第三十九神 猫又三姉妹お預かり期間初日
「ニャー! あの時はよくも騙したニャー!」
「イタタタ! 悪い! 悪かったから髪を引っ張るな!」
ウズメさんとミツルギさんは今、三日間の小旅行に行っている。
なんでも、結婚記念日百何十周年らしく今回は北海道辺りに、
旅行に行っているらしい。
その間、猫又三姉妹を預かっているんだが……正直、
俺――――紅神夜は猫又三姉妹のおもちゃにされて遊ばれている。
ニャーからは髪を引っ張られ、ミャーは俺の膝の上から離れないし、
ミィーは俺の部屋に忍び込んでから出てこないし……まったく、
よくミツルギさんはこの活発猫又三姉妹を世話していたな。
「ニャプ!」
「ギャー! 耳たぶを甘噛みするなー!」
うぉぉぉ! 耳たぶに当たっている舌のザラザラ感が超絶に気持ち悪いぃぃぃぃ!
「そうじゃそうじゃ! お主らもっとやってしまえ!」
アマテラスは腹を抱えて笑い、猫又三姉妹を盛り上げ、タケミカヅチに関しては、我関せずの姿勢を貫いており、トイレにひきこもっている。
「ニャーは本当に耳たぶが好きミィ~」
いつの間にかミぃーがかえって……ってその本!
「そ、それは!」
「変態お兄さんのベッドの下から見つけたみぃ」
俺が大ファンの巨乳グラビアイドル、水谷絵里奈ちゃんのセクシー水着の写真集がミィーの手に握られていた。
「か、返してくれ! それは俺の宝物」
俺がミィーから少々、無理やりに写真集を取り返そうとした瞬間、
俺の手が写真集に届く前に横から手がニュッと割り込まれて写真集を掴んだ。
「ほぅ~。お主はこのようなおなごが好きなのじゃな?」
俺の目の前には笑っているアマテラスがいる……でも、目が笑ってない!
「ま、まあ。そうかな」
「ふん」
「ぎゃぁぁぁぁぁ! 俺の写真集ぅぅぅぅぅぅぅ!」
アマテラスは大層、不機嫌な様子で手のひらから小さな炎を出すとそれを、
写真集に移して燃やし始めた!
俺は慌ててアマテラスから写真集を取り返し、慌てて燃えている本を台所に放り投げて蛇口から水を出して、本にぶっかけるが炎が消えた時には、
すでに写真集は真っ黒に焦げていた。
「お、俺の写真集が……」
「その本は十八歳以下は読んではならぬと書いておる」
「おれの写真集がぁぁぁぁぁぁぁ!」
今日も俺の叫びが家に木霊した。
「ニャ~」
猫又三姉妹は遊び疲れたようでソファで三匹仲良く、しっぽを右に左に、
動かしながら眠っていた。かくいう俺もグデングデンに疲れているので、
床に倒れて屍モードで休憩している。
つ、疲れた……こんなにも幼い子供の相手はしんどいものなのか……それに、
体の疲れよりも写真集を燃やされた精神的な疲れがひどい。
「お疲れ様じゃな」
アマテラスがカップをテーブルの上に置く音が聞こえたので、
アマテラスが俺にコーヒーを淹れてくれたものだと思い、
起き上がってみるとカップは一つしかなく、どう見てもアマテラスが握っていた。
「そ、そのコーヒーは」
「わらわのじゃ」
それを聞いた俺はガックリと肩を落とすと、アマテラスが急に笑い出した。
「ハハハ! 冗談じゃ。これはお主のじゃよ」
「よかった」
俺はアマテラスからカップを貰い、イスに座ってコーヒーを飲み始めた。
ちなみに無糖だ。
「まったく、あの年にもなって遊び疲れて寝るなど」
「あの年だから遊び疲れて寝るんじゃないのか?」
「まさかと思うが、お主はあやつらがまだ一ケタ台の年齢だと思っておるのか?」
俺はアマテラスの質問に首を縦に振ると、アマテラスは呆れたように、
小さなため息をひとつついた。
「なぜ、分からぬのだ? あやつらはもう、
人間感覚でいえばおばあちゃんじゃぞ?」
俺は思わずコーヒーを噴き出しそうになった!
て、てことはなんだ!? こいつらは七歳とかじゃなくてその十倍の七十歳、
くらいってことか!? じゃあ、俺は七十のばあちゃんに、
耳たぶやらほっぺたやらをペロペロされてたのか!?
想像すれば何か凄まじい光景になりそうだから想像はしないんだけどさ……。
まさか、あいつらが人生の大先輩だとは。
「ま、猫又という種族は神ほど長くはないが人間の十倍以上は生きるからの。
猫又の感覚ではまだ、幼子じゃろうな」
「……そう言えばさ」
俺は以前から気になっていたことをアマテラスに質問することにした。
「前にへーパイストスがお前に五代目って呼んでただろ?
あれどういう意味だよ」
「おっ。まだ言っておらんかったな。わらわは本物の天照大神ではない。
名前と血を受け継いだただのそこらにいる神族……というよりも一応、
神ではあるがそこらにいる神じゃよ」
マ、マジかよ! まあ、神話に出てくる神がまだ現役で神様やってます!
