第64話「シオン」
西の国編は少し長いです。北の国に比べれば圧倒的に。
翌朝、ベッドから体を起こしローブを手に取る。キルトはまだ寝ている。窓からは太陽の光が差し込み、既に1日が始まっていることを告げる。
昨日同様、街は賑わっている。人々が行き交い景色を変えていく。変わらないのは商人達の顔くらいだ。まるで、昨日のことなど無かった様に。
薄っぺらい笑顔なんかじゃなくて心の底から笑えるような国に変えるんだ。
改めて決意し、起きた相方に「おはよう」と言った。
今日は昼まで西の国を観光した。目立ったものは無いが品揃えは北の国に負けず劣らずだ。しかし、どこへ行っても生気の抜けた商人ばかりだ。士助もキルトもそれに気付いていた。一刻も早く手を打たないと…と思いつつ、2人は街の中央にあるレストラン『リューズ』へとやって来た。
茶色のレンガ造りの建物でキレイな看板のペンキが問題無く営業していることを教えてくれる。木製のドアを開け、ベルを鳴らして入る。店内はワンフロアながらに広い造りになっている。ウェイターに2人にと答え席へ案内してもらった。窓際の席で向かい合いながらメニューに目を通した。
「こんな所来るの初めてだよ。何にしようかな」
事情を知らないキルトはルンルンとしている。キルトはパスタを、士助は紅茶を頼むことに。いつもなら大量に食べる士助も今回だけは遠慮した。士助は注文を尋ねに来たウェイターに注文ともう1つ頼んだ。
「ここの料理長に『黒いローブを着た男』が来ていると伝えてくれ」
と耳打ち。キルトとウェイターは頭にハテナを浮かべたが、指示通りにウェイターは動いた。しばらくして昨日のコックの青年が来た。信用が無いのか鋭い目で睨んでくる。キルトは理解した様子で急いで立ち上がり士助の陰に隠れた。
「何をしに来た?」
「いや、話があってな」
お待たせしました、と青年を横目にウェイターが紅茶を目の前に置いて去った。ゆっくりとズズズ…と音を立てて飲む。
「話だと?」
「そうだ。だから落ち着いて話せる時間が欲しい」
フードの中から目を覗かせて視線を合わせる。青年は少しの間考えた後、答えを返す。
「………今日の夕方。日が半分沈んだ時、店の裏へ来い。そこで待ってる」
それだけ言い残して厨房へ戻って行った。入れ違いにパスタが来た。紅茶を飲みながらキルトのパスタが減って行くのを見つめた。
日が落ちて指定の時刻になった。店の脇道を通って裏へ向かう。暗い路地には既に青年が立っていた。ちょうど仕事が終わったようで見慣れたコック姿だ。歩み寄って正面に立ち、いつも通りキルトは士助の陰に隠れる。
「話は何だ?」
「お前に頼みたいことがある。お前に………革命を起こしてほしい」
「……何故お前がそんな事を言う?」
キルトの手を引いて前に立たせ頭に手を乗せる。
「俺も、コイツも、城で見た現状に腹が立ってんだ。それ以外に理由は無い」
「…この件に関わってお前たちに何の得がある?」
「俺達は御人好しのバカなんだよ。得なんて考えてない。強いて言うならあの馬鹿みてーな王様をぶっ飛ばしてスカッとしてーんだよ」
「………」
士助の眼を見る。彼は見定めているのだろう。今の発言が嘘か真か。ローブの中の双眸から士助が強者であるということを読み取ると小さく息を吐いた。
「本当に革命を起こす気があるんだな?」
「もちろん。協力するぜ」
青年は再び息を小さく息を吐いた。
「俺の名は『シオン・レスト』。お前は?」
「俺は…」
言いかけたところで口が止まる。
コイツに本当の名を言って信用を得られなかったらどうしようか。とはいえ嘘をついても見抜かれそうな気がする。どうする?いや、相手が名を明かしておいてこっちが言わないわけにはいかない。諦めて自分も名を明かした。
「虹、色…士助、だ」
「虹色士助…どこかで聞いたような気が…」
(マズイ!思い出されたらヤバい!とりあえず誤魔化さねーと!)
キルトにアイコンタクトする。キルトも理解して頷く。
「ここ、こいつはキルト!北の国で会った奴で旅について来たんだ!」
「う、うん!よろしく」
「あぁ、よろしくな」
畳み掛けるように手を差し伸べる。しかし、シオンは応じない。
「言っておくが…絶対に信頼した訳じゃない。悪いが応じれないな」
「まぁ…そうだよな」
「それより、ついて来てくれ」
冷たくあしらうと振り返って暗い路地を辿り奥へ奥へと進む。
「お、おい!どこ行くんだよ」
慣れた足取りで行きついたのはゴミ捨て場、行き止まりだ。大きなトラッシュボックスと捨てられ何年も経った家具が密集しているだけだ。コンクリートの壁に挟まれた道の隅をネズミが走り、壁に打ち付けられた様な金属板の錆がいかに放置された場所かと言うことを見せつける。
「何だよココ…」
「今から『ある場所』行く。今からは騒ぐな」
錆びた金属板の両端を掴んで勢い良く引きはがした。すると人が入るのに十分であろう穴が姿を現した。中からはほんのり暖気が漏れてくる。穴の淵を沿って黒い金属が埋め込まれている。金属板の裏にも同様に黒い金属が貼られている。どうやら、黒い金属は磁石の様だ。中からでも閉じれるようにとわざわざ取っ手までつけられている。
穴を除くと梯子が下に続いており、底で灯りが小さく光っている。シオンはその先へと梯子を伝い降りて行く。多少の不安を抱えながらも2人も続いて行った。狭い暗闇を淡々と降りて行く。徐々に明るくなり、終わりが近くなっているのがわかる。地面が足に着き、最後にキルトが降りる。
振り返るとそこには、長方形の長机に壁に掛けられたランタン。木箱に詰められた食糧に水の入った樽。そして、最も目を引くのは立てかけられた剣に槍に銃。士助もキルトも顔を見合わせ驚愕していた。
「ここってさ…」
「察しの通り、『作戦会議室』と言ったところだ」
机の上の城の構造図に数多く印がつけられている。既に居た者達に疑いの視線を浴びせられる。
「一応、お前たちには言っておこう」
シオンは振り返り2人に告げる。
「俺達はレジスタンスとして何年も前から動いている」
夜遅くなって書いてますがもうちょっと早く仕上げるように心がけます。




