第63話「西の国」
言い訳させてください。ポケモンが面白すぎて1週間飛びました。
北の国からようやくあって西の国に着いた。幸いにも報告が行き届いていないのか入国手続きを難無く乗り越えた。関所の門を抜けると、小さな市が開いておりその奥に店が並んでいる。北の国ほどでは無いものの、それなりに賑わっている。起きたキルトを下ろして人混みの中へと入って行く。
2人とも数々の商品に目を奪われながら街の宿へと向かって行った。
宿に入ると宿主が焦りながらお金を数えていた。頭を抱えていたがこちらに気付くと突如歓喜した様子で士助を迎えた。
「あぁ、良かった!いらっしゃいませ、何泊でしょうか?」
「あ、あぁ。とりあえず2泊…」
「い、いや!3泊が良いですよ!この街は3日で観光は厳しい、いや不可能ですよ!是非!」
「えぇ…」
キルトはどっちでもいいよ、と目で答えたので仕方なく3泊することになった。部屋へ案内されて荷物を下ろしてくつろぐ。
「はぁ、疲れた…」
「そうだね…」
流れる様にベッドに倒れる。やっと災難が去って一息つける。騎士に追われ、兄弟に助けてもらおうと思ったら敵が襲ってきて撃退して西の国に着いて今に至る、と。まだ旅が始まってしばらくもしてないのに苦労だらけ。これだけで本が1冊書けそうだ。
「ねぇ士助、ここの人達何か様子がおかしくない?」
「あー…お前もそう思うか」
2人はこの街の奇妙な雰囲気を感じ取っていた。
「なんだろうな…『死んでる』みたいっつーか」
「でも生きてるよ」
「いやそうなんだけど。何かが欠けてる感…」
言いかけた瞬間、大きな鐘の音が鳴り響いた。不気味に街が沈黙する。
「士助アレ!」
キルトが窓の外を指差す。すると、店の者達が急いで鐘のある城へと走って行った。
「何なんだよ」
「わかんないけど召集か何かかな?」
2人は顔を見合わせる。
気になったので様子を見に行くことにした。キルトを連れて屋根伝いに城へと向かう。城に近付くと体を屈めて門前を確認する。門を挟む様にして甲冑を身に着け槍を持った騎士が2人居るだけだ。周囲に誰もいないのを見ると商人達は城の中へ入って行った様だ。中が気になるので屋根に身を潜めて2人で侵入法を考える。ここでキルトが良い方法を思いついた。
今度は城前の家の陰に身を潜める。キルトの作戦を実行する為だ。タイミングを見計らってキルトが飛び出した。息を荒げ、披露した演技をしながら騎士達の前で倒れる。キルトに騎士達が駆け寄る。
「大丈夫ですか!?どうしました?」
「あっちで…怪しい奴に襲われて、逃げて、来たんだ…あ、アイツ…!」
家の陰から逃げ出す士助を見て騎士2人が追いかける。
「待て!追うぞ!」
家の路地を巧みに駆け回り攪乱させる。
「どこへ行った?」
辺りを見回す。見つからず手分けして探そう、となった瞬間。
「誰を探してんだ?」
どこからかいきなり背後に現れた士助が振り向いた騎士の顔面を殴りつける。強烈な一撃が脳を揺らし気絶した。
「ヒッ…」
ひるんだもう1人の騎士の側頭部を蹴りつける。壁に叩きつけられ同様に気絶した。キルトの作戦は大成功だ。急いでキルトの所へ戻りハイタッチをする。
「「大成功!!」」
門をくぐり城内へ侵入する。
中は閑静で人気がまるで無い。しかし、目の前の大広間の様な部屋からは声が聞こえる。大きな木製の扉をわずかに開けて2人で盗み見る。そこには商人達が整列して、王座に座る者に貢物をしている。その王座にいる者の顔、どこかで見た。あれは…
(ゴードン!北の国に居た奴!)
しかし、体型が違う。北の国では痩せていたがここでは寧ろ太っている。つまり。
(短い間でどんだけ食ったんだよ)
(違うよ!アイツは北の奴の父親なんだよ!)
アホな士助の代わりにキルトが言った。その通り、北の国の『ミクール・ゴードン』の父が西の国国王の『マクール・ゴードン』なのだ。北の国でキルトが言ったバックとは父親の事だ。
淡々と貢物を捧げる中おびえた商人の1人が王の前に立った。
「どうした?はよう出せ」
「い、いや。そそ、それが…あのう…」
商人たちがざわつき始める。士助達も察した。『あの商人は貢物が無いんだ』と。それで罰を受けるのが怖くて怯えているんだ。
「何だぁ?さっさとせんか。それか…お前、持って無いのかぁ?」
「い、いえ!そういう訳では…」
「なら、さっさとせんか!」
「ヒィ!」
怒鳴るゴードンに合わせ、騎士が槍を構える。もうダメか。士助が飛び出しかけるその時!
