‐序章‐ 上から降ってきた少年
注意:さらっとダーク的な描写がありますので、注意してください。
おなか、すいた。
だらしなく地べたに転がる。
横向きの視界にあるのは、瓦礫と埃。
あと、自分と同じように横になっているか座っている、人間もしくは死体。
食べれそうなものはない。
中には死体に手を出す奴らもいるが、何が美味しいのが理解出来ない。
・・・でも、さすがに3日水だけはキツいな。
そろそろ何か固形物を食べたい。
鼻から息を吸って吐く。
と、かすかに食べ物の匂いがした。
ガバッと起きて、すぐそばの建物の上へ。
10メートルぐらいの高さから町を見下ろす。
四角い建物が入り組んだ、雑多な町並みの中に煙が立ち上っていた。
やっと配給がきた。
不規則ではあるが、外から食料が配給される。
1人分の量はこれくらいだの、争うものには配給しないだのとルールはあるが、この町でまともな食料が手に入る機会だ。
今いる建物から2つ先の家に飛び移る。
それを繰り返すと、あっという間に煙の根元までついた。
ぐつぐつと鍋が煮える音、子供のはしゃぎ声とすでに賑やかだ。
喧嘩御法度というだけあって、ここに集まる人間はおとなしい。
まだ列が出来てないところをみると、配給はまだらしい。
時間がくるまでと、座り込んでいる大人たちに混ざる。
座りこんだところで、おそらく食材だろう木箱の山が目に付いた。
だいたい量からして、ここにいる人数分の食料がありそうだ。
ここにきてまで食事が取れないということはないな、と安心する。
しばらく、ぼんやりとして待ったあと、のそのそと座り込んでいた人達が立ち上がり始める。
そろそろらしい。
自分も出来上がりつつある列に混ざる。
その頃には、最前列にいた人間の手には椀が握られていた。
成る程、今回はご飯ものだな。
腹持ちもいいし、包むものがあれば持ち運べるのが、いい。
問題は断食していた俺の胃が受け付けてくれるかどうか・・・
そうこうしているうちに、自分の番がきた。
大きな丼に盛られた炊き込み御飯は食欲を煽る。
「あそこにお湯があるから、そのままだと食べれない方はふやかして下さいね。」
そう丼を受け取った際に声をかけられた。
ありがたいとさっそく指を指された方向に向かう。
そこはそこで、また列が出来ていてうんざりしたが、このまま食べれる気もしないので、また並ぶ。
とにかく並んでいる間というのは暇でしょうがない。
おまけに手にしている丼を見るとどうしようもない空腹感がわき上がるので、自然と周りに目を向ける。
ここに集まった人間全員が御飯をふやかしているわけではなく、いくらかの人間はそのまま食べているようだ。
よくよくみれば、受付をしている人たちは全員に茶漬けにすることを薦めている訳ではなく、顔色が悪い、あるいはやせ細っている人間にだけこちらに誘導している。
(俺はどんな顔しているんだろな)
そんなことを思って、久しく自分の顔を見ていないことに気づく。
ここを薦められたということは、顔色が悪いということだろう。
ともかく3日ぶりの食事を堪能し、その場をあとにする。
本当は休むべきなのだろうが、そうも言ってられない。
配給に人が集まっているうちに食料を確保しなければ、まだ子供の自分では大人に奪われてしまう。
たーん、と建物を飛び越える。
その時遠目に、崖上から滝のように黒いものが落ちてきた。
今日は運が良い。
配給場所から離れたそこは人が集まるまで時間があるはずだ。
黒いものが落ち、山となっているだろう場所まで急ぐ。
徐々にスピードをあげ、建物から建物へ飛び移る。
もうすぐ根元というところで滝は止まった。
ここまでくると黒いものを吐き出していた入り口が閉まるギギギ、という軋んだ音も聞こえた。そこが閉まれば、黒いもの、つまり"崖上"のゴミに潰される心配がなくなる。
より一層足に力を込める。
と、閉まりかけた入り口から小さな塊が出てきた。
無視しようかと思ったが、よくよく目を凝らせば、それは子供だった。
しかも珍しいことに手足をバタつかせている。
つまり、生きている。
目についた大きな布を剥ぎ取ると、今まで加速したその勢いで飛び上がる。
もう子供は暴れていない。
入り口から地上まで500mはあるため、気絶したのだろう。
ばふっ!とまずは布で子供の体を受け止める。
ひとまずはこれで衝撃を和らげる。
そして、子どもを受け止めた布ごと抱えて地上に降りた。
べこ、と着地したところから地面が凹んだがなんとか子どもは無事だ。
自分の腕がいっぱいいっぱいになるぐらいの大きさだ。
ひとまず、布にくるんだまま子どもを抱え直す。
この状態で、ゴミを漁ることはできない。
いったんこの子どもを何処かに置いたとして、またここに戻ってくる頃には、他の人間が集まってきてしまっている。
そうなれば、ゴミの中から使えそうな道具も、食料もすべて大人に横取りされてしまう。
…今は諦めよう。
その気になればどうとにでもなる。
そう割り切って、足に力をいれてそばの建物に駆け上がる。
自分には寝床と呼べる場所を持っていないことが悔やまれる。
とりあえず、比較的人がいない場所に向かって走り出した。