第四十三話 悲しき削除
「どべっ!」
空間のゆがみに飛び込んだ俺が吐き出された場所は、
まるで神社の境内のような場所だった。
すでに空は茜色に染まっていて、夕方を示していた。
「取り敢えず、ミーナさんを探さないと」
「神夜!」
後ろからの声に慌てて振り返ってみると、そこにいたのはミーナさんの家で、
待機しているはずの雪輝だった!
「なんでお前ここにいるんだよ!」
「ジッとなんかしてられっかよ! 俺もミーナを助ける!」
今、俺が行こうとしている場所は化け物だらけだっていうのに普通の人間の雪輝を連れて行けるかよ!
本当は口に出して言いたかったが普通の人間である雪輝に神関係のことは、
言えないので、何も言わずに俺は雪輝を連れて境内の中を探索することにした。
「なんで、ここって思ったんだよ」
「神夜がここの広告を見て表情を変えたから……かな」
まさか、こいつに表情を読まれてしまうとは……なんか、複雑だ。
境内のような場所を探索していると、白い着物を着た大勢の人が集まっていた。
俺たちは慌てて、物陰に隠れてそれを観察していると金髪の女性――――ミーナさんもそこにいるのが分かった。
雪輝はミーナさんを見つけて、飛び出そうとしていたが俺はそれをどうにかして、
押さえて、様子を見ることにした。
「なんで行かせてくれないんだよ!」
「もしも、銃を持った奴がいたらどうすんだ。ここは落ち着いて様子を、
観察……見てみろよ」
白い着物を着た大勢の人たちのところに二本の刀を帯刀している男性が現れて、
何か説明をし始めた。
「もしも、さっき出てたら斬られてたかもな」
そう言うと、雪輝は刀にビビったのか少々、静かになった。
俺はというと普段から刀に触っているから別に刀を持っている相手を、
見てもビビらなくなった。
むしろ、俺が戦っているやつらは刀以上の威力をもつものを、
持っているのがほとんどだしな。
すると、大勢の人たちは本殿のような建物の中へとはいって行った。
俺は全員が本殿の中に入ったのを確認してから、雪輝とともに物陰に、
隠れながらも本殿に近づいて行った。
「取り敢えず、ミーナさんを助け出したら一気にここから走れよ」
「分かった」
俺は大きな本殿の入口へと近づいていき、ゆっくりと障子を開けようとした瞬間、俺達が開ける前に勝手に障子が開いて先ほどの刀を帯刀した男性が現れた。
「侵入者は殺さねぇとな」
そう言いながら男性は俺たちに向かって長刀を振り下ろしてきやがった!
「ぐおっ!」
俺は雪輝の前だけど刀を現出させて振り下ろされてきた刀を防いだ。
「し、神夜! お、お前それ」
「今のうちにミーナさんを連れ出してこい!」
俺は男性の刀を防ぎながらも雪輝にそう言って、奥の部屋へと行かせた。
「てめえは俺と来い!」
俺は奥の部屋へと向かった雪輝の方へ行こうとする男の手首を掴んで本殿から、
離れた場所に思いっきり投げた。
男性はうまいこと受け身を取り、起き上がると俺を睨んできた。
「てめえ、邪魔してんじゃねぇよ」
「悪いけど、俺の友人の恋人があの中にいるんだよ……それに、
これ以上失踪者を増やすわけにはいかねぇ……ここで終わらせる」
すると、男性は腰に帯刀していたもう一本の刀を抜き、それを握りしめて、
俺と対峙した。
「神を二体打倒し、イザナギに傷をつけたてめえの力。見せてもらうぜ」
そう言って、男性は二本の刀を握り締め、俺に向かって駆け出してきた!
「見せてやるよ!」
俺も駆け出し、男性が二本の刀を振るうのと同時に俺も刀を振るいぶつけると、
辺りに金属音が鳴り響き、火花が散った。
「ふん!」
男性は右腕で持っている刀を振り上げ、俺を斬ろうとするが俺はそれを、
身を捩じらせて避けると、隙だらけの男性に刺突をくらわそうとするが、
男性も身を捩ってギリギリのところでかわした。
「弾けろ!」
「――――っ!」
刀から電流が放電され、放電された電流が刃の形をなして男性の頬を、
薄く切り裂いた。
「ちっ!」
男性は忌々しそうに舌打ちを一度してから、後ろに下がって距離をとった。
へへっ……鍛錬で完成した新技、隙を突くことはできるな。
「血……か」
男性は手で頬から流れている血を見ながら、そう呟いた。
「クハ……クハハハハハハハハハハハハハハハハハ!」
突然、男性は空を仰いで大笑いを始めた。
な、なんだ?
「何年ぶりだ! 俺が血を流すなんてよぉ! やっぱり神を二体も倒した奴は、
違うなぁ! 全力で行ってもよさそうだ!」
その瞬間、男性からすさまじい量の神力が放出され、あたりの地面を抉り始めた!
な、なんだこの神力の量は! トラロック以上じゃねぇか!
どう見ても人間っぽいこいつが神以上の神力を!
「やっはぁぁぁぁ!」
「ぐぅ! お、重!」
狂喜の笑みを浮かべた男性の一振りは凄まじく重い一撃で、刀で防いだ瞬間、
踏ん張っていた足が地面に抉り込んでいた。
「そらぁ!」
もう一振りの刀が振り下ろされるのが見えた俺は防ぐのをやめてその場から、
慌てて離れると、振り下ろされた刀は地面に当たった直後!
凄まじい衝撃波が辺りを襲い、地面に大きな穴をあけるとともにその周りに、
いくつもの斬撃の跡を残した。
「ミーナ!」
後ろから雪輝の叫びが聞こえ、振り返るとそこには白い着物を着たミーナさんが、
赤黒い紐のようなもので拘束され、オオマガツヒノカミの蛇に睨まれていた。
まさか、穢れを喰らうつもりか!
