第十八神 恐ろしの教師
「はっ!」
今、俺―――――紅神夜はアマテラスとともに誰もいない静かな公園で、
呪いの鍛錬を行っていた。
俺が力を開放してからというもの目に見える成長が始まっており、
今、俺の手のひらで燃え盛っている第一番の燃やし火も、
アマテラスほどではないが普通の神が放つそれと同じ威力のものを、
出せるところまでなんとか成長した。
「ほぅ。やるではないか」
「そりゃ、どうも」
「ま、まだまだ弱いがな」
やはり、この人はどうも一言多いどころか二言くらい多いんじゃないかと思う。
そのせいで俺もイライラしてるしさ……まあ、アマテラスから見れば、
俺の燃やし火なんかめちゃくちゃ弱いだろうけどさ。
「ま、わらわのおかげでここまでこれたんじゃ。感謝せい」
「いや、それはない」
「な、なんでじゃ!」
アマテラスの教え方は全てが擬音で構成されているから俺には解読不能だ。
ボッ! とかバキッ! とかやたらと擬音が説明の中に出てきて数えていたら、
確実に一つの呪いの説明で二十は行くと思う。
そのくらいにこいつは教え方が微妙だ。
「まあ、良い。そろそろ終いにして帰るぞ」
「おう」
今日の鍛錬は一時間ほどで終了した。
翌日の朝、教室は妙な空気が流れていた。
いつまで経っても教科担当の教師が来ない……確か、一時間目は化学だから、
山田先生か……まあ、あの人もう六十近い先生だからな。
そんなことを思っているとドアがガラガラっと勢いよく開けられて、
一人の女性が入ってきた。
その瞬間、俺を含めた教室にいる全員の背筋が凍った。
な、なんであの先生が入ってきたんだ!
あの先生――――――それは今、教壇に立っている黒い髪を腰の辺りにまで伸ばし、
スーツをびしっと着こなした美しい女性……だけならよかった。
「おい、てめえら挨拶は!」
『お、おはようございます!』
「たっく、十七にもなって挨拶もできねえ集団か? 化学担当の山田先生は、
体調不良で今日は休みだ。よって、今日の化学はあたしが受け持つ」
いやいや、確か先生の担当は体育でしたよね? と、俺と同じことを、
思っていた雪輝が無謀にも先生に言った。
先生は体育担当ですよね? と。
すると、先生は目と目の間に一気に皺を寄せて雪輝を睨みつけた。
「あ? 体育担当の教師が化学の授業しちゃいけない規則でもあるのか?」
「い、いえ。ございません」
「だったら口を挟むな。授業を始める」
こうして俺達、二年三組は五十分間、ひたすら先生を怒らさないように、
無駄な喋りは一切しなかった。
だが、地獄はこれだけで終わりでなかった……そう……。
先生の担当教科である体育というものが四時間目に存在したのだ。
「走れ! てめえら十七だろう! 爺みたいな走り方してんじゃねぇよ!」
今、俺達男子はなぜか九月というまだ暑さが残っているときに、
グラウンドを走らされていた。
熱中症や脱水症状を起こさないように塩もスポーツドドリンクもクラス全員分、
用意されており三周走れば水分補給、また三周走れば水分補給と塩分補給。
これをチャイムが鳴るまで永遠と繰り返された。
「紅! てめえはまだ余裕そうだから五周に追加だ!」
「ゼェ! ゼェ! 先生! おれもう無理です!」
「……十周走らすぞ」
「五周走っちゃいまーす!」
くそ! 毎晩毎晩、無制限マラソンをやらされてるお陰で妙に、
体力が付いたのが仇となったか!
結局俺だけ皆よりも五周多く、走らされた。
「はい、お疲れさん!」
「だぁー! なんで、こんな暑い日に走るんですか」
俺が尋ねると先生は腕を組み、何を言ってるんだ?
