第四十一神 ミーナさんの異変
「ほれ! とってこい!」
アマテラスは上機嫌に家から持参したボールを投げて、
猫又三姉妹に追いかけさせる。
これ明らかに犬にさせる運動だよな……とても、
猫又にさせるような運動じゃないような……それに、いささか周りの主婦様達の、
ヒソヒソ話が聞こえてくる。
これ絶対に俺達のことを言ってるよな。
「まあ、あいつらが楽しぼはぁ!」
突然、俺の死角から何かが飛んできて俺の顔面に直撃した。
突然のことに防御すらロクにとれなかった俺はそのまま、横からの衝撃に、
体を持って行かれ、ベンチから落ちてしまった。
「すみません! 大丈夫ですか!?」
「すみませんじゃ……ミ、ミーナさん!」
声がしてきた方向を起き上がって見てみるとそこにいたのはミーナさんだった。
どうやら、俺の顔面に直撃したのはバスケットボールらしい。
「あ、神夜……大丈夫?」
「ええ、まあ……これ」
俺は地面に転がっていたバスケットボールを拾い、
ミーナさんに渡そうとしたとき、ふと彼女の手に赤黒い何かが、
付着しているように見えた。
まさかと思って一度、瞬きをしてから彼女の手を見てみるが、
赤黒い何かはどこにもなかった。
おかしいな……気のせいか。
「神夜?」
「あ、すみません」
いつまでたってもボールを返さない俺を不思議そうに見ているミーナさんの一言で我に返った俺はすぐさま、彼女にボールを返した。
「自主練ですか?」
「ええ、まあそんなとこね。貴方は……妹さんのお世話?」
「従妹のですがね」
ふと、アマテラスの方を見てみるがまだ、あいつはボールを投げて、
猫又三姉妹にとりに行かせるという遊びをしていた。
あいつらはあの遊びが少しズレているということに気づかないのか?
「でも、大変そうですね」
「ええ、自主練しないと推薦も狙えないしね」
「ミーナさんなら余裕じゃないですか!」
俺は笑いながらそう言うがミーナさんの反応は芳しくなかった。
あ、あれ? 俺なんかKYなこと言ったか?
「そ、そういえば最近、雪輝とはどうですか? もう少しで一年でしょ?」
「……………………あの人とは別れたわ」
俺は場の空気を変えるために提示した話題がまさか、先ほどよりも低い温度に、
させる原因になろうとは思わなかった。
い、今この人……雪輝と別れたって言ったか?
「ほ、本当ですか?」
「……ごめんなさい。時間がもったいないから」
そう言ってミーナさんはボールを持ち、向こうにあるバスケットゴールへと、
走って行った。
「……念のために」
俺は三番目の能力である弓の力を部分的に発動して、
穢れを見通すことが出来る力をONにして彼女を見てみた。
「……な、なんだよあれ」
向こうに走っていくミーナさんの全身は赤黒なっていた。
もう肌の色なんかほとんど見えない……全身が穢れに浸食されていた。
俺はアマテラスに相談するべく、彼女の方へ行こうとするとアマテラスも
ミーナさんの穢れの浸食度合いに気づいているのかジッとミーナさんの
方を見ていた。
「……アマテラス」
「うむ……とりあえず家に帰るぞ」
「え、でも」
「すでにマーキングはしておいた」
俺はアマテラスに従い、猫又三姉妹を連れて家へと帰った。
遊び疲れて寝てしまった猫又三姉妹を俺の部屋へと運び、留守中のタケミカヅチを抜いた俺とアマテラスの二人で会議を始めた。
「神夜。あのおなごの名は」
「あの人は三山ミーナさん。俺よりも一つ上の先輩で俺の友人の雪輝と、
恋人関係……だったんだけど、ミーナさん曰く別れたらしい」
「……つまり、別れた時のショックで穢れを」
俺はアマテラスの言ったことを首を左右に振って否定した。
「それはない。あいつらは一年間も付き合っていて、仲が良かったんだ。
喧嘩もしてたみたいだけど、そのたびに仲直りにつきあわされたんだ。
少なくとも雪輝の方から別れを切り出すとは思えない」
それに、もうすぐミーナさんの誕生日だ。
それを前にしてあの二人が別れるとも考えられない……行事があるごとに、
あの二人はイチャイチャしてたんだ……それに前の神夏祭の時だって、
あんなに幸せそうにキスもしてたんだ。
