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我龍転生  作者: キーダの滝
真の戦い
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第72話「革命-下 『英雄』虹色士助」

長い間お待たせしていまい申し訳ありませんでした。しかし、時間をかけた分、ラストにふさわしいのではないかな?と、思う作品が出来上がりました。西の国編最終話。お楽しみください。








アガリアレプトに勝利した士助。しかし、勝利の余韻に浸る間もなく城の外から掛け声が聞こえてきた。アガリアレプトを倒し、隔壁は解けたがレジスタンスへの洗脳は解けてないのだ。急ぎキルトと合流しに向かった。





士助がアガリアレプトを倒す少し前、城の外では配備されたレジスタンスが頃合いを見て突撃を開始した。騎士たちにかけられたアガリアレプトの洗脳は、解けたとはいえ襲いかかってくる国民に無抵抗にやられるはずもない。そうなってしまっては多大な被害が出るだろう。舞い上がる土煙、かかげられる武器。積み上げられた怒りを、憎しみを解放しレジスタンスは走る。城へと入ろうとした瞬間!


「待て!」


鋭い怒号が響き渡り、レジスタンスが動きを止めた。城門がゆっくりと開き声の主が姿を現した。声の主とはシオンだった。少し前までの彼とは違い、強靭な覚悟の精神が見て取れる。


「お前達、もうやめろ。今城を攻めたところで犠牲者が出るだけで何も得るものは無いぞ!」

「何を言っている!王を討ち、国を元の姿に戻すと言ったのはお前じゃないか!なのに、裏切るのはお前なのか!?」

「違う!!仮に国が元の姿に戻ってもその為に犠牲になったものは帰ってこない。俺達からすれば、得るものより失うものの方が大きい…!」

「国という巨大なものを変える為には犠牲は避けられない!それはお前が一番わかっているだろう!?」

「わかっている!!それでも!それでもだ!俺達は皆で生きて!新しい国の誕生を見るんだ!誰一人欠けることなく、全員で!」


シオンの仲間を想う言葉が、心に突き刺さる。シオンの言葉で仲間達の心を覆う堅固な鎧にひびが入る。


「確かに俺達は長い間ゴードンに苦しめられてきた。税を払えない仲間も居たし、殺された仲間も居た…。だけど、そんな中で俺達はここまで生きてきた!」


鎧に入ったひびは徐々に広がり始め、少しずつ崩れていく。


「俺達が生きてきたのは憎い国王を殺す為だったか?違う!俺達が本当に目指したのは新たな『民の為の』国だろ!!」


ひびわれ、落ちた鎧の中から心が本当の姿を現してゆく。


「俺も力で解決すればいいと思っていた。だけど、それじゃあ駄目なんだ。仲間と共に戦い、仲間と協力し、そしてその先にある。新たなる国の誕生を仲間と共に目に焼き付けるんだ!もうこれ以上犠牲なんて出さずに、仲間全員でだ!」


邪悪で、巨大で、堅固な鎧はシオンの言葉という光に打ち砕かれ、仲間達は本当の自分を取り戻した。元に戻った仲間達は頭を押さえ洗脳という呪縛を解き放った。シオンは駆け寄り無事を確認する。


「大丈夫か…?」

「うっ…うぅ。シオ、ン?どうした、そんなに血相を変えて…。何か、あったのか?」


どうやら無事、記憶が戻ったようだ。安心し、胸をなでおろした。


「どうやら、上手くいったみてーだな」


城の扉を開けて出てきたのは士助とキルト、と縄で縛られたゴードン。悔しそうな表情を浮かべて暴れている。レジスタンスはざわついているがシオンだけは感謝を込めた微笑みを士助に向けている。


「あんまり驚いてないんだな。俺はてっきり声をあげて驚くと思っていたんだが」

「いや、これでも驚いてるよ。だけど、心のどこかで『コイツならできる』って、あの時のお前の背中を見てたらそう思えたんだ」


シオンは右手をゆっくり差し出した。


「思えば、お前にはもらってばかりで何も返せていない。だから、一市民の俺が言うのも何だが言わせてくれ。素性はどうであれ、お前は…『虹色士助』はこの国の『英雄』だよ」


士助もキルトも思わず顔を見合わせて驚いたが、困惑した後、士助も微笑み返し右手を強く握った。

固い握手を交わすとゴードンをシオンに引き渡し城の中へと戻っていった。


「あ、おい。どこ行くんだ?」

「いや…最後にやることがあるんだよ。町に戻って外で待ってろ」


それだけ言い残してキルトと一緒に城の中へ戻り、そのまま消えてしまった。









ゴードンを完全に拘束し、正気に戻った騎士に預けた。騎士曰く、


「政府を呼んだので西の国での不正行為を伝えた後、処罰が与えられるだろう」


とのことだ。

シオンは自分の店の前で今までの事を思い返していた。振り返ってみると、なんと長く、辛い戦いだったのだろうか。多くのものを失いただ耐えていただけだった。しかし、今日で全てが終わったのだ。

空を見上げて仲間に伝えた。


(皆の無念を晴らして、自由がやってきた。だからもう…安心して眠ってくれ…)


想いを伝えた後、仲間達の声が聞こえた気がした。何といったかわからないが優しい声だった。そんな気がした。そして、空に微笑むと一枚の硬い物が降ってきてシオンの額を打った。額をさすりながら落ちて来た物を拾い上げると、なんとそれは黄金に輝く金貨だった。一瞬目を疑ったが次の瞬間にはさらに目を疑う光景が待っていた。なんと空から無数の金銀財宝、紙幣貨幣が降ってくるではないか。


「な、なんだこれは…」


気づけば辺り一帯金だらけ。空には紙幣が舞っている。歓喜の声を上げて町の者達は財宝を拾い集めている。同時に別の場所からも声が上がり、どうやら向こうでも同じことが起きているようだ。一体何が…と呆気を取られていると大きな袋を担いだ黒い影が走っていくのが見えた。財宝をばらまきながら屋根を転々とし、すぐに消えてしまった。


「おい、シオン!これはどうなっているんだ!?」


両手いっぱいの財宝を持ったレジスタンスの仲間が息を切らしてシオンの元へと走ってきた。


(最後の仕事…か)


レジスタンスの質問にシオンはこう返した。


「俺達の『仲間』が、空から降らしてくれてるんだよ」


男は腑に落ちなかったが、シオンは一人笑いながらレストランの中へと戻っていった。








ある一人の少年のお陰で、西の国は救われた。


空から宝が降ったこの事件は『始まりの雨』と名付けられ西の国発展の起点となった。


そして、料理店を営む少年によって国の中央にローブを着て刀を持った男の像が建てられた。


題名は『英雄』。


しかし、その英雄が誰なのかは、少年一人の秘密だった…。



前書きでも書いた通り今回で西の国編は終了です。後は他の国を転々とするだけかな?と思います。また次もよろしくおねがいします。

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