って言われてもな……つまり、神はその名を受け継いだ奴らが、
やっているという訳か……。
「じゃあ、ウズメさんも?」
「うむ。あ奴は二代目じゃ。タケミカヅチは三代目、ミチザネも二代目じゃ。
あとトラロック、へーパイストス、イザナギなどは二代目か三代目じゃの」
数万年生きるっていう神もやっぱり、死ぬときは死ぬんだな。
そして、自分の名前を娘や息子に襲名させてその仕事を受け継がせて、
あたかもオリジナルの神が人間に加護なんかを与えているっていう訳か。
……となると、なんかアマテラスの母親、父親を見たくなってきたぞ。
一体どんな性格の父親、母親からこんな唯我独尊、女王様気質のお嬢様が、
生まれてくるのかが知りたい。
アマテラスの話し方とかから推測するに……一人称は我、
もしくは吾輩とかか……後、語尾に『~なり』とか、『~である』とか
特徴的な形をしてそうだ……そして、全員が上から目線。
「ん? なんじゃ?」
「良いと思います」
「は?」
うん! アマテラスの母親も父親もみんな上から目線で一人称が特徴的、
語尾も特徴的な古い話し方をする人だ! 間違いない!
となると、母親も父親も美女美男というわけだな!
そりゃ、こんな美人な奴が生まれてくるんだからな!
「何を言っておるのじゃ?」
「いや、気にしないでください……ていうか、こんなに平和でいいのか?」
「どういう意味じゃ?」
「いや、俺もお前もサバイバル参加者だろ? つまり敵……なのに、
なんでタケミカヅチと戦わないんだ?」
すると、アマテラスは憐れみをふんだんに込めた眼で俺を見てきた。
な、なんだよその『お主はバカじゃな』って言いたげそうな眼は!
「お主がわらわと戦っても一秒で蹴りがつくからのぅ。
それではつまらんから敢えて、スルーしているだけじゃ」
俺はアマテラスの言うことに何も反論できなかった。
確かに俺は昨日もタケミカヅチに瞬殺されたし、ウズメさんには毎回、
ボコボコにされるし……そんな二人よりも強いらしいアマテラスが俺と、
戦えば一秒もたたずに負けんじゃねぇのか?
「それにわらわはすでに数百の神を倒しておるからの。
今更、お主を倒したとしても微々たるもんじゃよ」
「す、数百!?」
俺が驚きのあまり、大きな声を出すとアマテラスは人指し指を立てて静かに、
するようにとジェスチャーで言ってきた。
あぁ、悪い……にしてもいったい何人の神がこのサバイバルに参加してんだよ。
「し、神夜」
と、俺の名前を呼ばれたのでそちらのほうを向くと何故か、
タケミカヅチがドアから顔だけを出してこちらを覗いていた。
「どうしたんだよ」
「ね、猫又三姉妹は寝たのか?」
「ああ、寝たけど」
すると、タケミカヅチは恐る恐る、リビングの中に入って来て、
自分の目で猫又三姉妹が寝ているのを見るとホッと一安心した。
「タケミカヅチは猫が嫌いじゃからのぅ」
「う、うるさい! あ、あたしはあんな毛むくじゃらの、
どこがいいのかが分からん!」
「でも、あいつらは猫又だぞ?」
「猫又は猫の妖怪だ!」
その瞬間、俺の中にあるイタズラ心に炎が点火された。
この様子だとこいつは相当の猫嫌い……しかし、アレルギーという訳ではない……
アレルギーだったらこの部屋に入るのも躊躇うからな……普段の恨みを、
今ここで晴らさずしてどこで晴らすのか! 今でしょ!
俺はどっかのCMで聞いたことのあるセリフを心の中でつぶやいた直後にイスから立ち上がり、寝ているニャーを起こさないように抱き上げ、
タケミカヅチのうなじの部分にニャーの尻尾をつけてやった。
「ひぃぃ! き、貴様!」
タケミカヅチはうなじの部分に一瞬だけ、尻尾がついただけなのに、
相当ビビっている。
これが俺のイタズラ心を刺激した!
「ほれほれ~。猫だぞ~」
「き、貴様! き、斬るぞ! は、早くそのね、猫を遠ざけろ!」
目に涙を溜めながらタケミカヅチは俺に怒鳴り散らすが三姉妹を起こさないために
普段よりも小さな声で怒鳴っているのでほとんど怖くない。
「さぁ~。ニャーよ。お前の大好きな食べ物だぞ~」
「く、来るな! 来るな!」
壁に追いつめた俺はニャーを徐々に近づけていく。
グフフフフ! いつもの鍛錬での恨みを今ここで晴らさせてもらう!
ニャーの尻尾がタケミカヅチの頬に当たろうとした直後、
横から手が伸びてきてニャーを盗ってしまった。
「やり過ぎじゃバカ者」
「ちぇ~。ただの冗談、ひっ!」
突然、俺の全身に鳥肌が立ち、嫌な汗がダラダラと流れてきた。
この後ろからの凄まじい殺気! まさか!
「神夜ぁ~」
後ろには般若かしたタケミカヅチが立っていた。
「……にゃ~?」
「成敗!」
その後、
俺は口を封じられながらタケミカヅチに逆えび固めを決められてしまった。
こんにちわ~




