第五十七神 大国主
「あ”~眠い」
翌日の朝、俺はいまにも閉じそうな眼をゴシゴシと手で擦り、
刺激を与えてどうにかして閉じないようにして通学路を歩いていた。
結局、昨日は夜遅くどころか朝になるまで二人はずっと話し込み、
俺はずっとベンチで転寝したりしながら座っていた。
いつ、二人の話が終わるのか分からなかったからグッスリと眠れなかった。
その影響で今日はひどい、寝不足だ。
「うぐぐぐぐぐ……眠いぜ」
「ご愁傷様。二人は仲が良いからな」
こいつもアマテラスに誘われたらしいのだが二人が仲が良いのを知っていたため、断ったそうだ。俺にもそのことを教えてくれたら行かなかった……いや、
その前に俺、デートに誘われたとばっかりに思ってたから知っていても、
どのみち山に入ってたな。
「なあ、サクヤさんって一体何なんだ?」
「コノハナサクヤヒメ。桜の神として拝められている」
桜の神……そう言えば、昨日、山の桜は自分の力の一部とか言ってたし、
髪の色も桃色だったな……それで桜の神様か。
「桜を武器として扱い、その実力は神の中でもトップクラスだ」
「ふ~ん」
ふと、感じたことが一つあった。
何故か、通学路を歩く生徒の数が異様に少ない。
いつもならこの時間帯は結構な数の生徒が歩いているもんなんだけど、
何故か今日に限って俺とタケミカヅチしか歩いていない。
まあ、道を歩く人の数なんて変わるしな。気にすることもないか。
俺は疑問を頭の片隅に押しやり、学校へと向かった。
「…………マジですか」
ただ今の時間―――――八時五十九分。
普段ならば既に教科担当の先生が教室に入って来て、SHRを行い、
授業に入るか入らないかの時間……それなのに未だに教室には、
誰一人としてきていない。
「おいおい、インフルエンザが流行る時期にしては早くねぇか?」
ワクチンの接種だってまだ始まってないっつうのによ~。
「紅!」
その時、ガラッ! と勢いよくドアが開かれ、
息を切らしたウズメさんが入ってきた。
「お前だけか!?」
「ええ、まあ」
「ちょっと来い!」
先生のただならぬ様子に俺は何かを感じ、その場は何も聞かずに大人しく、
先生に従って職員室へと直行した。
職員室に入って見ると、その中にはウズメさん以外、誰もいなかった。
「な、なんすかこれ!?」
「分からん。何かが起きているんだ」
流石に職員室まで誰も居ないことに疑念を抱いた俺はすぐさま、
携帯のワンセグを起動させてみた。
「あ、あれ?」
「どうした」
俺の疑問の声にウズメさんが近くまで寄ってきた。
ワンセグを起動させたのは良いが、何故か画面の中央に大きく準備中と、
表示されたまま放送は始まらなかった。
「おかしいな……壊れたのか?」
「……いや、壊れたんじゃない」
先生も携帯のワンセグを起動させていたらしかったので、
その画面を見てみると俺と同じように画面の中央に準備中と表示されていた。
俺だけじゃない……つまり、何か異常事態が起きているのか。
「取り敢えず、外の様子を見に行くぞ」
「はい」
俺は先生についていき、学校の外に出てみるが誰ひとりとして、
外を出歩いている人はいなかった。
人が集まっているであろう駅周辺を見に行っても誰一人として、
いなかった――――――駅員さんも、利用客たちも。
コンビニも見て回ったが誰もいないどころか、シャッターが閉まった店が、
数多く見受けられた。
「そんなバカな……スーパーはまだしも、コンビニに誰も、
居ないなんておかしいだろ」
この街にある多くのスーパーは開店時間は朝の十時頃……スーパーは、
除いたとしてもコンビニまでもが無人だなんておかしい。
