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我龍転生  作者: キーダの滝
真の戦い
77/82

第74話「南の国の絶望」

いつもより少し長いです。シリアスな感じに上手く書けてるといいのですが、自信はないです。






西の国『始まりの雨』事件から数日後。


西の国の人々に財宝を振りまいた英雄。虹色士助は南の国へと向かう道についていた。南の国へは既に半分を切っており、後2日もあれば着くだろう。旅について来たキルトも体力がついたのか以前の数倍は行動しているだろう。

しかし、順調に進んでいくのに連れ、キルトの心境はどんどん不安に染まっていた。おそらく両親の事だろう。南の国襲撃事件が起こった後、キルトの両親は音信不通なのだ。

もし、仮に両親がこの世からいなくなっていたのなら自分はどうしたらいいのだろうか。そんな不安がキルトの中をぐるぐると巡っていた。そんな彼女を、士助はただ見ているだけだった。





「やっと見えてきたな」

「うん…」


また数日経って南の国が見えてきた。国のあちこちから煙が舞い上がり、空が薄暗くなっていた。その様子は、遥か遠くまでこの惨劇を伝えようとするこの国の人たちの想いにも見えた。

一面に広がるのは崩れた住居の瓦礫の山。それに混じって人々が泣き、絶望していた。ある者はすすり泣き、ある者は放心状態になっていた。他の国からやって来た騎士たちが瓦礫の撤去作業を行っており、生き埋めになってしまった人がいないか探索を続けている。

入国審査を終えた後、少しだけ国を見て回った。

聞いたところによると、南の国の総人口である1億5千人に対して行方不明者が半分以上の9千人との事だ。死亡者を確認しようにも『死体が無い』から確認の仕様がないのだ。



ここに長居する必要は無いと踏んだ士助はすぐさま東の国に向かおうとした。しかし、まだやるべき事は残っている。キルトの事だ。絶望している人々を見ていくのに連れ、不安が増大し、震え始めた。それを見兼ねた士助が肩に優しく手を置いた。


「おい、キルト。大丈夫か?」

「えっ…あ、う、うん。だ、大丈夫…だ、よ…」

「無理かもしれねーけど一旦落ち着け。怖くなる気持ちもわかるが、その調子じゃこの国から出る前に倒れちまうぞ」

「ご、ごめん…」

「…………父さんと母さんが住んでる場所、わかるか?」

「…うん」

「じゃあまずそっち行こう。その後、避難民のキャンプへ向かおう」

「…………」


南の国は現在、西の国、東の国天道示国へ続く門の近くに、食料や物資をすぐに避難民に渡せるように、キャンプが設置されている。西の国行き門の近くのキャンプを見たが、キルトの両親らしき人はいなかった。とりあえず今は、キルトに着いていき家族と住んでいた場所へと向かった。





キルトの家は湖の近くにあり、綺麗な花が今でも咲いていた。しかし、住居は破壊されており、瓦礫の山だった。


「やっぱり家は壊れてるね…」

「……………」


士助は瓦礫に耳を近づけ音を確認した。中からは人の声も聴こえなければ、心臓の鼓動、血液の流動音すら聴こえなかった。しかし、念には念を押し、瓦礫を崩さないようにどかし始めた。


「ちょ、ちょっと!士助何してるの!?」

「一応誰もいねーか確認するんだよ」


素手でどかし始めて跡地を探る。特に人は見つからず、木の破片ぐらいしか見つからなかった。と、思いきや1枚の紙が木材の隙間に落ちていた。手を伸ばして拾い上げると、それは写真だった。土を払うとそこには3人家族が写っていた。キルトと両親だ。家と湖を背景に笑っている。立ち止まって見ているとキルトが寄ってきた。


