第二神 命を取るか、食費を取るか
「き、きみは昨日の」
『ギャアァァァァァン!』
「失せろ」
直後、美女の指から炎が弾丸のように放たれ、俺の頭スレスレを通って怪物に、
着弾すると弾丸が破裂して怪物の全身に小さな火の粉が飛び散り、その火の粉が一気に大きな炎へと進化して、怪物の全身を凄まじい速度で燃やしていく。
な、なんだよ……なんで何もないところから炎が出て……そ、それで、
俺が見たこともない怪物を燃やしてんだよ……。
「これって夢……なのか?」
「残念じゃが現実じゃ」
昨日の美女が俺のもとへとやって来てそう告げた。
「あ、あんな化け物が現実なわけねぇじゃん!」
俺がそう叫ぶと美女は小さなため息を一つつきながら、膝を曲げて目線を、
へたり込んでいる俺と同じ目線まで降りてきた。
「ともかくじゃ。ここではなんじゃからお主の家にでも行こうかの。
そこで今会ったことを全てお主に話そう。その後のことはお主が、
決めねばらぬからな。お主はすでに逃げられない運命じゃ」
俺の家に行くのは確定ですかい……まあ、
この状況ではこの人が言ってることがあってるけどさ。
逃げられない運命……嫌な匂いがメチャクチャする事態に、
俺は巻き込まれたみたいだな。
くそ……平凡に暮らして平凡に死にたかった俺の夢がぶっ潰れた。
そんなわけで俺は昨晩に出会った美女を連れて自分の家へと帰宅した。
「どうぞ、上がってください。汚い部屋ですが」
「本当に汚いの」
俺はそう言ったが実際のところ、部屋は綺麗な部類に入ると思う。
床には何もないし、台所も綺麗に掃除してあるし……まさか、
本気で汚いと言うとは思わなかった。
「しかも、狭いの」
……一応、これでも家賃は結構高い方でしかも、このあたりでは家賃の割には、
部屋の広さも十分なくらいに広いと大好評の物件なんですがね。
美女は呆れたようにそう言いながら我が物顔でリビングに置かれているソファに、
どかっと腰を置いた。
「神夜。わらわは喉が乾いた」
「ヘイヘイ、今すぐお茶を出しますので」
あ~この人絶対に唯我独尊っていう言葉が十二分に似合う人だわ。
そんなことを心の中で思いながらも俺は、冷蔵庫を開けてキンキンに冷えた
緑茶をコップに注ぎ美女のもとへと持って行った。
「はい、お茶です」
「うむ……って冷たいではないか!」
「え、あ、今暑いから冷たい方がいいかなって」
「わらわは冷たいお茶など大嫌いじゃ。入れ直せ」
……せめて、入れ直してくれないか? という感じで頼んでくれれば、
俺の機嫌よく入れなおすんだけど……。
ともかく、俺は美女から返却されたコップをレンジでチンして渡すと、
美女は嬉しそうに熱々のお茶を一気に飲み干した。
「うむ! やはり、お茶は暑いものに限るな!」
……おいおい、二分チンしたんだぞ? コップでさえ結構熱くなっていたのに、
それよりも熱々に熱せられているお茶を冷まさずに、
一気飲みなんかしたら普通の人だったら口のなかがえらいことになるぞ。
「あの~? さっきの化け物は」
「ああ、そうじゃったな。まずは自己紹介からしよう。
わらわの名はアマテラスじゃ。頭に刻み込んでおけ」
ア、アマテラス? ……確か神様の名前でそんな奴があったような……今話題の、
DQNネームってやつ? 確実にカタカナだよな。
「は、はぁ」
「うむ。それでお主がさっき遭遇した奴は穢使と言ってな。
人間の負の感情が暴れ出した物じゃ」
俺は美女の言っていることに理解が追い付かなかった。
穢使? 人間の負の感情? バカバカしい。
「おいおい、ここはゲームの世界じゃないんだぞ?
