第二十一神 火の玉
アマテラスの機嫌も直り、いつもの日常に戻ったある日のこと。
俺が学校に行くと何故か、全員がやや興奮気味に駄弁っていた。
雪輝の周りを中心に女子数人、男子数人が集まっていてかなり、
興奮している様子で、かつ楽しそうに話していた。
普段ならあまりこういうことはない。
「な、なんだ? 何か面白いことでもあったのか?」
「あ、神夜! こっち来い!」
雪輝に呼ばれて、机にカバンを置いてそいつのもとに行くと雪輝の周りに
五人ほどの男子が集まって、何やら新聞を見ていた。
珍しい……いつもはエロ本かマンガしか読まないのに新聞を読むなんてな……。
「これ見てみろよ!」
雪輝に言われて新聞を受け取り、指さしている記事を見てみるとそこには、
いつもの人気のコーナー、『今日のオカルト』が一面にでかく載っていた。
「いつもは後ろのほうなのにな……は?」
俺はそこに書いてある内容を見て思わず、そう言ってしまった。
そこに書かれている内容は夜、誰もいない街中で火の玉がいくつも出現し、
ふわふわ浮いているというものでその証拠写真らしい物までもが掲載されていた。
「で? これがどうかしたのか?」
「そんな反応だけ!? だって、火の玉だぞ!?」
「どうせ、またいつもの捏造だって」
まあ、俺は火の玉よりももっとスクープになるようなものを何回も見てるし
今の俺だったら火の玉くらい普通に作り出せるし、刀だって何もないところから、
余裕で作り出せるわ!
「夢がないな~。でさでさ! 今度の休みの日に火の玉が現れるっていう場所に、
行ってみようと思うんだよ!」
俺はそれを聞いて果てしなく呆れてしまった。
こいつは子供か……それにそんなことミーナさんが許さないだろ。
ミーナさんはお堅い性格というか真面目というか、法律や条例で、
決められていることは絶対に護る。だから酒だって水で割っていても飲まないし、
夜の遅い時間帯には例え、コンビニにさえ出かけないし。
「ミーナさんはどうするんだよ」
「ミーナも見に行きたいって言ってんだよ!」
おいおい……なんで、ミーナさんまで火の玉を見たいって言いだす……あの、
お堅い性格のミーナさんが夜の遅い時間帯に出かけるとは……でも、
たぶんその火の玉って奴も神の仕業だろうけどさ。
「神夜はどうする!?」
「俺は良い。そう言う系は信じないタイプだから」
「そっか。じゃあ、俺達で証拠の写真を撮ってきてやる!」
そう言って、雪輝は周りに集まっていた奴らと入念な準備に入るべく、
何やら怪しい会議を始めてしまった。
でも、火の玉ね~……まさか、アマテラスじゃないだろうな。
そんなことを思っていると始業のチャイムが鳴り、先生が入ってきたので、
俺はいったん考えるのをやめて、授業に集中した。
その日の晩、穢れを払いに行くというのでアマテラス達に同行すると、
何故かウズメさんたちとばったり出くわした。
「紅。今何時だと思ってんだ」
「じゅ、十二時です」
「高校生がそんな時間までいても良いと思ってんのか!」
ひぃっ! やっぱり、この人の怒鳴り声は怖ぇぇ! しかも、
今真夜中だから景色も手伝って余計に怖ぇぇ!
「たっく、アマテラス。なんで、こいつもつれて来てんだ」
「こやつは餌での。仕事を効率よく進めるには連れてくるしかあるまい。
ほれ、もうウヨウヨいるぞ」
アマテラスが指さす方を向くとそこに、大量の穢使が
涎を垂らしながら、俺達の方を向いていた。
いや、正確には俺の方を向いていたの方が正しいか。
「取り敢えず、やるかの」
アマテラスのその一言で全員が己の獲物を取り出した。
ウズメさんは手元の空間をゆがませて、
そこから何やら槍のようなものを取り出し、旦那さんのミツルギさんは、
暗くてよくは見えないが、刀を持っていた。
「今日も大量じゃ♪」
アマテラスが嬉しそうに言いながら炎を発した瞬間、
穢使と俺達のバトルが始まった。
「退け退け退け!」
俺とタケミカヅチ、そしてミツルギさんは刀を振るい、穢使を斬り裂いていき、
アマテラスはいつものように炎で焼きつくし、ウズメさんは槍で、
穢使を貫きながら、要所要所で呪いを使い、一掃した。
「ニャー!」
「ミャー!」
「ミィー!」
猫又三姉妹は息の合ったコンビネーションを発揮してその鋭い爪で、
穢使を次々と切り裂いていった。
「なんか、あの子たちもすごいな」
「当たり前じゃ。一体何年、ウズメのもとで戦っておると思うのじゃ」
穢使を斬り裂きながら、呟いて俺にアマテラスは炎の火球を、
ぶつけながらも俺に答えた。
そして、本日の仕事はものの十分ほどで終了した。
やっぱり、超強い人の傍にいて仕事していたら楽だな。
例えるならゲームの序盤でレベルがカンストしているモンスターを、
貰って無双していくっていう感じだな。
「こんなものか?」
「そうじゃな」
辺りには既に骸となり、徐々に消滅していっている穢使達が横たわっていた。
「じゃあ、帰るか」
俺達が家に向かって歩き出そうとした瞬間!
