第61話「西の国へ」
今回は少し短いかな?あと会話が多いですね。
無事、美図はサタナキアを倒すことが出来た。追い込まれた様にも見えたが、それは相手の力量を図る為であって現にピンピンしている。足元に散る氷の破片を踏みつけながら士助に歩み寄る。その後ろでは凍りついていた滝の流れが戻って、再び滝壺に水を溜めていく。
「…終わったぞ…」
「あ、あぁ…じゃあ俺達行くよ。ありがとな」
「待て…そっちの少女…」
「へ?あ、あたし?」
足取りを止めて、どこからともなく出した雨合羽を手渡した。黒の布地に緑のラインが入っている。裾に『龍』と刺繍されている。
「これは?」
「玄龍族が作った『護龍服』だな。特殊な作りで防御面に非常に優れてる。でも何でこれを?」
「お前たちは、指名手配されてるんだろ…?だったら、襲われた時のことも、考えるべきだ…」
確かにキルトは北の国を出てからずっと作業服のままだ。これでは万が一襲われた時に致命傷を負いかねない。この『護龍服』は非戦闘員に配布された服で襲撃時の避難に備えられたもの。過去の戦争で回収、その後1つ残らず焼却された。
「でもこれって全部無くなったんじゃ…」
「玄龍だから、持っていてもおかしくないだろう…さあ、持って行け…」
おとなしく美図の行為を受け取り上から羽織った。少し冷たい。気を改めて出口へと向かう。
「何から何までありがとな兄ちゃん」
「気にするな…早く行け…」
「うん、元気でな」
フィルディアーノ湿林、虹色美図にお別れを告げた。滝隣りの木の足元を調べる。密集した木の葉をどけると大きな穴が現れた。中へ入ると暗闇がかなり奥まで続いている。順路に従い進むことにした。最後に振り返って少しだけ立ち止まると、もう一度進み始めた。
明かりも無しに壁に手をついて進んで行く。キルトは服の裾を掴んでついて来ている。この道は昔から存在するもので崩落の可能性もあるはずだが一度も崩れたことが無い。おそらく上は森になっていて奇跡的に根が洞窟を作っているのだろう。触れている壁に、時々根の感触がある。
乾いた地面を歩いていると不意に壁に頭を打った。仰け反って打った額を押さえながら前を確かめると行き止まりの様だ。つまり、ここが出口だ。さっきまで上は土だったが今は空洞になっている。キルトを抱えて狭い穴の壁を蹴って上がる。すぐに木の葉を突き破って外へ出た。太陽の光が暗闇から現れた2人を包んで、思わず目を瞑る。
出た場所は湿林から少し離れた平野。そこにそびえ立つ1本の大木の近くに出た。振り返るとさっきまで居た湿林が後ろに見える。とりあえず今の位置を確認するためにキルトを残し大樹の頂上に上ることに。枝や木の葉を突き抜けて頂上へ辿り着き辺りを見回すと、北西に白い建物が集中しているのが小さく見える。その他に騎士たちが近くに居ないのを確認するとルートを決めて急いで降りていく。
「わかったぞ。西の国はこっから北西にある。行こう」
「あ、士助!ちょっとこれ見て」
キルトが樹を指差しているので見てみると、木に文字が刻まれていてこう書かれていた。
『偉大な龍の魂、ここに眠る』
「なんだコレ…」
「龍ってさ、もしかすると士助達のことじゃないの?」
「いや、でもこれは…」
以前ここへ来たのも大分前なのでこれを見たのかどうかも忘れてしまった。そもそもこれがどういう意味かもわからない。今度、庵次に聞くことにして今回は諦めて進むことにした。
「いや、今はいい。とりあえず行こう」
「うーん、わかった」
西の国へと向かって、既に半日は経過した。出発したのは朝くらいだったので今ではすっかり日も落ちて暗くなっていた。夜道を進むのも危険なので火を焚いて休憩することに。平野は一見無防備に見えるが敵が来ればすぐにわかるので、案外休憩にはちょうどいい場所だ。2人は隣り合い、火の近くに腰掛ける。
「とりあえず休憩すっか…」
「うん。それにしてもここは何も無いね」
「そうだな。あってもあそこのでっけえ樹ぐらいだな」
かなり歩いたが振り返ると後ろにそびえ立つ樹がまだ見える。緑の葉が風に揺れているのがわかるぐらいに。
「あれってさ、もしかすると誰かのお墓とかじゃないのかな?」
「墓、ね…。だとしたらそうとう前の物だろうな。戦争があったのなんてなんて俺が生まれて間もなかったし」
「戦争かぁ…士助はさ、昔から戦ってたの?」
「いや、俺は兄ちゃんと特訓はしてたけど対人戦は兄弟以外無かったよ。魔物は…ちょっとあったかな」
