第七神 なぜか増えた食費
「ど、どうなってんだこりゃ?」
俺――――紅神夜は銀行のATMの前で驚きのあまり、そんな声を出してしまい
周りにいたお客さんに白い目で見られてしまった。
俺は周りに謝りながらももう一度、表示されている額に目をやる。
「父さんから振り込まれている分が……三倍になってる」
そう、以前は俺一人が普通に暮らしていれば娯楽用具も買えるくらいの金額が
振り込まれていたのだがその三倍の額のお金が振り込まれていたのである。
この前、アマテラス様が言っていた神界からの振込が俺の口座に入るわけがない。
じゃあ、なんで三倍に……。
「おい、神夜。まだか?」
「そろそろ腹が減ったぞ!」
「お、おう。もうちょっと待ってろ」
俺は後ろの席で待たせている二人にそう言いながらもとりあえず、
今月の食費と家賃の分を下ろした。
なんで三倍になってんだ? ……まさか、居候の分も含めての金額じゃ……。
いやいや、それはないな。父さんは世界中を飛び回ってんだから、
家の状況なんか全く知らないはずだ。
「帰ろうか」
俺は二人にそう言って帰宅した。
9月半ば――――夏休みから早二週間ほどが経過したある日、
その日の天気は生憎の雨だった。
「なんか最近、ずっと雨ばっかり降ってるな」
俺の問いかけに二人は返事をよこさずに、何やらぶつぶつと呟き始めた。
俺の話は無視かい……まあ、良いけど。
ここ一週間ほど、ずっと雨が降っており傘は必需品の物となってしまった。
これがまだ夏に入る前の時期ならわかるんだけど……もう、夏も後半だぜ?
おかげで洗濯物は部屋干しになるし、毎日がジメジメしてて蒸し暑くなるし。
「出来たぞ」
俺は調理が完了したものをテーブルに運ぶと、二人は素早い動きで、
テーブルへと近づき、無駄のない動きで椅子に着いた。
その動きを毎日してください。
「なんじゃこれは?」
「アマテラスには熱々の素うどん。タケミカヅチには冷やしうどんだ」
「おぉ! これが噂のうどんという奴か!」
タケミカヅチは嬉しそうに言いながら箸を割って早速食べ始めた。
アマテラスも未知の物であるうどんをまじまじと見ながらも、タケミカヅチの、
食べ方を見よう見まねで口に入れると、パァッと表情が明るくなった。
「最近、雨ばっかりだな」
「そうだな。お前は喰わないのか?」
「俺は少し、用事があるからな。
それが終わってから食べる。じゃ、行ってくるわ」
「おう! 行って来い!」
俺はタケミカヅチに見送られながら用事を終わらせるべくある場所へと向かった。
「遅いぞ! 神夜!」
「ああ、悪い悪い」
俺が向かった場所というのは学校の校門前だった。
実はもうじき行われる文化祭の準備を少しでも早くに終わらせるべく、
今年は開催3週間前から準備を行おうと決められたのだ。
「みんなは?」
「もう、教室に向かってるやつらちらほら。行こうぜ」
「ああ……?」
俺が教室へ向かおうと歩みを始めた直後、俺の耳に水がはねる音が聞こえた。
それも自然に水がはねた音なんかじゃない……何かが水を、
踏んだ際にはねた音だ……。
俺は首を向けて音がした方向を見ると、傘も差さずに俺よりも、
一つか二つ年上のような感じの青色の髪を持った女性とその妹らしき、
幼い女の子が立っていた。
顔は二人ともよくは見えない。
誰だ? ……こんな雨の中で傘も差さないなんて……。
「おーい! 神夜! 何してんだよ!」
「え、ああ……いない」
雪輝に呼ばれてそちらのほうを一瞬だけ向き、また女性の方を向くと、
そこにはもう女性の姿はなかった。
「……なんだったんだ。いったい」
俺は先ほどの女性を疑問に思いながらも教室へと向かった。
「と、言う訳で二年三組が行う催しものは食品模擬店に決まりました!」
話し合いに話し合いを重ね続けて数時間。
ようやく、俺のクラスが文化祭で行う催しものが決定した。
まあ、どんな食品を出すのかとかでまた集められるんだろうけど、
今日はもうこの辺で終わりだろ。
「今年こそ! 我らが担任のもえ先生のために優勝するぞー!」
壇上で声を張り上げる三組の委員長さんの声に続き、クラスメイト達の、
気合いに満ちた声が教室に反響した。
俺が通っている学校では文化祭、体育祭、そして神崇祭という
三つの催しものが開かれる。
そして、優勝したクラスには大人気、食堂のおばちゃんお手製、