突然、爆音が鳴り響いて俺達の目の前に何かが落ちてきて、
辺りに砂を大量に撒き散らした。
「な、なんだ!?」
「ひゃっはー! こりゃ、すごい集団だ!」
突然、穴から声が聞こえてきたかと思った直後、そこから炎が噴き出し、
辺りを明るく照らした。
「な、なんだ!?」
「へーパイストスじゃな」
「正解! 流石アマテラス! 皆の武具の製作者! へーパイストスだよ!」
炎から出てきたのは赤い帽子をかぶり、上はノースリーブを着て、
下は短パンを履き、肩に大きなハンマーを担いでいた。
なんか、エライハイテンションな男だな。
「いや~まさか、ここで名の売れまくった奴らに会えるなんて幸せだぜ!
アマテラス! アメノウズメ! タケミカヅチ! 黒刀のミツルギ!
猫又三姉妹! どいつも有名かつ強い奴らじゃねぇか!」
アマテラスたちは分かるとしてミツルギさんや猫又三姉妹も名前が売れてんのか。
それに強いって言ってたし……なんか、俺の場違い感が半端なく匂うんだが。
「ひゃっはー! 今日の出会いを俺に授けてくれた神に感謝感謝! ていうか
俺もその神様じゃん! ゴッドがゴッドに謝るなんてすごいじゃん!」
へーパイストスとか言う男は俺達を無視して何やら、一人で盛り上がっていた。
チラッとアマテラス達の方を見ると、その全員が嫌そうな表情を浮かべて、
めんどくさそうな奴に出会ったのを後悔しているようだった。
「で? 何の用じゃ」
「おぉ! よくぞ聞いてくれたぜ五代目アマテラス!」
俺はへーパイストスが言ったことに疑問を抱いた。
五代目? ……アマテラスはアマテラスじゃないってことか?
「見てのとおり俺もサバイバルに参加してるわけよ! だから、
こうやって俺が作った武具の中で最高傑作のハンマーを持ってきてるわけだし!」
「じゃが、サバイバルには参加しないとの表明を出していたと聞いておるが?」
「土壇場で変えちゃったわけよ! ていうか今気づいたんだけど、
そのさえない格好をした少年は誰だい!? 見ない顔だね!」
うぅ……俺、目の前にいるタイプが一番嫌いだ。無駄なところでやたらと、
ハイテンションな奴……うんざりする。
「こやつは餌じゃ」
「餌!? だったら殺した方がそいつのためじゃん! つう訳で今から殺すぜ!」
そう言ってへーパイストスは俺に向かって、
巨大なハンマーを振りかぶりってきやがった!
「おらぁぁぁぁ! 燃え尽きちゃいな!」
俺は振り下ろされてくるハンマーを避けようとするが、俺の目の前に、
タケミカヅチが割り込んできて布都御魂剣で、
ハンマーを受け止めた。
「へーパイストス! 何をする気だ!」
「それはこっちのセリフだぜ!? タケミカヅチよぉ!
餌は殺すっていうルールをてめえは忘れたのかぁ!? あぁ!?」
「第三番派生形! 雷光電龍!」
ウズメさんがそう叫ぶと槍の先から雷がほとばしり、それは形を変えて
巨大な龍へと生まれ変わると、そのままへーパイストスめがけて飛んでいく。
「第四番! 土砂壁!」
しかし、へーパイストスの目の前に地面が盛り上がって壁を作り、
雷で作られた龍を完全の防御した。
「ふっふぅー! 流石は芸能の神だ! 壁にヒビが入りまくったぜ!」
俺の目の前で凄まじい攻防が繰り広げられているが、
俺の入るすきなど一切なかった。
なんか……あの攻防に入ったら俺、確実に一番早くに死ぬ自信があるわ。
「今は分が悪いから帰るわ! ばいちゃっ!」
そう言って、へーパイストスは地面をハンマーの持ち手のところで小突き、
自分の周りに炎を生み出し、自分を覆い隠したかと思えば、その炎は、
一瞬で消えさり、そしてへースパイストスもいなくなっていた。
こんばんわ……感想ください。