と言いたそうな顔でこっちを見てきた。
「お前らは毎日毎日、エアコンに当たってるからな。
それでは部活しているやつ以外は虚弱になる。だから、走らせた。どうせ、
帰宅部の奴らは部屋でパソコンいじっているかバイトしてんだろ?」
な、なんという方だ……つっても、誰も日射病とか熱中症にはなってないし、
水分補給も塩分補給もこまめにさせてるから管理に関しては問題ないんだよな~。
「だが、よくお前ら走ったな。褒めてやる」
なんか先生も態度を見ていたらアマテラスを思い出す。
しかも二人の共通点はスタイルメチャクチャ良いし、美人……そして傲慢な性格。
むしろアマテラスよりも言葉づかいは悪いし、普段から大声を出すし……。
でも、先生が言っていることは全く間違っていない……朝だって、
俺達が挨拶をしなかったから怒鳴っただけだしな。
「じゃ、教室に戻れ」
先生のその一言でまるで映画に出てくるようなゾンビの歩き方をしながら、
二年三組の男子どもはクーラーがガンガン効いている部屋へと歩いて行った。
放課後、俺はアルバイトに精を出し、
決められた時間を働いて家に向かって歩いていた。
「あ~クタクタだ。筋肉痛は無いけど体がダル重」
「きゃん!」
自分で肩をモミモミしながら歩いていると足に何かがぶつかり、
その直後に女の子の可愛い声が聞こえてきた。
このパターンは……下だな。
俺は今までの経験からすぐさま下を向くとそこにいたのは……何故か、
猫耳を頭にはやした女の子だった。
……どういう反応をすればいいんだ……その耳可愛いね? それとも、
君はどんな種類の猫なんだい? ……最後のはないか。
「え、えっと大丈夫?」
「変態にゃ」
「へ、変態?」
何故か、見ず知らずの猫耳ガールに変態と罵られてしまった。
これは貴重な経験だ……猫耳ガールに手を貸そうとしたら
変態と罵られた男子高校生。
「今、お兄さんはにゃーをお持ち帰りしたいって思ったにゃ」
「いやいや、思ってません」
「男は旦那様以外みんな、そうだって主が言っていたにゃ」
その主様をぜひ、俺に紹介して欲しいな~。そして、ぜひ一発殴りたい。
世界の男はその旦那様っていう人以外、全員がオオカミみたいなことを、
言いやがって……確かに可愛いとは思ったがお持ち帰りしたいとは思っていない!
「えっと、ひとまず悪かったな。ケガ無いか?」
「にゃにゃ! お兄さんはにゃーにけがはないかと言いつつ服の下に、
怪我をしてるかもしれないから脱いで、お兄さんに見せてくれ……とか、
思ってるにちがいないにゃ!」
「思ってねーよ! ていうかそれ明らかにお前の被害妄想だろ!」
猫耳ガールは顔を赤く染めて、猫耳をペタンと倒して自分の体を、
抱きしめて俺からズズズっと下がった。
一体何なんだ、この子は……ほんと、俺ロクな女の子に会わないな。
「お兄さんお兄さん」
「今度はなんだよ」
「紅神夜という男を知ってるかにゃ?」
なんで、この子は俺を? ……なんか妙に嫌な予感がするんだが……気のせいか。
「ああ、ていうかそいつは俺だ」
「にゃにゃ! まさか、変態お兄さん=紅神夜にゃ!?」
「変態お兄さんは不要だ。で? 俺に何か用か?」
俺がそう尋ねると猫耳ガールは首をコクコクと上下に振った。
「旦那様がお前の家に行ってるにゃ。でも、ニャ~は日向ぼっこしてから、
行くって言ったけど迷ったにゃ。連れて行ってほしいにゃ」
「ヘイヘイ。最初からそう言えよ」
俺は女の子を連れて自宅へと向かった。
それからも女の子に変態と罵られながらも十分ほどかけて、俺は自宅へとついた。
エントランスを抜けて、エレベーターを使って五階へと昇っていき家の前につき、鍵を開けて玄関に入ると猫耳ガールの言うとおり、
お客さんが来ているらしく見慣れない靴が四つほどあった。
今、後ろにいる猫耳ガールも含めて五人か……何の用だ?
「ただいま~お客さん来てるみたいだけど誰……」
俺は今へと続く、ドアを開けて視界に広がっている光景を見た直後、
固まってしまった。
お客さんは俺と一緒に来た猫耳ガールと同じ顔をしている子が二人、
そして服を着崩してホスト兼不良予備軍みたいな茶髪のチョイ悪系の男性が、
一人……そして、そのチョイ悪系の腕に抱きついて、俺と目が合った瞬間、
表情が笑顔から一気に、気まずいものへと変化した女性がいた。
「げっ!」
「な、な、な、な、なんでここにいるんですか!? 雨能先生!」
そう――――――チョイ悪系の腕に抱きつている女性というのは俺の学校の体育担当の、恐れられている教師――――――雨能彩先生だった。
こんにちわ~。いかがでしたか?
なにかミスとかありましたら遠慮なく感想ください。
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