第三十四話 神光
空間の裂け目から出た俺の目の前に、アマテラスとタケミカヅチ、
そしてイザナギがいた。
どうやら一戦、交えようとしたときに俺の登場で一時中断しているらしかった。
「貴様っ! どうやって空間の裂け目から!」
「お前と同じように空間を破ったんだよ」
俺を空間の裂け目につき落とせばそれで終わりと思っていたのか俺が、
帰還したことにイザナギはかなり焦っていた。
あいつと戦う前に俺はアマテラス達のもとへと向かった。
「よ。心配掛けて悪い」
「……まったくじゃ。心配したぞ」
そう言ってアマテラスは俺の頭を抱え込むように、抱きしめてきた。
「こ、こんな人目があるところでお、お前何抱きついてんだ!」
俺がそう言ってもアマテラスは何も言わずに俺を抱きしめ続けた。
うぅ……こ、こういう場合って抱きしめ返してもいいんだよな?
俺は覚悟を決めて、腕を動かしてアマテラスを抱き返すと一瞬、
彼女は肩をビクッとさせて驚いたがすぐに落ち着いた。
お、女の子ってなかなか柔らかいんだな……それに良い匂いもするし……まあ、
場違い感は半端なく感じるけど……ま、良いか。
「……行って来い」
「ああ……行ってくる」
俺はアマテラスにそう言って、槍を握りしめイザナギの方を向いた。
「人間が!」
「人間でも頑張れば神に追いつけるっていういい例だ」
俺は普段しているペン回しの要領で指と指を往復させながら槍を回転させると、
槍の先からバチバチと電流が迸るのが分かった。
ほほぅ……こいつはどうやら、回したら発電するんだな。
……これをうまいこと使えば電気代超節約できるじゃん!
「死ね!」
イザナギは矛を俺に向かって突き刺してくるが、俺はそれをギリギリで避けて、
槍を突き刺そうとするがイザナギは身を翻して俺と同じように、
ギリギリでかわした。
「これはどうだ!」
イザナギは矛を連続で突き刺してきた。
「おぉ! おっと!」
俺は連続で突き刺してくる矛を槍でいなしていき、手のひらに火球を、
生み出してイザナギに向かって投げた。
「この程度の火球が当たると思うのか!」
火球は呆気なく、イザナギの矛で真っ二つに切り裂かれて小さな爆発を起こし、
消滅した。
「じゃ、こういうのはどうだ!」
俺は槍をイザナギに向けた直後、槍がイザナギに向かって伸びていった!
「ちっ!」
突然のことに驚きつつもイザナギは伸びた槍を矛で弾き、
隙だらけの俺に向かって猛スピードで走ってきた。
「伸縮自在の武器は伸ばした後は隙だらけだ!」
イザナギが叫びながら俺に矛を振り下ろすが俺は伸ばしていた部分を、
光速で元の長さに縮ませて防いだ。
さっきまで伸びていた槍で防がれたことに驚いたイザナギは忌々しそうに、
舌打ちを一回して、俺から距離をとった。
「いつの間に槍を戻した!」
「一瞬で。この槍ってさ、いつもの長さに戻すときは光の速度で戻せるんだよ」
俺の発言にイザナギは驚きを顔いっぱいで表現した。
まあ普通、槍が伸びるっていう時点でおかしいのに伸びたら光の速度で、
元の長さに縮むっていうのもおかしな話だわな。
「ここで問題。光の速度で槍を縮めることができるということはつまり」
俺がそこまで言って槍をイザナギに向けるとイザナギはすぐに何らかの
呪いを使って防御しようとするがそれよりも早く俺の槍が伸びて行き、
イザナギの肩を貫いた。
「光の速さで伸ばせるってことだ」
槍がイザナギの肩を貫き、空中に赤色の液体が舞った。
「ぐぁ!」
俺は光の速度で元の長さに戻すとイザナギは貫かれた肩を押さえて俺の方を、
キッと殺意をふんだんに込めた眼で睨みつけてきた。
「俺を人間だからということで嘗め過ぎた結果がこれだ……人間を、
なめんじゃねぇよ。神さんよ」
俺を嘗めずに倒すべき相手として戦っていたらこんな子供だましみたいな、
攻撃にも引っかからずに俺を殺せたんだ。
多分、アマテラスやタケミカヅチにしてもあいつらなら余裕で避けるだろうよ。
「はっ! この程度の傷で倒れると思うか!? 油断していたのではない!
