‐1章‐ 崖下の街 04
リオルドがでた大通りはいつも通りに賑わっていた。
特につい2日前に崖上からゴミが落ちてきたので、その分物が溢れている。
崖上のゴミと言っても、意外に使えるものが多い。
大概のものは落とされた衝撃で壊れてしまうが、部品を集めて直せば、また使えたりする。
崖上は大量生産、大量消費の社会だ。
すぐに物を捨てることが多いだけに、社会問題にすらなっていた。
学校で散々社会の時間に討論してきた問題が実は崖下の住民の生活の糧になっているという事実は少々複雑だ。
特に買うものもないので、ぶらぶらと通りを歩いていく。
ロキに行った通り、この当たりに済んでいる住民には一通り勧誘していた。
結果は今まで言ったとおり、ロキやシオン、数人の同世代の子どもが仲間として加わった程度だ。
とてもじゃないが、何かを起こすには頭数が少ない。
「あら、今日も仲間探し?」
リオルドに声をかけたのは、この通りの市場でも有名なサブリナおばさんだ。
いわゆる”肝っ玉母さん”をそのまま映したようなおばさんだ。
崖下で生まれ育ったということだが、畑仕事に関しては天才的で、市場では人気の八百屋を営んでいる。
残念ながらリオルドのレジスタンス活動には参加していないが、何かと気遣ってくれる良い人だ。
「まぁ、ね。でも、ここの人たちにはもう声をかけつくしたんだよな。」
「元気だしな。あんたにはあんたの夢があるんだろう?」
ほらと、軒に並べている野菜の中からトマトを取り、リオルドに渡す。
サブリナおばさんは、具体的にはリオルドが活動の目的をよくはわかっていない。
ただただ頑張っているリオルドを応援したいと純粋な気持ちがある、と以前言っていた。
「ありがとう。」
差し出されたトマトを受け取り、さっそく口に入れる。
そのままサブリナおばさんと別れ、通りを歩く。
リオルドはもらったトマトを見る。
見た目は赤々としていて、かじったところからはみずみずしい果肉も見える。
だが、大きさは小さい。
崖上のトマトは野球ボールぐらいあるのが普通だが、それの1周り小さい。
味も果肉に厚みがないためか、甘いが水分が多い気もする。
決して、サブリナおばさんの栽培が悪いということではない。
これが崖下での環境で育つ限界なのだ。
むしろ、この崖下で植物が栽培できるということに驚きだ。
崖上では植物は全てビニールハウスで作られるのが当たり前の中、それもなしにこうした立派な野菜を作ってしまうサブリナおばさんの天才ぶりには驚嘆する。
トマトを食べ終わったとき、通りの前から早歩きで近づいてくる男が目についた。
(確か、あれは…そう、鍛冶屋のザン、だっけ?)
リオルドは記憶をたどり、近づいてくる男を誰か思い出す。
「おい、リオ!」
その男から突然大声で呼ばれる。
まさか自分に向かってきているとは思いもよらず、リオルドは思わずビク!と身をすくめる。
ずかずかとスピードを落とさず、やってくるザンの威圧感にリオルドは後ずさる。
鍛冶屋というだけあって、ザンは大男といってもいい体格をしている。
隣にいると、平均的なリオルドでも小柄に見えてしまう程だ。
「な、なんだよ。」
なんとかそれだけ言ったリオルド。
すると、ザンは手に持っていたものを差し出した。
(なんか、今日はいろいろもらう日だな・・・)
とかぼんやり思いながら、それを受け取る。
布にくるまれたそれはずっしりと重い。
「シオンの奴に頼まれていた物だ。俺じゃあ、あいつを捉まえられねぇからな。」
と用事が終わったと、さっさと来た道を戻って行った。
リオルドは話しが見えず茫然としていたが、渡された物がなんなのか、布を捲ってみる。
布に包まれていたのは、ナイフ2本。
ナイフ、というより、短剣と言った方がしっくりきそうなほど大きいものだ。
柄には滑り止め代わりに、細くした皮が巻かれている。
間違いなくシオンのものだ。
いつの間にか鍛冶屋に砥ぎに出していたらしい。
確かにシオンは、商館の用心棒をしているが場所が広いだけに見つけるのは大変だろう。
ザンがリオルドに頼んだのもわかる。
(・・・これがここにあるってことは、あいつ今、丸腰?!)
いつから砥ぎに出しているのか知らないし、シオンのことだから素手でも仕事には困らないとは思うが、そう思うと心配になってくる。
リオルドは布を巻きなおし、小走りで東の商館に向かった。