スウィーツ二週間無料券が配布される。
まあ、これは主に女子たちが闘志を燃やしている。
ちなみにそれは体育祭だ。
文化祭で優勝したクラスには校長先生から、素敵なプレゼントが贈られるという。
去年、優勝したクラスには噂によるとゲームのハードが贈呈されたという。
ただし、これは校長先生の気分で渡されるものが年々変化しており、
俺達が入学する前の年では消しゴム一年分が全員に渡されたとか。
正直、消しゴム一年分はいらねぇわな。
「そんなわけで今日の会議はここまで! 明日は祝日! だから、
朝の十時に校門前に集合ということにするよ。
来れる人だけでいいからね。それじゃ」
委員長さんの言葉により、会議は終了し教室からクラスメイト達が退室していく。
んじゃ、俺も帰りましょうかね。
俺は傘を持って教室から退室し、校舎から出て校門を抜けようとしたとき
「うりゃ!」
「おぷっ!」
校門を抜けた直後、誰かが水たまりにダイブしたらしく、
俺の顔面に大量の水が直撃した。
「あわわわわわわわわわ! ご、ごめんなさい!」
顔を拭いて声がする方を向くとそこには、
道真と同じくらいの背丈の女の子が立っていた。
「別にいいけど……こんな雨の日に傘を差さなくていいのか?」
「うん! だって私、雨大好きだもん!」
そう言って幼い女の子は楽しそうに笑いながら空を見上げた。
「……ひとまず」
俺はポケットからハンカチを取り出して女の子の鼻頭に、
付いていた泥を拭いてあげた。
「あ、ありがとう」
「どういたしまして。風邪ひくなよ」
そう言って俺は幼い女の子と分かれ、帰宅しようとした瞬間だった。
『オオォォォォォォォン!』
「っ!? こんな時にかよ!」
上から咆哮が聞こえ、見上げてみると巨大な何かが俺を踏みつぶそうと、
ものすごい速度で落ちてきた。
「あぶねぇ!」
俺は女の子を抱き上げてダッシュでその場を離れると、
ドーンという音とともに大きな揺れが発生し水たまりがまるで津波のように、
俺と女の子めがけて振りかかった。
突然の出来事に辺りにいた生徒達は一目散に逃げていった。
まあ、何もないのにいきなり大津波と揺れが起きたら逃げるわな。
「ぺっ! タ、タコ!?」
上から降ってきたのは赤紫色をしたタコだった。
「今日に限って携帯持ってきてねえよ!」
俺はそう言いつつも女の子を抱きかかえたまま、
異形の怪物―――――穢使から離れるべく、走り始めた。
「ゼェ、ゼェ!」
「お兄さん! 離して!」
「離せるかっつうの! 今はともかく我慢してくれ!」
俺だけ襲うならまだいいけど、この女の子を襲わないっていう、
確証はないからとりあえず女の子もつれてきたけど……この先、どうしよ。
「どわっ!」
そう思った瞬間、俺の脚にタコの足が絡みついて、俺は顔面から扱けてしまった。
「この! 離せタコ野郎!」
俺は必死にタコの脚に蹴りなんかを入れて抵抗するがビクともせず、
逆にタコは腕か足か分からないけど俺の脚にからませている部分を、
上にあげやがった!
「こ、こいつ! 俺を喰ってもまずいぞ!」
タコに向かってそう叫ぶがタコは気にも留めずに口らしき部分の上空へ、
腕を横にずらして俺を移動させた。
ヤバいヤバい! このままじゃ喰われちまう!
そう思った直後、肉を斬り裂く音が聞こえ俺は一瞬の浮遊感を感じ、
誰かに抱きかかえられて、地面に下ろされた。
「タ、タケミカヅチ!?」
「ギリギリだな。あたし達が通りかかったから良かったものの」
あたし達? つまり、アマテラスも。
「ぬはははははは! 貴様をゆでダコにしてくれるわ!」
……うわぁ、タコさん可哀そうに。
いつの間にかアマテラスが大きなタコを包み込むほどの巨大な火球で、
タコさんをジュージューと言う音が聞こえるんじゃないかと思う勢いで、
焼いていた。
な、なんか良い匂いが漂ってくる。
「そうだ! 女の子はってあれ?」
俺は女の子のことが心配になり、彼女が立っていた場所を見てみるが、
どこにも彼女の姿はなかった。
どこ行ったんだ?
「ふぅ、なかなかの美味じゃった」
満足そうな顔を浮かべたアマテラスがこっちに戻ってきた。
女の子は自分で逃げたんだろうか……ていうか、あのタコ食ったのかよ。
「取り敢えず帰るぞ、神夜。お前に話すこともある」
「わかった」
女の子はまた後日、探すとして俺はアマテラスたちに連れられて帰宅した。
こんばんわ~




