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我龍転生  作者: キーダの滝
真の戦い
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第75話「絶望から見出す希望の欠片」








騎士から悲報を告げられた後、士助はわずかばかりに残った平常心を奮い立たせ、外見だけの冷静を装った。あの事をキルトにどう伝えるべきか、頭の中はそのことでいっぱいだった。本当の事を伝え、キルトを悲しませるのか、嘘を伝え安心するキルトを見るのか。真実はキルトを苦しめ、虚偽は自分を苦しめる。

自分が苦しんで誰かが助かるのなら、迷うことなく自分を差し出す自己犠牲の意志。士助の中のそれは他の何よりも強い光を放っていた、戦うという意志よりも強く。この意志が真実を押しのけ、偽りを選ばせた。

しかし、不安定な精神状態で作る薄っぺらい嘘など容易にはがれる。だが、今の士助にはそんなことを考える余地などなかった。キルトの元へと歩みを進める1歩1歩、わずか1秒を惜しむ。

キルトがぽつんと1人で立っているのが見えてきた。こちらに気づき駆け寄ってきて今にも泣きそうな瞳で見つめてくる。その視線が士助を苦しめる。息苦しい感覚にとらわれて平常心が崩れかける。しかし、一歩踏みとどまり視線を返す。目を反らせば嘘だと気づかれる。


「ねぇ、士助…どうだったの…?」

「あぁ…それがな」


今になって抑え込んでいた善意が起き上がろうとする。しかし、もう心に決めた。キルトを前に覚悟を決めて、目線を合わせる。


「聞いてくれ、お前の両親はな……生きているらしい…」

「ほ………本、当?」

「…あぁ。だけど、どうやら逃げている途中に怪我を負ったらしくて東の国に運ばれたんだ。だから、早く行こう」

「……………」


言い終わると立ち上がり、西の国の方角を向いた。これでいい、と何度も心の中でささやき自分に言い聞かせて正当化する。それが正当化ではなくただの逃避と知っていながら、逃避をやめることはできない。このまま両親が行方不明だという嘘を続け、キルトが悲しみを背負い、士助が罪悪感を背負う。

それでいいと自己完結する。ごめんなキルト、と心の中で言えても口に出すことはしない。

もう……士助は決めたのだ。


「違うよね……?士助…」


しかし、小さく冷やかな声に一瞬息を止められる。


「あ……いや、何だ?いきなりどうしたんだよ」

「嘘ついてるの、わかるよ…」


ゆっくりと振り向き、キルトの目を見つめる。少女の瞳の中の悲しみと真実を望む覚悟が士助の動揺を引き出す。


「嘘って…何言ってんだよ。お前の両親は」

「死んでるんでしょ。嘘つかなくていいし…嘘なんかつかれたくないよ…!」

「キルト…」


次第に一筋の涙が頬を伝い始め、膝から崩れ落ちた。ぬぐってもぬぐっても溢れてくる涙は地面に雨の如く降り注いだ。何も言えない士助は膝を付いて、震えた手でキルトを抱きしめた。


「お父さんも…お母さんもっ…もういないんだ!どこにもいないんだ!」

「………」

「もう二度と会えないんだ!お別れも言えなくて…言いたいこともあったのに…っ!」

「………」

「もう……どうすればいいのかわからないよ……」


殴りつけるような言葉を気の済むまでぶつけると、力尽きて身を士助に預けた。腕の中のキルトを見て今更、罪悪感と後悔が押し寄せてきた。

俺は、何をしていたんだ。俺は、何をしたらいいんだ。

だが、もう自分を責めはしない。そんなことをしてもキルトの償いにもなりはしない。償いたいと思うのなら、ここで自分が変わらなければならない。

キルトの覚悟を見てるだけでなく、己の覚悟を示す!


「キルト…聞いてくれ」

「……?」

「お前の両親は、確かに死んだかもしれない。だけどな、もう二度と会えないと決まったわけじゃない」

「え……」

「この世界には、俺達の知らねーことも、知らねー場所もある。だから、それを知って、そこに行ってお前の両親に会わせてやる。蘇生術を使ってでも、天国に行ってでも!」

「そんなの…無理だよ…」

「無理じゃない。根拠も何もねーけど、俺は絶対にお前を両親に会わせてやる!絶対だ!」

「士助…」

「まだ、言いたいことがあるんだろ?」


その時、キルトの目には士助が写っていたが、まるで士助とは別人のようだった。士助の髪が白く光り、後光が差していた。言葉から伝わる強い決意。その決意を受けてキルトの心はいつになく安らいでいた。何故かはわからないが、士助にならできる、と思えた。


「約束…だよ?」

「あぁ、約束する。もう…覚悟の形を曲げたりしない」

「……うん…」


涙を払って笑顔で答えた。吹っ切れたのではなく、少女の中には希望が芽生えたのだ。それも力強く、大きな芽が。









結局、東の国に向かうのは明日になった。今日は色んな事があったのに加えて、キルトに無理はさせたくない。今は日も沈み、テントを張ってあるだけの簡易的な宿泊施設に泊まっている。隣では既にキルトが静かに寝息を立てて眠っている。士助は低い天井を見上げながら、今日あった事を思い返していた。今日あった事は、今までにない事だったからなのか1分1秒鮮明に覚えていた。来てすぐに見たキャンプも、キルトの家も、この国の人達の今も…。その時、一瞬だけ疑問に思う場面が脳裏に過った。あの時は何も思わなかったが、今考えてみれば違和感が生じる。音を立てない様に外出の準備をして士助は1人、テントから出て行った。








朝、キルトが目を覚ますと隣に士助はいなかった。支度をして外に出ると士助が太陽の方を向いて待っていた。歩み寄ると、頭に手を置かれこう言われた。


「キルト。今から言う事をちゃんと聞いてくれ」

「えっ…う、うん」

「お前の両親はな…多分、東の国にいる」

「でもそれは…」

「今度は嘘なんかじゃない。これは本当だ」

「ほ、本当…!?」

「あぁ。でも、行ってみなきゃわかんねぇ。だから、すぐ出よう」


真偽は定かではないが、死んだと思っていた家族が生きているかもしれないと告げられた。それも今、自分が1番信頼を置いている者にだ。まだ何もわかっていないのに涙が出そうになった。すると、また頭に手を置かれた。


「まだ泣くには早いぜ。その涙は父さんと母さんに会った時、一緒に泣けるようにとっとけよ」


小さく頭を撫でると、歩き始める。キルトも涙を食いしばって、鼻をすすって、一緒に歩いて行った。






約1か月開けての投稿となりました。申し訳ございません。

今回で南の国編は終わりとなります。場所が場所だったので、短い章でした。個人的には2人の人生のターニングポイントだったのではないかと思っています。これからの2人に注目していってください。

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