あえて貴様の攻撃を受けてやったのだ! 図に乗るなよ! 人間がぁ!」
「悪いのぅ。貴様の相手は神夜だけではないのじゃ」
後ろからの声にイザナギは振り返ろうとするがそれよりも早く、
炎があいつを包み込み、大爆発を起こした。
「ぐっ! アマテラス!」
「あたしもいるぞ!」
上からタケミカヅチが落ちてきて、イザナギに向けて刀を振り下ろすがイザナギは片腕で矛を持ち、振り下ろされてくる刀を防いだ。
「貴様ら!」
イザナギはタケミカヅチを矛で無理やり、弾き飛ばして距離をとった。
「人間に手を貸すというのか!」
「そうじゃ」
「堕ちたものだな! 高天原の主神が下等な人間に手を貸すなど!」
イザナギの言い方にイラッと来た俺は、
言い返そうとするがアマテラスに止められた。
「イザナギ。わらわも以前までは人間など取るに足らんものじゃと思っておった」
まあ、その結果があの性格だったからな。
むしろあんな性格をしていて人間大好きです!
なんて言われても信じられないし。
「じゃが、神夜に出会ったことでその考えを改めさせられた。
確かにこやつはそこらにいる人間とは違い、力を持っておる……じゃがな、
それ以外は人間じゃ。その人間が呪いを使い、力を使って神と戦い、
神を打ち倒す……人の可能性というやつをわらわはまじかで見た。
人は下等なのではない……神すら超える可能性を持っておる」
アマテラスの言っていることにイザナギは驚きを隠せないでいた。
恐らく、イザナギが知っているアマテラスは人間を下等なもので戦いに、
巻き込んで傷ついてもどうでも良い――――――そんな奴だったんだろう。
でも、今は違う。こいつは……変わったんだ。
「イザナギ。もう、お前が知っているアマテラスはいないぜ?」
「そうか……ならば、堕ちた神である貴様らを殺すまでだ!」
その瞬間、イザナギの全身からすさまじい量の神力があふれ出してきた。
あまりの量に空気が震えているのが分かる……これがイザナギの本気か!
イザナギが矛を握り締めた瞬間!
突然、どこかからか何かが折れる音が聞こえてきた。
「上だ!」
タケミカヅチの叫びを聞き、俺は慌てて空を見上げると空にひびが入り、
そこから光が降り注いでイザナギを包み込んだ。
「な、なんだあれ!」
「神光。最高位の神だけが扱うことができる移動手段じゃ。
あれの内と外では次元が切り離されている」
つまり、あの光に包まれたが最後、
中にいるイザナギには手を出せないってことか!
「時間か……」
「イザナギ! お前のバックに誰がいるんだ!」
「……貴様らもよく知っているお方だ」
タケミカヅチの質問にイザナギは静かにそう答えると、
空に開いた穴へと消えて行った。
戦いが終わり、家に帰ってきた俺達の間には妙な空気が流れていた。
アマテラス曰く、神光を扱えるのはアマテラスを含めて数人らしく
イザナギは使えない……つまり、あいつの後ろにはアマテラスと
同じ格の神が付いていることだ。
「……ま、いずれ分かるじゃろう」
「なんか意外と軽いんだな」
「悩んでいても仕方がないからな。今はサバイバル中だ。神が何かを、
企てているということはよくあることだ」
なんか凄く軽いな……まあ、
こいつらが言うからには大したことはないんだろうけど。
……でも、あいつは俺を殺す理由をある計画のためって言ってたよな……
その計画も神が企てているサバイバルで生き残るための計画なのか?
……分からん。
「取り敢えず、神夜も帰ってきたので出前でも」
「取らねぇよ。今日は賞味期限がギリギリの野菜を食うんだ」
俺がそう言うと二人は不満そうな顔で俺を見てくる。
「晩飯抜くぞ」
その一言で二人は撃沈した。
どうも




