第八神 雨の神 トラロック
「神がこの地域にいる?」
俺の発言にアマテラスとタケミカヅチは同時に首を上下に振った。
最近、降り続けている雨もおそらくこの地域にいると思われる神が、
降らしているとのこと。
「おそらくはトラロックの仕業じゃろう」
「ト、トラロック?」
「雨と稲妻を司る神でな。あいつからすれば雨を降らすことなんて朝飯前だ」
俺の疑問にタケミカヅチが素早く答えてくれる。
「でも、そのトラトックって神が雨を降らせ続けている張本人、
だとしてもあまり問題はないんじゃねぇのか?」
俺の質問にアマテラスは首を縦に振った否定した。
「問題大有りじゃ。そもそも、わらわ達神がこの世界にいる理由は、
サバイバルじゃ」
最後の一人になるまで人間界で戦い続け、最後の一人となった神だけが
なることが許される地位―――――最上級神。
それを狙って神々は争っている。
「もしかすると、既にお前に目を付けているかも知れぬ」
「お、俺に? 俺はただの人間だぜ?」
まあ、餌とか言う存在になっているけど体自体は人間のままだ。
「正確にいえば居候のあたし達を匿っているお前だ」
タケミカヅチがアマテラスの言ったことに補完する形でさらに加えた。
「……つまり……どういう意味だ?」
そう言うと二人は同時に大きなため息をついて、
憐れみをこめた眼で俺を見てきた。
お、俺なんか変なこと言ったか?
「お主がわらわ達を匿っていることはすでにトラロックは知っているはずじゃ。
わらわ達をお前を使って倒そうと考えているかもしれぬと言っておるのじゃ」
俺はアマテラスの追加説明を聞いてようやく理解できた。
つまり、俺はアマテラス達を倒そうとするやつらの餌になり得るというわけだな。
ハァ……穢使からも神からも餌として見られる俺って……。
「アハハハハハハ! まさか、神と穢使の両方から狙われるとはな。
お前も苦労しているんだな。ブハハハハハハ!」
何故か、心で考えていたことをタケミカヅチ爆笑しながら言われた。
いや、爆笑しながら言われてもな。
「ともかくじゃ。穢れを払いに行くぞ」
「え、でも俺って」
「わらわがいれば何も問題はない」
「あたしもいるぞ!」
そう言うことで俺はあまりにも頼もしすぎる護衛をつれて穢れを払いに向かった。
「ぎゃあぁぁぁぁぁぁ! もうやめてくれぇぇぇぇぇ!」
『カー! カー!』
今、俺は学校のグラウンドで赤紫色をした、
巨大なカラスから必死に逃げ回っています!
足には全てを貫きそうなくらいに鋭い爪、羽は柔らかいものではなく、
地面にも穴をあけるほどの硬度を誇っている。
「おぉ! あいつも避けるのが中々上手くなったな」
「感心するんじゃなくて早く助けてくれぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
俺にワラワラと集まってきているのはカラスのような姿をしている穢使で、
その部下らしき小さなカラスが俺に向かって来ていた。
『ガー!』
アマテラス様の巨大な火球が一気に、何体ものカラスを巻き込んで、
大爆発を起こし俺はその余波を喰らって地面に倒れた。
「ちょっと! 俺のことも考えて威力を調整してくださいよー!」
「何を言うか。これでも、ちゃんと威力は抑えておるわ!」
「だったら俺が吹き飛ばされないような威力にしてください!」
俺がそう言うとアマテラス様は大きなため息をついて、大層呆れかえっていた。
「これで終わりじゃ!」
最後の一体がアマテラス様が生み出した炎の槍によって貫かれ、
塵となって消滅した。
あぁ……よく、戦争みたいなドンパチやってるところのど真ん中にいて、
俺死なないよな。
「もう、ここでは穢れは感知できない。次の場所に行くぞ」
「ちょ! もう俺走れねぇよ!」
俺の悲痛な叫びを聞いても二人は何ら表情を変えることなく、
次なる場所へと向かおうとする。
もう、勘弁してくれよ~。
『ガー!』
「―――――っっ!」
まだ、生き残りがいたのか俺が背を向けた瞬間に襲いかかってきやがった!