「国王!その者はどうやら貢物の『金』を落としてしまったようです。証拠に、ここにその貢物があります」
コックの姿をした青年は持っていた2つの内1つの袋を差し出した。ゴードンが中身を確認する。
「おぉ!だったら、早くそう言わんか」
「は、はい。すみません」
再び列が動き始める。次の順、最後尾であるコックの青年もしっかり貢物を出している。
「あのコックの奴。最初から2つ貢物を持ってたな」
「どうして?」
「今までもああいう奴がいたからじゃないか?処罰を防ぐために余裕のある自分が出したんじゃないかな」
「そっかぁ…それだけ罰ってのが酷いんだね…」
罰…北の国やり方を見ると普通じゃないんだろうな。親子揃って頭おかしい奴等が政治を行ってるとは信じられんな。まさかとは思うが母親も…
「そこで何をしている!」
怒声で肩が上がり振り返ると騎士が立っていた。城内警備の兵だ。外の声に反応して広場の者達も振り向く。
「クソっ!面倒だな…」
広場の扉を開けて中からも騎士が飛び出してきた。いつも通りキルトを脇に抱え、正面の騎士を蹴り飛ばし城を出た。
「追いますか?」
「フン、別に構わん。大方盗人かなんかじゃろ。さぁ愚民ども、さっさと出てけ!」
並んでいた者達も城内を出て行く。そこにコックの青年の姿は無かった。
追いかけられることも無かったので難無く逃げ切れた。この現状を観光客は知っているのだろうか?ざわつく市場にを通り宿へ戻ろうとした。その時、肩を掴まれる。振り返ると後ろにはコックの青年が立っていた。険しい目つきで士助を睨んでいる。
「何か用か?」
「アンタ、あの場所で何をしていた?」
周囲に険悪な空気が漂う。キルトも怖くなって士助の陰に隠れる。
「ここの商人達が急に集まったのが気になって見てただけだ」
「門番が居たはずだ」
「んなの居なかったぜ?すんなり入れたけどな」
「それはありえない。何故なら、兵士は例外が無い限り王の命令を忠実を守らなければいけない」
「じゃあその例外があったんじゃねーのか?」
「……何が目的だ」
「だから、俺は知りたかっただけだっての」
「本当か?」
「こいつは本当だぜ?」
ローブの中の笑みが青年の疑念を押す。しかし青年は踵を返す。途中で歩みを止めてこう言い放った。
「今日見たことは決して誰にも言わないでくれ」
たったそれだけ言い残して去った。
「士助…」
「…宿に戻ろう」
日も落ちて空が赤く染まった。昼頃とは変わって市場が人でより溢れかえっている。キルトは窓からその様子を覗き、士助はローブを脱ぎベッドに腰掛けていた。キルトが辛い表情で話し始めた。
「ここの人達がなんか変な感じだったのって城での事が原因なのかな…」
「寧ろ、アレ以外ありえねーだろうな。まったく…親子揃ってクズみてーな奴らだ」
込み上げる怒りで奥歯を強く噛みしめる。外の世界がこんなにも荒れてるとは知りもしなかった。士助が抱いた外の世界は夢を崩す様な腐った世界だった。考えるだけで怒りが増していく。
そこへ、キルトが隣に腰掛けて腕にしがみついてきた。
「ここの人達を助けて!お願い!」
逃がさないつもりなのかしがみつく力が強くなる。少し痛いくらいだ。
「…何でそんなこと言うんだ?言っちゃ悪いがお前はここの奴と何にも関係ねーだろ」
士助もキルトの言う事には賛成だ。しかしそんなことをすれば南の国に着くのが遅くなるのは目に見えているし、最悪捕縛。さらには殺されるかもしれない。これは全て士助の事ではなくキルトが直面する問題だのだ。そのことを考えないキルトではない。
「何でって…あんなの見たら放っておけないよ!まだ詳しくは知らないけど、でもこの街の人達が何よりの証拠だよ!それに、士助だって目の前の悪は見過ごせないんだろ?」
しばらく黙り、小さく溜息をついた後必死に懇願するキルトの頭に手を置く。
「しゃあねぇ…任せとけ。俺だってあんなもん見て黙ってられる程おしとやかじゃねーよ」
キルトに笑いかけ、キルトも満面の笑みを返す。
「うん!一緒に頑張ろー!」
「あぁ。ま、でも今日は休もう。明日からに備えてな」
「うん、わかった」
各々のベッドに戻り就寝した。
夜中、眠るまでの間、士助は考えていた。
今回俺達が関わることは力ずくで解決しようとすれば不可能ではない。でも、それじゃあ駄目だ。そんなことしても国民が解放されただけで指導者いなければハッキリ言ってこの国に未来があるとは言えない。
『国は国民だけで成り立たない。指導者と国民がいてこそ国と言える』
昔、庵次兄ちゃんが言っていた。つまり具体的に言えば『この国で優秀な指導者を見つけ、革命を起こす』これが最善策だ。
優秀な指導者、ね。思い当たる節があるな。明日訪ねてみるか。
ゆっくりと睡魔を受け入れ、眠りについた。
雰囲気を壊す様ですがベッドに腰掛けて怒ってる士助はジャージ姿です。これだけは言っておきたかった。