「お主がそこまで言うのならば……じゃが、選択肢としてはあり得る。
ほかに情報は?」
俺はアマテラスに自分が知っている全ての情報を離した。
二人はどの部活に入っているのか、テストの状況、
友人関係などについて知っている全てのことを話した。
「ふむ。お主から聞いた話を聞くだけではあのおなごがあそこまでの穢れを、
ため込むとは思えん……」
「仕方がない。一番、情報を知っているやつに聞いた方が早い」
俺は携帯を使って雪輝に電話をかけると、すぐにあいつにつながった。
『……はい』
向こうから聞こえてきた雪輝の声はいつものこいつの声からは、
考えられないほど低かった。
「俺だ。今、どこにいる」
『……家』
「今からそっちに行っていいか」
『…………ああ、良いぞ』
それを最後に通話は向こうから切られた。
「取り敢えず、俺は雪輝から可能な限り情報を聞いてくる」
「うむ。わらわは別の方面から情報を仕入れよう」
そう言って、俺たちは家を出て別々の方向へと歩き始めた。
家を出てから歩くこと約十五分、俺は雪輝が住んでいるマンションについた。
以前、あいつの家に遊びに行ったことがあるから部屋番号も覚えているのですぐにエレベーターに乗り込み、目的の階のボタンを押し、
目的の階にたどり着くと同時に雪輝の部屋番号へと走った。
「ここだったな……」
『は~い。どちら様?』
インターホンを押すと雪輝のお母さんの声が聞こえてきた。
「紅です。少し、雪輝と約束をしていて」
『そうなの……ちょっと待っててね』
ガチャっとインターホンを切る音が聞こえ、その数秒後にドアが開けられ、
雪輝のお母さんが出てきた。
「お久しぶりです」
「ほんと。大きくなったわね」
「……雪輝は?」
俺の質問に雪輝のお母さんは何も言わずに、
俺に家の中へ入るように手招きをした。
それに従い、家の中に入ると雪輝の部屋の前に案内された。
「雪君。神夜君よ」
ガチャッという音ともにドアが開けられ、暗い表情をした雪輝が出てきた。
こんなにも暗いこいつは初めて見た……ミーナさんが言ってたことは、
本当だったのか……。
ともかく、俺は雪輝の部屋に入り、雪輝のお母さんに二人っきりにしてもらい、
話を聞くことにした。
「単刀直入に言う……ミーナさんとなんで別れた」
「……実はさ。三日前くらいにミーナに呼ばれてさ。行ってみたら開口一番に、
別れてくれって……最近、調子が悪くてこのままじゃ大学の推薦も、
貰えないからって……」
大学の推薦が貰えない? ……確か、ミーナさんはもういくつかの大学から、
声を掛けられてるんじゃなかったのか?
「ミーナが言うには大学側が急に話をなかったことに、
してくれって言ったらしくてさ」
大学側が急に……そんな事あるのかよ……声をかけたってことは、
ミーナさんの実力を認めたってことだろ……大学側で何か問題があれば、
話は別だけど……それにミーナさんの普段の生活態度だっていたって普通だし。
「なあ、大学になんか問題とかあったのか?」
俺の質問に雪輝は首を左右に振って否定した。
「それって学校を通してか?」
「いや……試合の時に直接言われたらしい」
それを聞いた俺は確実に何かおかしいと思った。
生徒に直接言う前に先に学校を通さなきゃいけないだろ……。
普通はそうするはず……。
「それでお前はミーナさんの話を呑んだのか」
俺の質問に雪輝はまた、首を左右に振った。
それを聞いて呆れというか、なんか怒りが沸々と奥の方から出てきた。
「ミーナが別れてくれって言うなら……俺はそれに従うまでだよ」
もう、完全にブチギレた俺は雪輝の胸倉を掴んで壁に叩きつけた。
「そんなもんか……向こうに言われたからあっさり、はい、そうですかって、
言って引きさがるくらいにお前はミーナさんを好きだったのか」
「んなわけねぇだろ! 俺はミーナが大好きなんだよ! もうこのまま、
結婚してもいいって思うくらいに好きだったんだよ! でも……でも、
向こうがああいってきたんだから仕方がねぇだろ」
雪輝は両目からポロポロと涙を流しながら座り込んだ。
「……ミーナさんに会いに行くぞ。そんで話をしろ」
俺は雪輝を連れてミーナさんの自宅へと向かった。
こんにちわ




