ。

ただ今度は落ち込んでいるというより考えている様子だ。

当のオイルは運んだロボットに目を輝かせている。

「いつもありがとう!これが代金ね!」

興奮して赤い顔で渡されたのは、重さからして工具だ。

ちなみにこれは自分に、ではなく、店主に、だ。

「胸に抱え込むように持て、いくぞ。」

その工具が入った袋をリオルドに渡すと、リオルド本人を背負う。

行きとは異なり、小走りで店主の元に帰る。

「なぁ、代金ってこれ?」

リオルドが抱きこむように持っている工具を指す。

「俺のじゃない、店主のだ。」

「あ、そうなんだ。でもこれお金じゃないよね?」

・・・時折リオルドが何を言いたいのかわからなくなる。

黙り込んでいると、リオルドも焦り出す。

「オレ、そんなおかしなこと言った?」

「物が欲しければ、別の物で支払うのが基本だ。」

とりあえず、そう答える。

リオルドが何か言う前に、着いた店主の店に飛び込む。

行きのように荷物を積み上げていれば、荷物の下敷きになる可能性があるから取られる心配はないが、片手で持てるものは狙われやすい。

荷物を受け取ったときと同じところにリオルドを座らせて、預かっていた工具入りの袋を店主に渡す。

そして、代わりに、食料が入った袋を渡された。

「また、頼むぞ。」

「わかった。」

短い会話を終わらせ、リオルドを連れて店を出る。

そして、リオルドを背負い、人気の少ないところに移動してから、袋を開ける。

今回は、パンだ。

リオルドが店主に何か行ったのか、2人分入っていた。

「これが、俺達の代金だ。」

と、リオルドにパンを渡す。

パンをみたとたん、リオルドの腹が盛大になる。

「あ、ありがとう…」

顔を赤くさせながら受け取り、パンにかじりつく。

一口食べると、すごい勢いで食べ始める。

思えば、リオルドも昨日から何も食べていない状態だ。

今まで何も言わなかったのは落ちたショックだろうか・・・

「なぁ、ここには紙幣とか、コインとかないのか?」

パンを1つ食べ終えたところで、リオルドが口を開いた。

「それが”お金”と言うやつか?」

先ほど言っていたリオルドの言葉を思い出しつつ確認する。

「そうなんだけど・・・物々交換なんて今時珍しいというか…」

「リオルドは珍しいかもしれないが、ここではそれが当たり前だ。物なんて拾うか交換するかがここで生きて行く基本だ。」

最後のパンの一欠片を口に納めて立ち上がる。

リオルドを助け起こしながら、次の目的地を検討する。

やらなければならないことは山のようにあるのだ。


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