‐1章‐ 崖下の街 06
アイザスは、商館を突っ切るようにある大通りにある。
小さな店が多いなか、アイザスはそこそこの大きさがあり、見つけるのは難しくない。
リオルドはなんとか大通りにシオンが歩いていないかとキョロキョロと見渡していたが、残念ながら今、アイザスの扉の前にいる。
「はぁ・・・」
”OPEN”と書かれたプレートを見ながら溜め息を零す。
そして、意を決してドアノブを握った。
カラン、カラン
「「いらっしゃーい。」」
ドアにつけられているベルと、野太い声がリオルドを迎える。
この時点でリオルドは扉を閉めて逃げ出したい衝動に駆られたが、シオンのためと耐える。
「アラ、珍しいわ。リオじゃないの。」
「こ、こんにちは。」
リオルドに寄ってきたのは、この店のNo.2ホステスだ。
ぴったりとしたドレスを着ているために、みごとな筋肉の溝が出来上がっている。
一言で言ってしまえば、見事なマッチョ体系。
ただし、口調は先ほどの通りだ。
「ママさんいる?」
「ママなら奥よ。」
そう言って、親指で奥を指す。
「今丁度、別のお客さんがいるからすぐには無理だけど、しばらく待てば出てくるわ。」
「あ、ありがとう。」
リオルドはそうして薦められたカウンター席に座る。
アイザスは、いわゆるオカマバー。
店にいるホステスは女物の服を着ているが、店に女性特有の高い声はまったく聞こえない。
だが、リオルドは特に彼らに偏見があるわけではない。
それにここはただのバーではない。
リオルドのようにホステスと酒目的で、情報目当てに来店する者も少なくないのだ。
がちゃ、と扉が開く音がする。
入口の扉にはベルがついているから、先ほどのホステスが言っていた奥の扉が開く音だ。
「アイリーン!アイリーン!」
その扉から出てきたのは、これまた筋肉隆々の、おと、いやオカマだ。
アイリーンと呼ぶ声も、かなり低い。
先ほどリオルドに歩み寄ったホステスが扉に向かった。
「どうしたの?ママ。」
「どうしたもこうもないわ!こいつ、いい物があるからって言い募るからツケを許したのに、今更ガセネタだったとかぬかしやがって!」
ぶん!とおそらく引きずっていたらしい客を片手で放り投げる。
すでに奥の個室で痛めつけられたのか、テーブルに投げ出された客は一度バウンドして動かなくなった。
リオルドがおそるおそる見ると、顔はあざだらけだが、気絶しているだけらしい。
「全く腹正しいったらないわ!みんな、やっておしまい!!」
パチン!と指を鳴らすと、客の回りにいたホステス達が一斉に群がる。
キャーキャー!と声をあげているのが男だけに、傍からみればなんともすごい光景だ。
しばらくすると、客は身ぐるみを剥がれ、下着一枚の状態で店から蹴りだされてしまった。
「ほんと、最近あんなお客ばかりでいやになるわ。」
ふう、と頬に手を当てて溜め息をつくママ。
それにアイリーンも同意するように、ねーとこぼす。
「あぁ、そうそう。リオがきているんだったわ。」
「え?!」
カウンターに目をやったアイリーンが目線をリオルドに向ける。
すると、弾かれたように同じ方へ振り向くママ。
「ど、どうも。」
目があったリオルドの表情も声もぎこちない。
「やだ!もう!いるならもっと早く言ってよ!!お化粧大丈夫かしら?!」
「えぇ、大丈夫よ。ほら。」
アイリーンが衣装のポケットから手鏡を取り出し、見せる。
それを見て、ママは真剣な表情で、マスカラ!と声を上げ、手直しを始める。
しばらくすると、納得のいくメイクができたようで、くるりと笑顔でママは振り返った。
「もう、ごめんなさいね。せっかく来てくれたのに。」
先ほどの声よりも、少し高い声で言う。
「いえ・・・」
目をそらすリオルドをよそにママは遠慮なくリオルドの隣に座る。
「今日はどうしたの?いつもは誘っても来てくれないのに・・・」
どこかせつなげな声で言うママに、リオルドの良心が多少突いたが、
「それよりシオン知らない?」
とさっさと本題を切りだす。
すると、ママさんはうーんと考え出す。
リオルドがこの店に来たがらない理由は、このママさんにある。
アイリーン曰く、リオはママのモロ好みということらしい。
初めて会ったときの「やだ!タイプ!!」とタックルを食らわせられたのは軽くリオルドのトラウマだ。
それ以降、ふとしたときにその見事な体格でボディーブローなどなどくるので、リオルドにしてみれば気が気ではない。
だが、かわりにママさんは非常にリオルドに甘い。
「シオンちゃんなら、確かアリアに呼ばれているはずよ。最近、西からしょうもないゴロツキが流れてきているからその対応でしょうね。」
と、世間話をするように話してくれる。
しかし、シオンがアリアに呼ばれていることにリオルドはうーん、と悩みだす。
シオンの巡回時間にわざわざ呼ばれているということは、ママさんが言うほど楽な事態じゃない。
むしろ、下手をすれば大事だ。
「そ、そんなにやばい連中なの?」
「んー、シオンちゃんの実力なら問題ないでしょうけど、性質が悪い連中だからねぇ、品格っていうのかしら、そんなもの感じられないほど下品なのよ。」
よっぽど下品なのか、ママさんの顔が顰められる。
だが、ママさんの話が本当なら、早くシオンにナイフを渡しにいきたい。
「アリアさんは自分の店?」
「なに?もう帰ってしまうの?」
実に、実に残念そうにいうママさんに、ひきつってはいるがリオルドは笑顔を作る。
「シオンに大事なものを渡さないといけないんだ。」
「・・・もう!私がリオちゃんの頼みを断れないの知っててそういうのでしょ!」
別段、特別な表情をしているわけでもないリオルドにいうと、ママさんは勢いよく席から立つ。
「こっちに来なさい。」
と手招きするのはスタッフルーム。
「ママ~、リオにあう衣装のサイズはないわよ~」
「違うわよ!」
ホールから茶々が入るが、構わずママさんはリオルドをスタッフルームに押し込む。
「そこのカーペットを捲って。」
スタッフルームの扉がしっかり閉じられたことを確認すると、ママさんは部屋の端を指さす。
リオルドが言われた通りに捲ると、確かに地下への入り口があった。
「アリアの店への近道。」
「いいの?」
これは間違いなく、隠し扉の類だ。
リオルドが確認すると、
「いいわよ。リオちゃんもシオンちゃんも十分に信用できるもの。」
それに、とママさんは言葉を続ける。
「・・・なんとなく、リオちゃんを早くシオンちゃんに合わせた方がいい気がするの。」
「ありがとう。」
リオルドは扉をあけるとする、と入り込む。
ママさんはそれを、手を振って見送った。
オネェ系の勝手な妄想で書いてますので、不快な思いをされたらすみません。