第77話「東の国」
長めです。次は短めだと思います。
キルトの両親が生きていると考えた士助は今、東の国へと向かう馬車に乗っていた。その中でキルトに自分の推測を話した。
「気付いたのは昨日の夜だ。そもそも昨日の事を思い返せば不可解な点がいくつかあった。まず、南の国の住民表だ」
士助が最後に訪ねた騎士の持っていたリスト。そこには『親子共に死亡』と書いてあった。
「よくよく考えてみれば両親はともかく、なんでキルトまで死んだことになっていたのか…書き間違いと思って色んな場所を調べた」
士助が最初に向かったのは墓地。広々と土地を使い、死者一人一人の墓が建てられてあった。丁寧に名前が刻まれており、家族は皆同じところに弔れていた。
「墓地を大体三週くらいはしたけどどこにもキルト達の名前は無かった。死体が無くて作られていないのなら、あそこの半分も作られていないはずだ」
「確かにそうだね…騎士も死体が無いって言ってたし」
「あぁ。そして、次に確認したのは移国リストだ」
「移国リストって…」
「国間を移動する時に記録するやつだな。門の受付騎士が寝てたから簡単に見ることができた」
起こさないように静かにページをめくると、入出者の名前、日付、時刻。服装まで事細かに記されていた。1ページずつ漏れなくみていると『日付は南の国襲撃事件の数日前。行き先は東の国。時刻は昼頃。犬の耳をしたアーフの夫婦』と記録されていた。
「そこの名前に書かれていたのが『ベル・ミスティライト』と『グレイド・ミスティライト』。合ってるな?」
「…うん」
「だったら、ここからが本題だ。リストで気になったのはそれだけじゃねぇ。おかしかったのは出国と記録されてはいるが、入国には記録されてはいなかったんだ」
「えっ…そ、それって!?」
「あぁ、つまりお前の両親は事件の日には南の国には居なくて、今も東の国にいる」
口を開けて唖然としているキルト。士助の言っていることは非の打ち所のない正論だ。最初は本当の所疑っていた。しかしそれも確信へと変わり、希望が湧いてきた。
「でも…だったら何で死んだことになってたのかな?」
「それが最大の疑問なんだ。出国したはずなのに死を確認されている…他の死体も無いから好き放題言えるけど、これは恐らく誰かが意図的に仕組んだことだと思うんだ」
「どうして?」
「……いや、本当に勘なんだけどな。何かそんな気がするんだ」
自分で言っておきながらなんて根拠の無いことだと思う。しかし、南の国に悪魔が関わっていると思うと疑わずにはいられない。ベルゼビュート、上級精霊…悪魔が本当に動き出すのはこれからだろう。
「ふーん…。ていうか、士助ってさ」
「ん?」
「意外と頭良いよね」
「意外と、って…俺そんな馬鹿に見えるか?」
「うん」
「………あ、そう」
二人を乗せた馬車は沈黙に包まれて、静かに揺れながら東の国へと走って行く。
何度か夜を迎え、ようやく東の国についた。東の国は他国から『平穏の国』と呼ばれている。その理由として犯罪率が非常に低い。東の国は他国よりも国民の意見を積極的に取り入れ、素早く実行に移している。なので、不満を持つ国民が少ない。それだけでなく、医療技術も発達している。街の中には小さいものから大きなものまで医院が数多く並んでいる。犯罪も無く、死亡率が低い。これぞ『平穏の国』と呼ばれる由縁だ。門をくぐり抜けると、今までとはまた違う空気を感じた。街の人々から幸福を感じる。耐えず笑みを飛ばし活気がある。噂は聞いていたがここまで露骨に出ているものとは思いもしなかった。少々驚きを隠せないまま、キルトの両親を探すべく聞き込みに移った。
日の出の頃に着き、気付けば太陽が頭上から照らしていた。いくつもの場所で聞き込みをしたが、どこへ行っても「○○へ行けばわかる」「○○なら教えてくれる」とたらい回しにされていた。そして、行き着いた場所は『ガブリエル医院』。どこかで聞いた名前だ。
「こんにちはー」
ドアを開けて入ると、銀色の髪の綺麗な女性が出迎えてくれた。落ち着いた雰囲気が再び士助に誰かを彷彿とさせる。女性は歩み寄りこちらに微笑んだ。
「こんにちは。今日はどうなさいました?」
「あぁ、いや…病気とかじゃなくて人探しをしてるんだ」
「人探し…ですか?」
「ここに、コイツと同じ犬の耳をした夫婦がやって来なかったか?」
「……………」
一瞬、女性の目つきが変わった気がした。杞憂だったのか、元の表情で顎に手を当てる。
「犬の耳…犬の耳…う〜ん、思い当たりませんねぇ」
「そ、そうか…」
「何だかお力になれなくてすいません…それに見たところお疲れの様ですね、ここで休憩でもしていったらいかがですか?」
「いや、別に…」
「まぁまぁ!そんなこと言わずにどうぞ!」
後ろに回り背中を押して部屋の中に入れられ、扉も閉められ鍵までかけられた。
「…?」
「さぁさぁ、お席について下さい」
再び背中を押されソファまで案内され席についた。女性は鼻歌交じりに台所へ向かって行った。キルトと顔を見合わせ少し黙った後、まぁいいか、という結論に至った。すぐさま、女性が紅茶の入ったティーカップを持って来てどうぞ、と目の前の机に置き、向かいのソファに座った。
「とりあえず紅茶でもどうぞ」
「はぁ…」
やや不服気味にカップを手に取り、口に持ってくる。飲みかけたところで手を止め、キルトの手も抑える。
「あ、そういえば名乗ってませんでしたね。私は」
「ここの名前見たらわかるだろ、ガブリエルさんよ。それより、何だこの紅茶」
「こ、紅茶ですか?何かお気に召さないことでも…」
「とぼけんな。即効性の毒の臭いがするんだよ。一般人は騙せても俺は騙されねぇ」
「……………」
「…何が目的だ?」
士助が睨みつけると、目を閉じ息を吐いた。すると、顔つきが別人の様に豹変し目つきが鋭くなった。これには一瞬、士助も気圧された。
「それはこっちの台詞よ。あなた達、あの二人をどうするつもり?」
「どうするも何も、コイツを両親に会わせてーだけだ」
「口だけならどうとでも言えるわ。それにアーフならこの世界にたくさん住んでいる。その子があの二人の子である証拠は無いわ」
「…疑い深い奴だな、そんなに証拠が重要か?」
「えぇ、今まであなたみたいに一般人を装って彼らを見つけようとする者がたくさん来た。だから…」
瞬きをしたその瞬間!視界からガブリエルが消えて、次に目を開けた時には喉元に後ろから光のナイフを突きつけられていた。光の粒子が玄龍の皮膚を削り、首筋を伝って行く。
本能的に殺されると察した士助はナイフを持つ腕を掴み、相手を引きつけ顔面へ肘打ちを放った!しかし、容易に受け止められ女性とは思えない力で投げ飛ばされた。その時、懐からケーロンの手紙が落ちてしまった。
(手紙が…!あれ、あの手紙の宛名は確か…)
「これがあなた達に当てられた命令ね。これで…」
拾い上げて封を開け手紙を読み始めると、ガブリエルは固まった。
数秒黙った後、額に汗を浮かべて手紙を落とした。
「あ、あなた達…ケーロンの知り合いだったの…?」
無言で頷く。
「…………」
「…………」