そんな設定あるわけねえだろ」
「そのあるはずがないものをお主は見たのじゃぞ?」
「…………」
俺は何も言えなかった。
確かに俺はあの時、見た……さっき、アマテラスって子が言っていた現実ではありえない存在を……俺の喰らおうと追いかけてくるこの世のものとは、
思えない化け物を……美女の手から炎が噴き出し、化け物を焼き尽くした光景を。
認めたくなかった……認めてしまえば、
本当に厄介なことに巻き込まれると思ったから。
何も巻き込まれたくなかったから俺は嘘をついてあの記憶を消そうとした。
「取り敢えず話は続けるぞ。そして今、この世界を舞台にしてあることが、
神々の間で行われている」
「あることって?」
「神々のサバイバルゲームじゃ」
アマテラスさんはなぜか、嬉しそうに口角をニンマリと上げながらそう言った。
神々のサバイバルゲーム……人間からしたら傍迷惑な行事だな。
「ひとまず、言っておくが神はおるぞ。水を司る神、
炎を司る神。その他多数じゃ。その中で神は下級から、
最上級までに分けられておってな。最上級神になれるやつはサバイバルゲームで、
最後まで勝ち残った奴だけがなれる崇高な地位じゃ」
「つまり、それを狙って神様が戦っていると」
俺がそう言うとアマテラスさんは首を上下に振って肯定した。
神といえば、人の願いをかなえるんだろ? なんでその神様が同じ、
神様同士に戦いあってるんだよ。そんなに地位が欲しいのかよ。
「ま、そう言うわけじゃ。じゃから、わらわはこの家を根城にするからの」
「………………は?」
今この人俺が住んでいるこのマンションのこの一室を根城にするって言ったな!?
「んな無茶なことを言うなよ! こっちだってぎりぎりの生活してんだ!
二人分の食費なんてないぞ!」
「ならば、貴様が食べる量を減らせばよい」
さも当然のごとく、そんな横暴をアマテラスさんは俺に言ってきやがった!
んな横暴が通じると思ったら大きな間違いだぞ!
「だったら、他を当たってくれ。俺は拒否する」
「ほう……ならば貴様は死んでもいいというのじゃな?」
「ど、どういう意味だよ」
ど、どうせハッタリだ。俺にそんなこと言って不安にさせておいて、
正常な判断が出来ないようにしてそのまま誘導して、
自分がこの家に住みつこうって思ってんだろ!
「さっき、貴様は穢使の体液が頬に付着したな?」
俺はアマテラスさんが言っていることに心当たりがあった。
た、確かに俺はあの時、穢使とか言う化け物の涎みたいなのが頬に付いた。
その液体はすぐに消えたし、
なにも気を飛ばすほどメチャクチャ臭かったわけじゃない。
少し、頬を触れてみるがやはり何もない。
「穢使の体液はマーキングのようなものでの。
一度、付着すればその匂いは奴らに食われるか死ぬまで消えることはない。
その匂いにおびき寄せられて彼奴らに食われるのが末じゃ。その反面、
わらわが居ればお主が殺されることはない。どうじゃ? 食費を取るか、
命を取るか。よもや食費を取るわけではあるまいな?
みな、自分の命が大事じゃからの。さあ、どうする」
利害の一致か……俺はアマテラスさんに命を救ってもらう代わりに彼女に、
この家を根城として提供し、食事などを援助する。
「…………時間をくれないか?」
「構わぬ。じゃが、一日だけじゃぞ」
そう言ってアマテラスさんは窓から飛び降りてどこかへと消えてしまった。
「神夜! おはよ!」
「……おう、おはようさん」
翌日の朝、学校へと向かっている途中で後ろから声が掛けられたので振り返ると、
そこには一組のカップルがいた。
やたらと装飾品をつけている男――――末譲二雪輝と、
その恋人――――三山ミーナさんだ。
ミーナさんは俺と雪輝よりも一つ上の先輩で、
名前のとおりアメリカ人のお父さんと日本人のお母さんの間に生まれたハーフだ。
金色の髪を持ち、そのプロポーションは学校の中でも上位だ。
俺も金髪美女の彼女が欲しいぜ……たっく、
こいつは先に人生の経験をいくつも積みやがって。
「どうかしたのか? 何か思いつめているような顔だったぜ?」
「まあ、ちょっとな。行こうぜ」
「おう!」
俺は雪輝カップルとともに学校へと向かい、途中で学年が違うミーナさんとは、
分かれて教室に入ると皆、各々の方法で始業までの時間を潰していた。
友人と駄弁る奴もいれば机に突っ伏して寝る奴もいるし教室で平気な顔をして、
友達とゲームで通信をしているやつもいるし、今日の宿題をしているやつもいる。
「なあ、今日の数学の小テスト教えてくれ!」
「へいへい」
俺が通っている学校には定期テストというものは存在しない―――――だが、
定期的にメチャクチャ難しい小テストなら行われている。
その点数が成績に直結しており、そこで定められた点数よりも
低い点数を取れば欠点扱いとなり強制的に補修へと連れて行かれる。
「で? どこが分からないんだよ」
「全部!」
ため息をつきながらも、俺は雪輝に数学の小テストを教えることで、
始業までの時間を潰した。
連続投稿です。何かおかしなところがあればじゃんじゃん言って下さい。




