第四十九神 狐コンコン
『どや、驚いたか? これがうちの真の姿や』
でか過ぎるだろ……尻尾の長さなんかさっきの数十倍だし、
背丈も電柱よりも何倍も大きい。
これが九尾の姿。
銀色の割合が多い体毛を生やし、眼は薄い赤色に輝き、しっぽはそれぞれが、
独立しているのか別々の動きをしていた。
『ほんなら、いくで!』
九つの尾がそれぞれ同時に俺に向かって、飛んできた。
俺はそれを伏せたり、跳躍しながら避けていき徐々に九尾との距離を、
縮めていった。
「うぉ!」
避けた尻尾が地面に突き刺さり、周りにいくつものヒビが走った!
おいおい! あのしっぽ、地面に突き刺さるってどんな硬度してんだよ!
あんな尻尾で貫かれたりでもしたらヤバいことに
『よそ見してて良いんか~?』
「っ! とっ!」
後ろからの声に慌てて、その場から離れると三本の尻尾が一つに、
纏め上げられたものが地面を貫き、深い穴を作った。
三本であの威力ってことは……九本を纏められたものを喰らったりでもしたら、
確実に死ぬな。
「だったらこいつだ!」
俺は刀を二本、横にして持ち手の底の部分を繋げると刀が輝きだして二本の刀が、
繋がり、一つの槍に変化した。
『ほぉ。形態を変えられるんかいな』
「伸びろ!」
俺の掛声とともに槍が光の速度で伸び、九尾の体を掠った。
『ぬぅ!』
九尾の肩からツーっと赤色の血が地面に向かって滴り落ちているのが見えた。
よし! この戦い方で傷をつけていけば勝利は見えてくる!
『うん。なかなかやるやないか』
……今、どこから聞こえてきた?
さっき、俺の耳に入ってきた声は確実に前からじゃなかった……まさか。
まさかと思い、後ろを振り返るとそこには大きな銀色の狐が九つの尻尾を畳んで、まるで犬が餌を待っているときのような状態で座っていた。
「え、え!? ふ、二人!?」
『お前はアホか。さっき攻撃が当たったのをよう見てみ』
九尾に言われて、先ほどまで九尾がいた場所を見ると、
立っている銀色の狐がゆらゆらと煙のようにたなびいて、一瞬のうちに消えた。
「こ、これが幻術」
『そうやで』
今度は右方向から声が聞こえ、そっちの方を向くとそこにも銀色の狐が、
座っていてさらにその隣にも同じ姿をした狐がズラーっと、
俺を囲むようにして並んでいた。
「え、ええ!? な、何これ!?」
『ハハハハー! 凄いやろ! 幻術最強のうちにしかできひん技やで~』
まるで分身の術みたいだな……漫画とかでは見た事あるけど、
まさか現実で同じ姿をした奴に囲まれるとは思ってもみなかった。
『さあ。本物はどれか、当ててみ』
いくつも重なった声が俺の耳に入ってくる。
幻術だとわかっていても、どれだけ目を凝らして九尾を見てもどれが本物で、
どれが偽物かなんて見当もつかない。
『さて、どこから現実でどこからが幻術やったでしょうか?』
さらにポンポンと軽い音を立てながらどんどん、九尾の数が増えていく!
え、えっと! こういう場合ってどうしたらいいんだよ!
「え、えっと……勘でこれだ!」
俺は本物だと思った九尾に槍を突き刺すが、突き刺した九尾がユラユラと、
たなびいて、消滅した。
『残念♪ さ、チャンスはまだまだあるで』
楽しそうに言っている中でも九尾はどんどん、その数を増やしていく。
落ち着け……とにかく落ち着こう……幻術で数を増やしても神力まで同じ量を、
持ったものを増やせるとは思えない。
幻術を使うのにだって神力は消費するはず……それにこの数の幻術を、
生み出してるから……一番、神力が少ないのが本物だ。
俺は周りにいる九尾を見渡しながらそれぞれの神力の量を探っていく。
「……見つけた。本物はお前だ!」
俺は槍から弓に変えて、神力で矢を一本生成して弦を引き絞って、
上方向にいる九尾めがけて矢を放つと、そいつはヒョイッと放たれた矢を避けた。
幻術であるなら避ける必要はねぇ!
「てめえが本物だ!」
『やるねぇ!』
俺は本物を見つけたや否や、矢を次々と生成していき連続で矢を本物の九尾に、
向かって放っていく!