「なのに指名手配されてるの?」
「みたいだな。何もしてないつもりなんだけど。てか、街にも行ったことなかったのに何でかなぁ」
「行ったこと無いの?」
「無い。いや、つい最近は北の国の別の街に行ったっけ。情報集めとかで」
「そうなんだ。士助、悪い人じゃないのに。何でかな?」
「そうでなくても玄龍だったらされてるよ」
「種族がそんなに悪いことしたの?」
「間違ってないけど、第一の理由は『危険だから』だな。この世界の偉い奴らが怖くて俺達を殺そうとしたんだ。おかげで今じゃ5000はいた仲間も10分の1程度になっちまった」
「なんていうか、仕返しとか…しないの?」
「俺はまだその時居なかったから何も出来なかったけど、その戦いで敵軍の8割を削ったんだってよ。それが復讐ってわけじゃないけど…それで治まってるところはあるな。でも、家族に残された奴だっているんだ。出来るんだったら暴れて、やりたい放題するだろうな。気の済むまで殺したりとか、さ…」
「でも、そんなことしたって死んだ人達は帰ってこないんだよ?」
「殺された奴からすればそんぐらいムカツクことなんだ。『殺された奴らは帰ってこないのに、殺した奴らが何で生きてるんだ』って、よく言ってたんだって。お前だって家族殺されたらそうなるよ」
「……よく、わかんないよ」
「…今日はもう寝ろ。俺にもたれていいから」
「最後に聞かせてよ。士助は家族を殺されたら…そんな風に、というかさ。その…」
「…わかんねえよ。まだ、時が来てないから。もし来たら…その時考えるよ」
「そっ、か。じゃあ…寝るよ。おやすみ」
「ああ、おやすみ」
キルトを寝かしつけて士助は起きたまま万が一に備えて見張りをする。辺りを警戒しながらキルトの言ったことを考える。
もし自分が家族や仲間を殺された時、殺した奴をどうするのだろうか。
もし道空や家淵、殿着に美図に科背、庵次。そしてミカを殺された時、どうするのだろうか。
もし花やサタナス、ヒロトに加奈を殺された時、どうするのだろうか。
結局、月が沈むまで考えたが結論なんか出る訳なかった。何故なら今までそんなこと無かったのだから。
夜が明けた。火を消してルートに従い、西の国へ向かう。昨夜の事もあって、お互いに口数も少ないまま2回目の夜を迎えた。昨夜同様、士助が見張りを務め2日間寝ずに活動することに。
3度目の朝。少しふらついた足取りで進む。頭が痛い。以前よりも進行も遅く、何も無いところでこけたりする様になった。昼ご飯は食べるがあまり進まない。それを心配してキルトが休憩しようと提案してきた。しかし、西の国はもう見えている。休憩はとらずに先を急いだ。そして、3度目の夜を迎えた。
「………………」
「ねぇ士助。今日は士助が寝なよ…」
「何、言ってんだ。敵が来て、お前1人で対応できるのかよ…」
「でも士助おかしいよ!今日なんか何回もこけてたし、ぼーっとしてたじゃないか」
「大丈夫だって…とにかく、今日は寝ろ…」
「今の士助だって敵と戦って大丈夫だって保障なんて無いでしょ!サタナキアって奴みたいなのが来て勝てるの?」
「でもよ…」
「でもじゃないよ!とにかく寝て。いざとなったら起こすから」
「結局、俺頼りなのかよ…まあ、わかったよ…じゃあ」
「わわっ!」
朦朧とする意識に包まれて隣のキルトに抱き着いて目を閉じた。そうとう疲れていたらしくあっという間に眠りについた。キルトの力では重くて動かせないのでこのままにした。
翌朝、士助が元気になって起きた。そのかわり1晩中起きていたキルトはうとうとしている。頑張ってくれたお礼にキルトを負ぶっていくことにした。
平野をただひたすら進んでいると北の国から西の国へと向かう道に出た。行商人が馬に荷車を引かせていたり、観光客が馬車に乗って運んでもらったりしている。横を通る人たちに変な目で見られたが道に従って西の国へと向かった。
到着するのにそれ程時間はかからず、すぐに白い住居群が見えてきた。街の方からは美味しそうな料理の匂いがしてくる。その匂いに誘われてキルトも目を覚ました。
「ん…」
「着いたぞキルト。西の国だ」
第2の目的地『西の国』に着いた。しかし、ここで再び事件が起きることを2人は予期していなかった。
久々に活動報告書きます。全然小説とは関係ありませんがもし時間が空いているのならばどうぞ。それでは読んで頂きありがとうございました。




