第二十二神 鍛冶の神へーパイストス
へーパイストスが去ってから、俺の家で緊急の会議が開かれることとなり、
ウズメさんたちを家に招いた。
「へーパイストスもサバイバルに参加したとなると厄介じゃのう」
アマテラスの一言に俺以外のメンバーが納得しているらしく、
首を縦に振ったり、何かを考えているようだった。
「なあ、なんでへーパイストスって奴がサバイバルに参加してたら厄介なんだよ」
「へーパイストスは炎の神と鍛冶の神を兼任しているんじゃ。
今、タケミカヅチが使っている布都御魂剣も、
ウズメの槍も、ミツルギの黒刀も全てへーパイストスが作った物じゃ。
それらの武器の短所も長所もすべて把握しておる」
つまりタケミカヅチやウズメさん、ミツルギさんがへーパイストスと戦うのは、
あまり得策ではないと……確かに短所も長所も把握されている武器で、
戦うってことはもともと答えの知ってるクイズ番組に出るみたいなもんか。
すぐに対策が打たれると……。
「じゃあ、どうするんだよ」
「お前が倒せ。神夜」
俺はタケミカヅチが言ったことに肩を落として落胆した。
だよね……そうなるとは思ってたけどさ~!
「タケミカヅチ様。それはいくらなんでも」
俺を戦わせるということにミツルギさんが異議を申し立てる。
まあ、そりゃ何も知らない人がさっきの話を聞いたら異議を、
申し立てるのは普通だよな……。
「いくら、このガキがアマテラス様の加護を受けているとしても、
それは意味のないことだと思います」
「え、えっと俺は」
「わらわの加護を受けておるからこやつを戦わせるのじゃ」
俺が加護を受けていないということをミツルギさんに言おうとしたときに、
アマテラスが横から俺の声を潰すような感じで加わってきた。
ていうか、俺そのカゴって奴を受けてないじゃん!
心の中でそう叫ぶも俺を置いてけぼりにして話は進んでいく。
「ですが!」
「そうだぞ! 俺は人間なんだぞ!
少しは俺のことも考えてくれよアマテラス!」
すると、突然、ミツルギさんが怒ったような顔をして胸倉を掴んできた。
「貴様! アマテラス様を呼び捨てするなどというなんと失礼なことを!」
「よいよい。わらわがそう指示しているのじゃ」
アマテラスに言われてミツルギさんは納得いかないような顔をするも渋々、
俺の胸倉を掴んでいる手を離した。
こ、怖ぇ……。
「取り敢えず、この中で最も勝つ確率があるのがお主じゃ。神夜。
貴様もサバイバルに参加している身じゃ。いずれは狙われる」
「ア、アマテラス様。今のはどういう意味ですか?」
俺がサバイバルに参加していることに疑問を抱いたミツルギさんが、
アマテラスに尋ねてきた。
「ん? ああ、そうじゃな。こやつはトラロックから、
サバイバル参加資格を受け継いだんじゃよ」
それを聞いたミツルギさんは口をあんぐり開け、目を見開いて顔全体で驚きを、
露わにして固まってしまった。
まあ、人間がサバイバルに参加してるって聞けば普通はそんな反応するわな。
「ト、トラロック様が人間に負けたというのですか!?」
「違う違う。トラロックが神夜に託したんだよ。
自分が出来なかったことをして欲しいって」
「……人間が……」
タケミカヅチから俺がサバイバルに参加することになった経緯を、
部分的に聞いたミツルギさんは何故か、俺を憎しみと殺意がふんだんに、
込められた目で俺を睨みつけてきた。
「ともかく。へーパイストスと神夜を戦わす。それで決まりじゃ」
俺にとっては都合の悪い決定がこの日、決まってしまった。
そして、翌日の朝。
俺はいつもよりも早くに起きてしまったので近くの公園まで来ていた。
「ハァ……なんでまた俺が戦うことになったのやら」
俺はそう呟きながら公園のベンチに座り、ポケットからトラロックから、
受けついだサバイバル参加許可証を取り出し、眺めた。
すると、中央に小さな青白い炎が一つ現れた。