『よっ! はっ!』
しかし、結構な巨体のくせして俊敏で俺が放つ全ての矢がいとも、
簡単に避けられて行く。
「くそ! ちょこまかと逃げやがって!」
『良いんか~? もう、うちは本物じゃないかもしれんで~?』
「はっ! 本物だろうが! 幻術だったら避けない攻撃を避けている時点で、
お前は本物うおぉぉ!」
弓を放っている最中、突然身体が宙に浮いて宙づりの状態になってしまった。
何事かと思って周りを見てみると俺の脚に銀色の体毛を生やした尻尾が、
一本巻きついていた。
『残念。今は上の奴が幻術で、本物はお前の後ろにいたんやで~』
「でも、さっき俺の攻撃避けてたし神力の量だって」
俺の言うことに九尾はニヤニヤとイラつく笑みを浮かべて、俺をジッと見てきた。
なんかイラつく……ガキが俺を馬鹿にしてくる時みたいにムカつく!
抵抗はしてみるものの尻尾は俺の脚に強く巻きついていて、
とてもじゃないが俺の力で外せるとは思えなかった。
『目の付けどころは良いんやけどな~。あたしは幻術で神力の量も、
化かせるからな~。残念!』
自分の幻術を作るだけじゃなくて、神力の残量すら幻術で化かすことが、
できるなんて……最強の幻術使いっていうのは伊達じゃないらしい。
「その辺にしてはどうじゃ? 九尾よ」
宙づりになっている俺の真下にアマテラスが歩いてきた。
『……一瞬とはいえ本物のあたしを見きったしな……ええで』
そう言って、九尾は俺の脚に巻きつけていた尻尾を緩めながら、
俺を地面にゆっくりと置いた。
その直後、またボンッ! という音ともに辺りに煙が放出され、
そこから人間サイズの大きさに戻った九尾が現れた。
「アマテラスの言う通り、こいつに幻術教えたる」
「済まぬな。神夜、喜べ。最強の幻術使いに幻術を学べるんじゃ」
「お、おう……あ、校外学習」
急に頭の中に校外学習のことが浮かんだかと思うと、
次々と俺の中に不安やらなんやらが溢れ出てきた。
ヤバイヤバイヤバイ! 俺と一緒にこの神社を回る班員放置じゃん!
「ああ、それに関してはおえっ! 気にすることはない、うぇ!」
俺達の見えないところで吐いていたウズメさんが気持ち悪そうにえづきながら、
俺達がいる広場に戻ってきた。
「ウズメの言うとおりやで。ここと人間界はちょこっと時間がズレテてな。
まだ、向こうは集合時間の一分前くらいとちゃうか?」
それはちょこっとじゃなくてかなりずれているというんですよ、九尾。
まあ、とりあえずは班員のことは考えなくてもいいってことだな。
「取り敢えず、今日のところは帰ってもらうわ。流石に今の状態で、
うちもあんさんに幻術を教えれるきせえへんしな」
そう言いながら、九尾は片手に酒の入ったコップを持ちながら陽気に笑っていた。
この人、いったい一日のお酒摂取量いくらなんだ。
「取り敢えず、今日のところは帰る。明日から頼むぞ、九尾」
「おう! 任せとけ!」
俺たちは九尾に正しい道順を教わりつつ、元の人間界へと帰還した。
その晩、無事に校外学習を終えた俺はタケミカヅチが結婚したと言うこともあり、
お赤飯を炊いた。
「な、なんだこの赤い飯は」
初めて見るお赤飯にタケミカヅチはどこか、興奮した様子で眺めていた。
「なんじゃ? 知らぬのか。これはお赤飯と言っての。
吉事の際に炊く飯での、昔は凶事の際に人間がよく食べていたの」
ほぅ、昔の人は凶事の際にお赤飯を食ってたのか……さしずめ、
お祓いの効果があるっていう願いか?
まあ、今はそんな凶事じゃなくて結婚っていうおめでたい吉事だからな!
「という訳で! 今日は一日の食費をフルに使ってみたぞ!」
「おぉ! 旨そうな肉じゃないか!」
今日の晩飯はいつもとは違って、若干豪勢めに作ってある。
いつも買っている安いお肉じゃなくて少々高めのお肉を振るえる腕を、
どうにかして押さえて、カゴの中に入れた!
「という訳で!」
各々、コップに注いであるお茶やらジュースやらを持った。
「タケミカヅチの結婚を祝うと同時にこれからの結婚生活が幸せに、
なるように祈りを込めて!」
「「「カンパーイ!」」」
その日の晩は、ご近所様に迷惑がかからない程度の範疇で騒ぎまくった。
こんにちわ……あぁ、精霊の二の舞になってしまった。
やっぱり、異世界ものが人気なんですかね~……試しに
ハーメルンにもマルチ投稿してみようかな……気が向けば