「させるか!」
俺は刀を振り下ろし、雷を纏った衝撃波を放つが後ろにいた男性が凄まじい速度で俺の目の前に移動してきて、刀で俺が放った衝撃波の軌道を反らした。
「良いもの放つじゃねぇか」
「退けぇ!」
俺はオオマガツヒノカミの方へと向かおうとするが男性がそれを阻む。
「行かせるかよぉ! 今、あいつは食事中なんだ!」
「退けつってんだろ!」
俺は全力で男を押し倒そうとするが男も反抗して、なかなか倒せない!
「そこで見ておきなさい。これが穢れを喰らう瞬間よ♪」
オオマガツヒノカミの背中の蛇がウネウネと動き出し、
徐々にミーナさんへと向かっていく!
どうすればいいんだよ! この男は退く気配ないし!
俺は男と鍔迫り合いをしながら急に解決方法が頭の中に浮かんだ!
俺はいったん、男から距離をとり、刀を消失させて弓を現出させて俺の神力で、
矢を複数、生み出したそれらを同時に引き絞った。
「刀で勝てないてめえが俺に弓で勝てるとでも思うのかぁ!?」
「思わねぇよ!」
俺はそう叫びながら、引き絞っていた手を離すと五本の矢がいっせいに、
男性に向かって放たれた。
「こんなもの……あ?」
男は刀で矢を叩き落とそうとするが、振り下ろされた刀は矢をスーッと、
通過して、男性にも矢は貫通したがダメージはなかった。
「てめえ、どういう」
「な、なによこれ!」
男性は後ろからの叫び声に振り返ると、そこには大量の矢が突き刺さった、
オオマガツヒノカミの姿があった。
「オオマガツヒノカミ!」
「穢れが! 吸収されていく!」
見る見る矢は金色から赤黒くなっていき、完全に赤黒い色に染まったとき、
オオマガツヒノカミが膝をついた。
「てめえ何しやがった!」
「俺が放った矢は穢れしか貫かなくてよ。人間のあんたには効果はないけど、
穢れの集まりである祟り神には効果抜群だ。
そしてその矢は穢れを封印する効果がある。雪輝!」
俺の叫びに雪輝は拘束されているミーナさんを抱きかかえて、
慌ててその場から離れようとする。
「させるかよ!」
しかし、二刀流の男性が雪輝を斬り裂こうとする!
「雪輝! 伏せろ!」
俺は雪輝にそう叫び、伏せたのを確認すると弓から槍に変化させて槍を、
男性に向かって投げつけると槍が形状を変化させ、紐のようになって、
男性にぐるぐるに巻きついて拘束した。
「ぐおおぉ! なんだこれ!」
「今のうちだ雪輝!」
雪輝はミーナさんを抱きかかえて男性から離れた。
男性から十分に離れたのを確認した俺は槍を俺の手元に呼び戻した。
「くっ! 穢れが……力が抜けていく」
オオマガツヒノカミはもう戦えないだろ……残ってるのは男性だけだな。
「てめえ、よくもオオマガツヒノカミを!」
男性の怒りの声とともに莫大な量の神力が放出される!
本当にあいつは俺と同じ人間なのかよ!
しかし、その瞬間、何かが割れる音が聞こえそちらのほうを向くと空間が粉々に、
砕けており、そこからアマテラス達が出てきた。
「済まぬな、神夜。少々時間がかかった」
「良いさ。ちょうど良い時間だ」
男性はアマテラスが到着したのを見るや否や、
オオマガツヒノカミを抱きかかえ、足を円を描くように動かすと、
地面に陣が現れた。
転位するつもりか!
「てめえ、名前は」
「紅神夜」
「……俺は風山翔太郎。てめえは、俺の手で殺す」
その一言を言い残して男性―――――風山翔太郎はどこかへと転移した。
戦いが終わり、普段ならホッと一安心するんだが今はできなかった。
俺の目の前には気を失って、眠っているミーナさんと雪輝の姿があった。
さっきまで起きていたんだがアマテラスの手によって二人とも強制的に
眠らせてしまったんだ。
「神夜……こやつらは神の力を目撃した……分かってるな?」
アマテラスが言わんとしていることは何となくわかる。
よくSFなんかである話だ……知られてはいけないことを知られたからそいつの、
記憶を消去する……たぶん、今からやることはそれなんだろ。
「こやつらの記憶を消す……消すのは神の力に関係していること全てじゃ。
じゃが、それだと……お主とも思いでもすべて消えてしまうのじゃ」
神に関係していることをすべて消す……俺が力を使って戦っているところを、
二人は見てしまっている。
「…………やってくれ」
「……分かった」
翌日の朝、通学路を歩いている俺にいつものように話しかけてくる奴はいない。
「ねえ、雪輝……今日、何の日か知ってる?」
「付き合って一年だろ?」
俺の目の前に俺の友人だった人たちがいる。
神に関係していることを消去された二人の中に、俺の記憶はない。
すると、歩いている雪輝がポケットからハンカチを落としたが気づかずに、
そのまま歩いて行く。
「おとしましたよ」
「あ、どうも」
俺は雪輝が落としたハンカチを渡した。
雪輝はそれを受け取り、またミーナさんと歩いていく。
「…………今日はサボるか」
俺は歩いてきた道のりを逆に歩いていき、
誰にも泣いているのを見せないようにして家に帰って行った。
こんばんわ……なんかこの作品精霊以下だわ。
まあ、書いてると楽しいから書き続けます。
自己満足ですね(泣)