確かこの絵馬は倒した相手の神力ってやつを自動的に吸収して倒した数を、
測定するってやつだったよな……一つってことはつまり、
今まで倒してきた神の数は……一人。
もしくは、俺に絵馬の所有権が移った際にこいつがトラロックを、
俺が倒したと判断してあいつの力を吸収したのか……。
『…………あんたにはこのサバイバルをグチャグチャに、
かき混ぜてほしいのよ……それと、私が出来なかったことを
あんたにはして欲しい。そして、このサバイバルの行く末を見届けてほしい』
トラロックが俺と戦って何を思い、これを渡しのかは俺には分からない。
「でも……俺はあいつに託されたんだよな……出来るかは分からねぇけど」
「貴様には無理だ」
突然の声に俺は絵馬を直し、声がした方を向くとそこには黒刀を、
肩に担いだミツルギさんがいた。
「どういう意味ですか」
「そのままの意味だ。貴様程度の力でこのサバイバルを生きていけるどころか、
勝つことなど不可能だ。トラロック様の願いを、
無駄にしたくなければそいつを俺に寄こせ。
そして、貴様は穢使でも倒して、喜んでおけ」
……ちょっと、頭にきたな。
「断れば?」
「力づくでも奪うまでだ」
そう言ってミツルギさんは黒刀を躊躇なく、俺に向かって振り下ろしてきた。
「ちっ!」
俺は振り下ろされてくる黒刀を俺の刀で防ぐと、驚いたような顔をした。
「貴様……神獣を宿しているのか!」
「らしいぜ!」
俺はもう一本の刀をミツルギさんめがけて振り降ろすがミツルギさんはすぐさま、俺から離れて刀を避けるとともに距離をとった。
「悪いがこいつをお前に渡すわけにはいかない。トラロックは、
俺に託したんだ。てめえに渡したところで俺はあいつを裏切ることになる」
「っっ! 貴様! アマテラス様だけではなくトラロック様まで呼び捨てに!」
ミツルギさんは怒鳴り散らしながら黒刀を振るうと、
刀から黒い何かが俺めがけて放たれてきた!
「うぉぉ!」
俺は慌ててその場から離れて黒い何かを避けると、
俺の後ろにあったベンチが綺麗に半分に切断された。
「な、なんだあれ!?」
「敵に背を向けて余裕だな」
上からの声に俺はそっちの方向を見ずにその場から横に飛ぶと俺がいたところに、
ミツルギさんが降ってきて地面に黒刀が刺さった。
「ちょっと待ってくれ! そんなに俺が戦うのが気に食わないんなら、
アマテラスに言ってくれよ!」
「黙れ!」
そう叫ぶともう一発、ミツルギさんは刀を振って黒いのを放ってきたから俺は、
今度は避けずに刀で受け止めた。
「ぐおおぉぉぉぉぉぉぉ!」
刀で受け止めた瞬間、足が地面にめり込み徐々に後ろに押され始めた。
「おぉぉぉぉ!」
気合いがこもった叫びを発した瞬間、二本の刀を繋いでいる鎖から電気が迸り、
その電気が刀の刀身に伝わり、金色に輝き始めた。
「どりゃぁぁぁぁぁ!」
俺は力づくに刀を振るうと刀身から凄まじい電気が放出され、黒い何かを、
斬り裂いてまっすぐミツルギさんめがけて飛んで行った。
「ちっ!」
ミツルギさんは忌々しそうに舌打ちをして上空に飛びあがって、
雷の衝撃波のようなものを避けた。
「何がそんなに気に食わないんだよ」
「お前には関係ない!」
ミツルギさんは懲りずに俺に斬りかかってきた直後、俺達の
間を何かがものすごい速度で通り過ぎていった。
「朝っぱらから何をしておる。たわけども」
声がした方向を見るまでもなく喋り方でアマテラスが来たんだと分かった。
あいつの喋り方って特徴的だからな。
「ア、アマテラス様」
「ともかく、刀を直せ。穢使がいるわけでもあるまい」
そう言われて俺は素直に刀を消失させたがミツルギさんは渋々と、
いった感じで刀を下ろした。
「まったく、ほれ神夜。時間も時間じゃからこのまま学校へ行け」
そう言ってアマテラスは俺の制服とカバンを手渡してくれた。
「ああ、ありがと」
俺はアマテラスに礼を言って学校へと向かった。
こんにちわ~……伸び悩みますね