二人も突然のことに反応が一瞬遅れ、二人の攻撃がカラスに届くよりも、
カラスの爪が俺を貫く方が早いと一瞬で感じた。
俺は襲いかかってくるであろう痛みに目を瞑った。
『ガババッ! ゴバゴガバァァ!』
しかし一向に痛みは感じられず、苦しそうな声だけが聞こえてきた。
……な、なんなんだ?
俺は不思議に思って目を開けた瞬間、目の前にあったのは水の檻の中に、
閉じ込められて呼吸ができずに暴れ回っているカラスだった。
「んん~。何かが呼吸できない光景を見るのはやっぱり最高だわぁ」
この場にいる三人の誰のものでもない声が辺りに木霊する。
声からして女か? ……いったいどこから……。
聞いたことのない声に俺はあたりを見渡すと、
校舎の奥の方から一人の女性がこちらに向かってきた。
月明かりに照らされたその姿には見覚えがあった。
「あ、あんたこの前、校門の前にいた」
「久しぶりねぃ。アマテラスぅ」
「そうじゃな……百年ぶりかの。トラロック」
トラロック……じゃあ、この人が家で話していた神様か。
青い髪に、全てが青一色で統一された服を着ており履いている靴も、
草履のようなものだけど色が全部青色だ。
「なかなか面白い物を持ってるじゃないぃ。私にもくれないかしらぁ?」
「断る。神夜はわらわの物じゃ」
「いや、お前の物じゃないからな」
思わずそうツッコンだ。
「餌を使って穢使をおびき寄せて狩るぅ……神界のお偉いさんどもは、
気が狂うくらいに喜ぶくらいに働いているじゃないのぉ」
「ふん。わらわとて神のはしくれじゃ」
「な~にがはしくれよぉ。最上位の家に生まれたボンボンのくせにぃ」
「まさか、貴様。そんな話をするためにわらわに会いに来たのではないだろう?」
アマテラスがトラロックにそう尋ねると彼女はニヤリと口の端を釣り上げて、
アマテラスの方をジッと、睨みつけた。
「貴方をぉ。殺しに来ましたぁ」
お、おいおい。めちゃくちゃ美人なのにそんな怖い、
フレーズを満面の笑みで言っちゃダメでしょ。
ていうか、今夜だから周りの景色も手伝ってトラロックさんがひどく怖い、
鬼のように見えて仕方がない。
「ふむ……じゃがわらわは貴様と戦う気はない。帰れ」
「そんなこと言わないでさぁ」
「…………なら、一つ条件がある」
「何かしらぁ?」
そう言うとアマテラスは俺の方を見てきた。
……何か、嫌な予感がびんびん感じるんですが……気のせいだといいんだけど。
「こやつを倒したら貴様と戦ってやろう」
そう言ってアマテラスは俺の方を指差した。
はい! 無茶ぶりいただきましたぁぁぁぁ!
「この子をぉ? ただの人間にしか見えないけどぉ?」
「そ、そうですよ! なんで俺が神様と戦わなくちゃならないんですか!」
「こやつの中には恐らく何かしらの力が宿っている。
それが何か見たくはないか?」
俺の話を無視して進めないでくれぇぇぇぇぇ!
「へぇ……もしかして神獣かしらぁ?」
「分からん。じゃが、一週間もあれば貴様よりも強くなる」
アマテラスがそう言った直後、トラロックさんから凄まじい殺気が放たれて、
それに当てられた俺は体が恐怖でガタガタ震え始めた。
「へぇ……この程度の殺気でビビるようなやつがぁ……良いわぁ。
一週間後、夜中の十二時にこの学校のグラウンドに来なさいよぉ。じゃあねぇ」
そう言って、トラロックさんはどこかへと去って行った。
「はっ! ハァ……ハァ……」
ようやく殺気から解放された俺は恐怖のあまり、
腰を抜かしてしまいグラウンドにへたり込んだ。
「わらわは呪いを教える。タケミカヅチ。
貴様は神夜に剣術を教えるのじゃ」
「報酬は?」
「……三日間、ソファ座り放題にさせてやる」
「神夜! 早速特訓開始だ!」
「んなバカな!」
有無を言えないまま、
俺はタケミカヅチに木刀を持たされて鍛錬を始めさせられた。
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