第59話「フィルディアーノ湿林」
追手の騎士たちを撒くために『フィルディアーノ湿林』へと逃げ込んだ2人は入り口付近で腰を下ろしていた。バッグから水筒を2つ取り出し、片方をキルトに手渡した。渇ききった喉に水を流し込み潤いを取り戻す。正に生き返った気分だ。呼吸を落ち着かせてやっと平常に戻る。
今のところ騎士は踏み込んで来ていない。足止めされる場所も無いし大方、入り口で待ち伏せしているのだろう。だったら戻ることは出来ない。しばらくして、湿林を進むことに決めた。キルトにバッグを持ってもらい、キルトを背負って湿った土を踏んでいった。
『フィルディアーノ湿林』。危険区域に指定されているこの場所には2つの危険が潜んでいる。まず1つめは辺りを占める『底なし沼』。地面の色と酷似した水面が揺れることなく点在している。しかし、恐怖はそれだけではない。
地面を的確に見分け慎重に歩く士助。だが、見誤り沼の水際を踏んでしまった。ピチャッと水が弾けた瞬間!
「アアァアァァアァァァア!!」
奇妙な叫び声を上げながら痩せ細った胴体の魔物が沼中から襲い掛かってきた。
「うわぁぁ!!」
「うおっ、来んな」
飛びかかる魔物に冷静にキックをくらわせる。2mはあるであろう胴体ごと草むらに飛び、戻ってくることはなかった。
「ななな、何今の奴!?」
「わかんねー。でも、あいつら目が悪いくせして耳が良いから水の音が聞こえたら襲ってくるんだよ。そうやって食糧になった奴は少なくないさ」
1時間経ってようやく終わりが見えてきた。奥は緑々しい木々が生い茂り、まるで別世界の様だ。
ようやくか…心の中で呟く。この時、流石の士助も疲労感が溜まりふとした油断が命取りとなった。瞬間、足が沈み沼に捕らわれた!
マズイと直感で判断した士助はキルトを奥の方へ投げ飛ばした。
「キャッ!」
「そのまま行け!」
足を掴まれ膝まで沈む。引き上げようとしても力を加えれば片方の足が沈む。沼の中央に連れて行かれる。させまいと地面を掴むが、水によって泥と化した地面はあまりにも脆く、瞬く間に崩れ去った。沼の中央、何もない場所で窮地に立たされた。TYPE-龍で飛び去ろうにも立て続けに変身は出来ない。
もうダメか…。腰まで沈む。そう諦めかけた瞬間!どこからともなく現れた水の触手が士助に巻きつき沼から掬い上げてくれた。沼中の魔物が士助と共に引きずり出され、地上に落とされる。鮮魚の様に暴れ、しばらくして沼へと這いずり戻った。
目の前で水が揺らめいている。本当に透き通った水だ。思わず目を奪われる。役目を終えたのか触手は奥へと向かって消えた。
「士助!大丈夫!?」
慌ててキルトが駆けつける。心配していたのが目に見てわかる様に息が乱れ、目に涙をためている。
「ああ、大丈夫だ。それより…」
奥に目をやる。小さな風に吹かれて木々が木の葉を揺らし、手招きをしている様に見えた。ここから先は進むだけだ。
キルトと足並みを揃え『虹色美図』に会いに行った。
『様に』が多い気がしました。あと短いです。




