表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
我龍転生  作者: キーダの滝
真の戦い
61/82

第58話「北の国脱出」








北の国名物『大通り』。正式名称は『キャフィ大通り』。国の人達は大通りと言えばこの場所なので大通りと呼ぶ。名の通り大きな道を挟む様に工房、飲食店、食品販売に道具販売。様々な店が立ち並び人々は行き交う。


しかし、北の国名物は大通りだけではない。この大通りの西に位置する『ビリン街』がそうである。何故『名物』なのかと言うと、街に張り巡らされたビリン街路が信じられない程複雑にできているのだ。

初めて来た者は当然迷子、長年住んでいる地元の人も迷子、といった有様だ。

いくつも似た様な建物が続き薄暗い街頭、住居に反射して聞こえる音に人気の無い道が脱出不可能の心情を煽る。


そんな場所へ虹色士助は逃げ込んだ。乾いた石畳を踏みながら角を曲がって騎士達を撹乱させる。案の定、追ってを蒔いて身を隠すことに成功した。近くにあった廃酒場に入り、ソファにキルトを座らせる。

バーカウンターの下から水の入ったボトルを見つけてキルトに飲ませる。士助に抱えられながら激しく動かれたのでくたくたで頭がふらついている。窓から外の様子を伺い、安全を確認すると向かいのソファに腰を下ろす。


「はぁ…大丈夫か?」

「大丈夫じゃないよ。くらくらする…」


頭を押さえて机の上で頭を横にする。そりゃそうだ。今まで話してた奴が指名手配犯で黄金ロボ壊して関係無いのに濡れ衣で騎士に追いかけられて平然としている奴なんていない。

とりあえずここから先どうするかを考える。北の国を脱出できたとして、その先どうする?経路は西の国に向かってるが、もし訪問中に追いかけられる事になったらどうする。そもそも脱出できるか?国を移る為には入国管理ゲートで許可印を押してもらわなければならない。しかし、既に情報が行き届いているのなら通れない。

どうする、一体どうすれば…と、ぼやいているとキルトが顔を上げる。その表情は今にも泣き出しそうだ。


「あたし、どうなるのかな…捕まっちゃうのかな…」


強く拳を握りしめて泣くのを我慢する。それを見て士助が立ち上がる。


「お前も一緒に旅に来るか?」

「え…?」

「ここに居てもどうせ捕まるんだからここから去った方がいいだろ」

「…………」


戸惑うキルト。ここに思い入れがあって去るのが辛いのか、それか犯罪者と逃げて良い未来が待っているとは思えないのか、その両方か。

何にせよ決断しなければ未来すら待っていない。この歳には無理があったか。庵次や里の皆に頼んでキルトの無罪証明を手伝ってもらおう。

そう考えた矢先、キルトが立ち上がり決意する。


「あたし、行くよ!行きたい所が…行かなきゃならない所があるんだ!」

「犯罪者に着いて来ていいのか?闇商人に売り飛ばされるかもよ」

「だったら昨日の夜にはもう売られてるよ。それに、ここにいてもゴードンの無茶苦茶な命令で捕まるんだ。だから…」


少女の目は悲しみを吹き飛ばし、覚悟を付けた目だ。さながら戦前の戦士の様に。覚悟を無下に扱う訳にはいかない。士助も席を立ってキルトに視線を返す。


「よし、じゃあ行くか。長くなるぞ?」

「うん!あ、でもその前に…」

「ん?」








街路の建物を上にのぼり、屋根伝いに大通り方面に向かい、キルトの工房に着く。何やら持って行きたい者があるらしい。


「早めに終わらせてくれよ」

「うん」


作業机に駆け寄り、引き出しを漁る。キルトの側に行って外を警戒する士助。ふと目線を後ろにやると一枚の写真が目についた。色々な部品に隠れて見えなかったクリアデスクマットの下の写真。父と母、女の子1人が笑顔で写っている。キルトとその両親だ。しかし、その両親が今の今まで見当たらない。遠くへの勤務だろうか。気にしているとキルトが尋ねてきた。


「写真、気になるの?」

「え、あぁ…まあな」

「……ここに来たのはつい最近で、前は南の国に住んでたんだ。こっちに来て荷物の整理してて、忘れ物があるって。それで、南の国に…」

「戻って、そこに南の国襲撃事件か。追求するようで悪いが何でキルトは置いていかれたんだ?」

「その時、交通規制が突然厳しくなったんだ。なんでも凶暴な魔物が出たとかでさ。父さんと母さんはハンターの資格を持ってたからあたしは留守番してたんだ」

「そうなのか…」

「うん。でも、死んだと決まった訳じゃないんだ」


ようやく見つけた探し物を士助に見せる。緑色の宝石がはめられたペンダントだ。美しい輝きを放って、しばらくの間目を奪われる。


「何でわかるんだ?」

「これ、『リンクエメラルド』っていって同じ細工を施した物の数が減る程輝きを失うんだよ。でも、最初にもらった時から変わってないんだ。だから」


写真にも3人とも同じペンダントを首から下げている。


「なるほどな。じゃあ、行きたい所ってのは…」

「見つけたぞ!ここだ!」


その時、騎士の声が工房内に鳴り響く。少しゆっくりしすぎた様だ。写真を抜き取り、キルトを抱え込むと剣を出し、天井を四角に切り裂く。空いた天井に飛び乗る。士助は体の底から龍の力を引き出す。湧き上がる龍の本能を解放し、空へと飛んだ。

『TYPE-龍』!鋭い目、煌めく爪。背中からローブを突き破り翼が生える。

紅い翼を羽ばたかせ、空高く上がる。騎士達も驚愕して空を仰ぐ。空中で加速し、一気に北の国出口へ向かう。本来、早くても4日。遅くとも10日はかかる距離を一瞬で飛ぶ。しかし、普段飛び慣れてないのに加えてカバンとキルトの重量でどんどん下がってゆく。出口に近づくが耐えられず力が解ける。キルトを強く抱き込んで、次の瞬間には肩で地面を滑っていた。後ろに騎士は見えない。幸いにも出口はすぐそこだ。僅かに残った力を振り絞って出口まで走り入国許可証を提示する。


「西の国に向かう!急いで印を頼む!」

「え、あっ、えっと…」

「早く!」

「ハ、ハイ!」


受付の騎士が印を上にかざす。そこで騎士達の声が聞こえる。


「印を押すな!そいつは犯罪者だ!」


上で止まる印。伝達で急いで来た騎士だ。しかしここまで来たら手段は選んでられない。無理矢理押さえつけて印を押し、北の国を脱出する。




息を荒げながら整備された道を走る。後ろを振り返らずにひたすら走った。


気がつけば、『フィルディアーノ湿林』という危険区域の前にいた。騎士達は見えないが念の為を思い、中へと逃げ込んだ。


士助は知っていた。ここに虹色家三男『虹色 美図(みと)』がいることを。

反省点はキルトキルト言い過ぎなのと中の人が変わるかの様な文調の変化。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