第三十二話 二人目との邂逅
『あらあら、青春しちゃってるね~』
また、あんたか。
『そんなに嫌そうな顔をしないでくれよ~。久し振りに、
会ったから楽しく話そうぜ』
別に久しぶりに会ったからと言ってあんたと話すことは、
何もないような気がするんだが……金髪イケメン。
『言うね~。まあ、話があるのは本当だ……直に二人目がお前の前に現れる』
その二人目ってなんだ。この前、あんたが言っていたあんた以外の奴に会えると、
言っていたそいつらか。
『ああ。ハッキリ言えばこの力の過去の所有者たちだ』
過去の所有者……なんで、俺に会いに来るんだよ。
『もともと、あいつらはお前に会う気はなかったんだ。だが、
お前は過去とは違う道を示した。例をあげれば俺の二本の刀を一本に、
纏め上げた……もっと、いえばてめえが人間だってことだ』
そう言えば、あんたは名無しの祟り神さんだっけ?
『ああ……いつの時代も神とは敵対する奴らに宿ってきたこの力が、
敵とも味方とも言えない人間に宿った。いずれ、お前はこの力を本当の意味で、
理解し、どういう風に扱うかを考えなければならない時が来る。
そして……この力は刀以外の形を持っている』
「どういう……またかよ」
以前と同じように金髪イケメン野郎に質問をしようとした瞬間に、
現実に戻ってきてしまった。
また核心を聞けなかった……俺が使っている力の姿は一つじゃない?
この前の使いズラさに関連してんのか。
以前、イザナギの襲撃を受けた際に刀を扱いずらかった……別にどこにも、
俺の身体に問題はなかった……問題があったのは感覚の方だ。
頭では刀を握っていると理解しているのに感覚は違うものを握っていた…。
えるなら……槍……みたいな長いものを持っている感覚だった。
「んん……」
「……そう言えば、アマテラスの隣で寝てたんだっけ」
くぐもった声が聞こえ、そちらのほうを向くと気持ちよさそうに、
アマテラスが眠っていた。
「……ちと、起きるには早いが起きるか」
時計を見ると5時半と表示されていたが俺はアマテラスを起こさないように、
静かにベッドから起き上がり、リビングへと向かった。
「ん? 明かりついてる……タケミカヅチか?」
リビングへと向かう廊下で明かりがついていることに気付き、俺はいつもの通り、
リビングへとつながるドアを開けて入ると、
そこにいたのはタケミカヅチではなかった。
「よう。遅かったじゃねえか、人間」
「イザナギッッ!」
リビングにいたのは俺を殺そうとしている神――――イザナギだった。
「な、なんでてめえがここに!」
「空間を弄るのが得意でね」
俺は力を発動して、刀を現出させようとした瞬間!
「させるか」
イザナギが突然、俺に向かって駆け出して俺を突き飛ばした。
本来なら壁に当たるはず……でも、当たるはずの壁がそこにはなく、
あったのはどことも言えない空間だった。
こ、こいつ! 予め空間に穴をあけてそこに俺を!
突然のことに俺は反応できずに空間の穴へと吸い込まれていく。
「じゃあな。永遠にさまよってろ」
出口が塞がっていく!