「紅! どうだった!?」
「ダメです。誰もいません」
二手に分かれて探していたウズメさんが俺のところに戻ってきて、
今の状況の報告をしてくれた。
ウズメさんが見に行った場所も誰もいなかったそうだ。
「ウズメ! 神夜!」
後ろからの声に振りかえって見るとそこには、タケミカヅチとアマテラス、
そして猫又三姉妹にミツルギさんもいた。
「さっき、人を見つけた」
「どうだった!?」
俺がそう尋ねると何故か、タケミカヅチは表情を暗くした。
「……神力を抜かれていた」
俺みたいな奴じゃなくても普通、人間は神力を持っており霊感があるとか言う奴は神力を多く持っているらしく、神社やお寺の関係者は特に多く持っているらしい。
ただし、ほとんどの人間がその神力を使わずして一生を終えるらしく、
仮にその神力を無理に引き出した際には体に異常が発生するらしい。
「じゃ、じゃあ世界中の人間が」
「いや、この街の人間だけじゃ」
「この街の人間だけ? なん」
そこまで言いかけたところで俺は言うのをやめた。
アマテラスの表情はいまにも泣きそうなくらいに悲しいものになっていたからだ。
「あたしが説明する。神夜、昨日の桜のニュースは、
このあたりにだけしか放送されていない」
まあ、そりゃそうだろうな。
この街の放送局が日本全国にこの街に関するニュースを放送しても、
なんも意味なんかないしな。
「ここまで大規模に神力を抜けるのは……あたしが知る限りでは一人だけだ」
「じゃ、じゃあそいつをぶっ倒せば事態は解決するんじゃねぇか!」
「ああ……そうだ……その首謀者は」
タケミカヅチがそこまで言った瞬間! 俺達を押しつぶすかのような、
凄まじい神力が上空から放たれてきた!
う、うぐぉ! な、なんて量の神力だ!
まるで、重力が何倍にも膨れ上がったみたいだ!
「この神力は……まさか」
アマテラスはこの神力の持ち主を知っているらしく、驚きを露わにしながら、
降り注いでくる神力の発生源がいるであろう上空を見上げた。
俺たちもそれに合わせて空を見上げてみると、そこに二人の神らしき人物を、
従えた見ているだけで圧倒されるようにガタイが大きく、
鎧を、身にまとった男性が宙に浮いていた。
そして、その男性が従えている二人の神には見覚えがあった。
鎧を身に纏っている男性の右側に立っている男性は槍をその手で握り締め、
俺を殺気の籠った鋭い眼差しでい抜いており、肩には何重にも包帯のような、
白い布を重ねて巻いていた。
「イ、イザナギ!」
俺の声を聞いた瞬間、イザナギはゆっくりと地面に降り立ち、俺達の前に立った。
そして、もう一人の神にも見覚えがあった―――――それどころか、
前日に出会ったばっかりだった。
桃色の髪を腰の辺りにまで伸ばし、桜の木の枝を模した髪飾りで、
腰にまで届きそうなくらいの長さの髪留めで止めており、
着ている服はまるで桜の花びらのような美しい桃色をしていた。
「サクヤ!」
アマテラスの声を聞き、暗い表情を浮かべたサクヤさんが地面に降り立った。
どうなってんだよ……まだ、イザナギなら分かるけどなんでサクヤさんまで、
俺達の前に立ちはだかってんだよ!
「よう、クソガキ。久し振りだな」
「そうだな……肩の傷。まだ、癒えてないんだな」
そう言うと、イザナギは肩の傷を忌々しそうに見ていた。
「ふん……何なら今ここで」
「よせ」
上空から聞こえてくる野太い声にイザナギはすぐさま、
攻撃しようとしていたのをやめた。
「紹介しよう。この世界を救われる全知全能の神! 大国主さまだ!」
俺達の前の前に大国主と呼ばれた男性が降り立った。
こんにちわ。最近、感想の返事書いてねぇ~。