「…どうしたの?」

「いや、この写真…」

「あ、これ…。ここに家を建てた時に撮った写真…。家が崩れたのに残ってたんだ…」

「…………」

「………………」

「もう、いいか?」

「…うん。キャンプに、いこ…」


悲しそうなキルトに申し訳なさを感じながら、キャンプへと向かっていった。






まずは天道示国門の方へと向かった。世界の中心に近いだけあって西の国門よりも多くの人たちが集まっている。名簿を管理している騎士にキルトの両親がいないかを尋ねた。が、ここにはいないとだけ告げられた。最後の東の門へと向かおうとすると人ごみの方から怒号が聞こえてきた。


「ちょっと!?それは私達の食料よ!」

「何言ってやがる!お前達は持ってるだけで食わねえじゃねえか!いらねえってんなら俺がもらってやるって言ってんだよ!」

「誰か騎士を呼んで!誰か!盗みよ!」


女性の2人組と男が怒鳴り合いながら、木箱を脇に抱えた男を一方の女性が捕まえて、もう一方が助けを呼んでいる。話から察するに女性達の保管していた食料を男が奪ったようだ。だが、状況を理解する前に士助は動いていた。


「この…騎士なんて呼ぶんじゃねえ!」


男の拳が女性に降り注ぐ!その瞬間!拳を受け止め、逃がさないように強く握った。突然の乱入に周りの人々もざわつき始めた。


「いってぇ!な、何をしやがる!?」

「お前の気持ちはわかるが、腹が減ってるのは皆同じだ。なのに、自分だけと勘違いして人のもん盗っていいのか?違うだろ」

「は、放せ!わかったから!返すからいてぇよ!」


男が食料の入った木箱を落とすと同時に士助も手を放した。解放された後、人混みから非難の目を向けられて気まずくなってのか、急ぎ足でどこかへ消えた。溜息をつき、木箱を拾い上げて女性達へ手渡した。


「あ、ありがとう…どこのだれかはわからないけど助かったよ…」

「気にすんな。だけど次からは気をつけたほうがいい。大切な食料だからな」


お礼を言われながらキルトの元へと戻り、東の国門へと足を運んでいく。その道中、ずっとキルトに物言いたげな視線を向けられた。その視線に気づいて視線を返すけれど、キルトは目を逸らした。それでも士助は何かを聞いたりはしなかった。








最後の希望であろう東の国門キャンプへとやって来た。この時、キルトの胸中にはとてつもなく巨大な不安と恐怖が渦巻いていただろう。しきりに荒い呼吸で動揺が見てとれた。こんな状態で最悪の答えを聞いてしまったらこの少女はどうなってしまうのだろうか。そんなことは想像したくもない。しかし、可能性というのは0ではない。士助もそれが怖くてキルトを置いて1人で騎士の元へと歩いて行った。門近くにいる気だるそうな騎士に話しかける。


「なぁ、少しいいか?」

「はい?どうかなさいました?」

「ここにアーフの夫婦はいないか?犬の耳をはやした…」

「アーフですか…ここに限らずどこにでもいますが夫婦で耳が犬、と…」


ボロボロの紙の名簿をめくり、半分開いた目をゆっくり動かす。5枚の紙束を1枚ずつめくるのと同時に、士助の精神が削られるような感覚に襲われた。

2枚…『まだ』3枚ではなく、『もう』3枚なのだ。次のページへと移る…。

3枚、4枚。無情にも素早く移るページ。後が…もう、無い。

最後の1枚がスローモーションに見えた。正直、諦めかけていた。見てられなくなり目を閉じようとしたその時!

「あ」と騎士の声が漏れた。この音で閉じかけた目を見開いた。


「あぁ…1組、ありました。子どももいるそうで…。間違いは、無いですか?」

「ま、間違いない!それなんだ!こ、子どもの名前とか…はわかるか!?」


全身に気力が戻り、士助はこの瞬間『だけ』、今までに無いほどの希望を感じた。


「お、落ち着いてください…。そ、それがですね…非常に、申し上げにくいのですが…」

「な…何だよ…」

「この家族…つい最近息を…引き取りました…」

「……………………え」


同時に


士助は今までにないほどの絶望を感じた。

この後の展開を考えると終わり方が良くないかな?そう思ってます。

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