俺は何もできず、目の前の出口が徐々に閉じていくのを見ながら、
後ろへと体制を崩していく。
「アマテラス、助け」
俺はそのまま空間の穴へと吸い込まれた。
「……神夜?」
先ほどまで熟睡していたわらわは誰かに呼ばれた気がして起き上がるが、
部屋には誰もいなかった。
隣で寝ていた神夜もいない……もう起きたのか。
時計を確認してみると時間はすでに七時を回っておった。
「んん~……顔洗いに行くかの」
わらわは一度、け伸びをした後、顔を洗うために洗面所へ行こうと部屋から、
出るがどこか、違和感を一瞬だけ感じた。
なんじゃ……いつもと何かが違う……。
わらわはその違和感を確認すべく、辺りを見渡してみるとリビングへと、
つながるドアが開きっ放しになっていた。
「……神夜は開けっ放しにするなと怒っておったの……」
わらわは開きっ放しになっているドアを通り、リビングへと入ると、
その違和感はハッキリとしたものとなった。
「神夜!」
わらわはすぐさま、タケミカヅチを叩き起こすべくあ奴が寝ておる部屋へと入り、あ奴を叩き起こした。
「タケミカヅチ! さっと起きぬか!」
「イタタタタタ! 髪を引っ張るな! 今日は休みだぞ!」
「神夜が居らぬのじゃ!」
わらわがそう叫ぶとタケミカヅチは二度寝しようとしていたのを止め、
ベッドから飛びあがった。
「どういう意味だ!」
「良いから来い!」
わらわはタケミカヅチを連れてリビングへと向かい、
その景色をタケミカヅチに見せた。
「……空間を斬った跡か」
リビングの壁には空間を斬った際に出来る空気の揺らめきがあった。
「まさか、神夜は」
「これがあるからと言って空間の裂け目に飲み込まれたわけじゃない。
いったん、ウズメを呼ぶぞ。あいつの方があたし達よりも遥かに詳しい」
そう言って、タケミカヅチは電話を取りウズメへと電話をした。
神夜……わらわがついておきながら……。
「……ん」
意識が完全に覚醒した俺は目を開き、起き上がると周りの状況に、
驚いて何も言えなかった。
確か……空間の裂け目に飲み込まれたんだよな……じゃあ、
ここが空間の裂け目の中? ……なんか妙な気分だな。
辺りは何もなく、俺がいつも暮らしているときに見ている景色の色が、
おかしくなっていた。
例えるなら……白黒のテレビみたいな感じか。
赤も、青もそんな色は存在せず白か黒の一色に染まっていた。
「取り敢えず、ここから出ねぇとな」
俺は力を発動して、刀を現出させて思いっきり振り下ろすが何も起こらなかった。
「……どうやってここから出るんだよ」
途方に暮れたその時、遠くの方から雪駄で歩いているときに、
聞こえる音が聞こえてきた。
俺以外にもこんな辺鄙なところにいる奴が……。
『は~い。初めまして~』
「うおっ!」
しかし、音が聞こえてきた方向とは逆の方から突然、後ろから抱きつかれた。
俺は突然のことに驚き、離れようとするが後ろから抱きついているやつが一向に、
離してくれなかった。
「だ、誰だよあんた!」
『誰って、あの時、会ったじゃないの~』
あの時? ……どの時だよ。
『ほら~。あんたが神と話しているときよ』
「……もしかして、あの時話しかけてきたのはあんたか?」
『ご明察~。いい子いい子』
そう言って、後ろから抱きついてきた奴は俺の頭を優しく撫でてきた。
一体何なんだ、この人は……あの金髪イケメンが言っていた他の人ってやつか?
「あんたは誰なんだ」
『ん~? 初代から聞いてないの?』
「初代?」
初代って……あの金髪イケメン野郎のことか?
それに、よく見たらこの人の髪色も金じゃねぇか……やっぱり、
この人があいつが言っていた他の人……か。
『取り敢えず、お姉さんとお話しましょ。このまま』
どういう訳かは知らないけど俺は後ろから抱きつかれたまま、
無理やり座らされて金髪の女性と話すことになってしまった。
『あんた名前は?』
「紅神夜」
『ふ~ん。神夜か~』
交わした会話は名前だとか、誕生日はいつだとか、何歳だとか、
そんなありふれた内容ばかりだった。
『ねえ……ここから出たい?』
「もちろん。でたくないっていう方がおかしい」
普通はこんなところに閉じ込められたら出たいって思う方が当たり前だ。
でたくないっていう奴はよっぽどおかしなやつぐらいじゃねぇの?
『そうね……もう少しお話しましょ』
それからまた、意味のない会話が続けられた。
こんばんわ……いかがでしたか?




