第66話「レジスタンスの壁」
短めです。多分。題は立ちはだかる壁の様なものだと思ってください。
シオンと話した後、宿屋へ戻りすぐに就寝した。至って普通に夜が過ぎ、朝を迎えた。着替えて、キルトを起こし朝食を済ませて街へと出た。
今日は特にすることも無いので街を見て回ることにした。西の国の特徴はシオンのレストランの様なレンガ造りの住居が多いことだ。西の国の東に位置する山でレンガの素材がよく採れる。その為、建物の大半はレンガ造りでできている。
もう1つの特徴として料理が美味い。西の国は他国よりも料理店が多く、店同士の競争が激しい。その競争によって調理技術が向上し、知らぬ間に世界一になったのだ。今では他国にチェーン店も出しているがやはり本店の味には劣る。本店の味を知ってしまうと誰もが口を揃えて「ここが1番だ」と言う。
この日は各店を回って味比べをしたが結局、順位をつけれなかった。この後も、夜遅くまで議論したがやっぱり出来なかった。
翌朝。いつもより遅く目を覚ました2人は支度を済ませて一直線にレジスタンスアジトへ向かった
アジトへ到着。朝早いにも関わらず数人が計画の最終調整を行っている。その中にシオンもいる。彼らはレジスタンスの中でも特に熱心な者達で店が非番の時は休憩することなく必ず来ているようだ。2人もその中に混じって計画の細部まで確認した。
確認後、椅子に腰かけ、士助は頬杖をつきキルトは机の上に頭を乗せていた。かれこれもう1時間は経っている。すると、何かを思い立った様に、突然士助が立ち上がり外へ出る準備をし始めた。
「ちょっ、どこ行くの?」
「いや、確かめたいことがあるんだ。お前はここで待ってろ」
急ぎ足で梯子を上って士助はアジトを出て行った。
「なんなのさ…」
残されたキルトは頭に?を浮かべながら帰りを待つことにした。
待つこと10時間程。明日の作戦に備えレジスタンスのメンバーが徐々に集まり始めた。士助はまだ帰って来ていない。最後の1人、シオンが士助を除く全員を確認すると最終計画を発表し始めた。
「皆、よく集まってくれた。ここまで誰1人欠けなかったのが本当に奇跡の様だ。だけど、喜ぶのはまだ早い。今から話すこの計画、コイツが成功した時が俺達が歓喜の声を上げる時だ」
皆、静かに、力強く頷く。キルトも両拳を強く握り大きく頷く。
「じゃあ最終確認に移ろう。まず…」
「ちょっと待て」
勢いづく士気を遮るかの様に士助が現れた。ローブが少し埃っぽく白い。
「お前…今までどこへ行っていた」
「真相って奴をよ、確かめに行ったんだ」
「真相…?とにかく、お前は1番信用が薄いんだ。こんな時に怪しい動きはしてくれるなよ」
「つか、今はんなこと言ってる場合じゃないんだよ。とにかく今すぐ計画を変更しろ」
「な…何を言っている!今更そんなことできない!1000年だぞ!どれだけ長い年月かわかるだろ!」
「だったら、ここにいる全員が死ぬだけだ」
士助の口から出た言葉に全員が言葉を奪われ、動揺を隠せずざわつき始める。シオンは根拠のない発言に憤りを覚え士助に掴みかかった。
「だから…!何を言っている!こんな時に虚構で混乱を招くな!まさかお前…敵のスパイじゃないだろうな…!」
「落ち着け。って言っても無理かもしんねーけどよ、とにかく俺の話を一旦聞けよ。根拠が知りたいんだったら教えてやる」
息を荒げて怒りをむき出しにする。仲間がなだめてゆっくりと平静を少しづつ取り戻していく。落ち着いたら、椅子に座り士助も向かい合うようにして椅子に座る。その隣でキルトも同様に座る。
「………話せ」
「ま、どこ行ってたかっつーとよ。俺はついさっきまで城に侵入してたんだよ」
「何?」
「んで聞いたんだよ。2階のでけー広間でアホ王に向かって白服の騎士が見回りを1日遅らせるべきだって言ってたのをな。だから、明日はアホが城に居るし、警備の兵もいつも通りいるっつー訳だ」
「明日が…見回りじゃないって、ことは…」
「もし城に侵入しようものなら見つかって騎士に囲まれて、良くて奴隷。悪くて見せしめに殺されるか…の2択じゃね?」
アジトの空気が一瞬動きを止めた。真実とは限らないがもしそうであれば長い歴史で積み重ねたものが音を立てて崩れ去り、この国には一生平穏が訪れないだろう。
シオンは頭を抱えこんでしまう。目が泳ぎ、額から頬を伝って汗が流れ落ちる。背筋に恐怖が走り、前進を悪寒が襲う。
じゃあまた今度。では済まない話なのだ。人生の中でたった1つ見出したチャンス。これを逃せばもう2度と来ないのだから、不安も並みの物では無い。
「なら…俺は、俺達はどうすればいいんだ…?」
「それを決めんのは俺じゃない。リーダーのお前じゃないのか?」
フードから覗く瞳が残酷に、冷たくシオンを突き刺した。




