第42話「ある日の昼下がり」
今更ペルソナ4やってます。
ついったー:kidanotaki_7
季節はまだ春。
色々なことがあったもののまだ夏も遠くに見える時期。蝶も元気にひらひらと飛んでいる。
そんな中、異世界からやってきた悪魔のサタナスは購買前で腕を組み悩んでいた。
目の前の棚にはメロンパンが1つ置いてある。今は人も少なく昼食をどこかでとっている時間だろう。もし、手に入れるのならば今がチャンスだろう。
「………………」
制服のズボンのポケットに手を入れ小銭を取り出す。
ちょうど105円。値段も105円。危なくも買うことが出来る、が残念なことにここで使ってしまえば加奈にもらった支給がここで尽きてしまうのだ。そうなったら後は昼飯抜き。もしくは加奈に頭を下げて再びもらうしかない。
だが、憤怒の名を持つサタナスにも高いプライドがある。
そんなことまでしてもらうくらいなら耐えた方がましだ。とは言ったものの今、ここで、欲しいと思ったものを我慢するのも苦だ。
そんな思考を巡らせてうなっていると向こうから士助がやってきて棚のメロンパンに気付く。
しばらく隣のサタナスを見ていたが動く気配も無い。
(寝てんのかコイツ…)
だったらかまう必要も無い。目的の物に手を伸ばしレジに運ぼうとする。
「待て。」
が、サタナスがその手を掴む。それもかなり強く。
「痛い痛い痛い痛い痛い!な、何すんだテメー!」
体をぐねらせ必死にもがく士助。手からメロンパンを奪い上げたサタナスがやっと放す。
「何なんだよ!」
「単純に買うのを待てと言っている。」
「いつまで?」
「俺の意思が固まるまでだ。」
「じゃあ買うわ。」
士助が再度メロンパンに手を伸ばす。すると
「待て。」
今度は力強く手で首を絞める。
「ぐぇぇぇ!な、何すんだ…!」
「待てと言っている。」
サタナスは手を放す。士助は肩で息をしている。落ち着いた頃合いに
「何ナチュラルに首絞めてんの?たかがパン1つでここまでされるとは思ってなかったよ士助クン。」
「俺もここまでしようとは思っていなかった。しかし、貴様が手を出すばかりに…」
「や、てかいいから決めろよ!いつまで考えるつもりだ!」
「とりあえず5時間くれ…」
サタナスは顔色変えずに冷静に答える。
「日が暮れるわ!さっさとしろや!」
声をあらげて怒鳴る士助、をよそにサタナスは再び深い思考に入る。
「待て、ならばこうしよう。」
「何が…」
落ち着いたトーンで話し始めるサタナス、それに合わせ士助も一度落ち着く。
「お前はこの食料が欲しい、それは俺も同じだ。」
「おう。」
「つまりお前はこの食料を入手するために必要な金を持っている。どれほど持っている?」
「今は…2000円はあるな。」
「何…!」
驚いた表情で士助に尋ねる。当の本人は何が何だかわかっていない。(そもそも事情を知らされていない)
「何故お前はそんなに持っている?」
「なんでって…加奈のとこで働いてるからだけど。」
「働いてる?お前が?なんの冗談だ。」
「こいつは…てか結局どうすんだよ。」
サタナスに怒りを覚えながらも士助は話を進めようとする。こうしている間にも刻一刻と昼休みの時間が無くなっているのだ。まだ3分の1程度だがこのスピードでは昼休みが昇天する。
「いや、今片づけるべきはお前の所持金の多さだ。とりあえず全部話せ。」
「テメェは…てかどーでもいいんだよ、んなこと!さっさと買うか買わないのかをな…」
「良くはない。焦っている様子を見るとお前…さては盗んだな。外道め。」
「悪魔に言われたかないよ!」
2人で言い争っているので道行く人の視線が集まる。知らぬ間に10人程度の人だかりができていた。
すると
「何やってんのよアンタ達…」
呆れ顔で加奈が歩んできた。手にはコンビニの袋を下げている。
「あ!加奈!聞いてくれよコイツがさ…」
「おい。雇い主よ。飼い犬の躾がなっていないぞ。盗みを働くように躾けているのか?」
「何?士助アンタ窃盗でもしたの?」
「してなーい!てか黙ってろ!」
再び口論が始まりそうなのを見かねて加奈が場所を変えて話すことにした。因みに加奈を先頭にして2人が歩いていたので加奈の事が『クイーン』と呼ばれるのはまた別のお話。
────────しばらくして────────
話もまとまり加奈がうなづく。
「なるほど。てか金が無いなら言えばよかったのに。」
「頭を下げてもらう金に価値など無い…!」
「何言ってんのコイツ…そんな可哀そうなアンタにコレあげる。」
と、先ほどまで持っていたコンビニの袋を手渡す。中にはおにぎりやパン、飲み物まで入っていた。
「これは…」
「アタシがさっきコンビニで買ったやつ。」
「いいのか?」
「別に。ホントはビニール袋が欲しいだけだし。」
「何考えてんだよお前…」
士助がつっこむ。
「本当にくれるのか?」
「いらないなら返して。」
「…いや、ありがたく受け取っておこう。」
士助の目から見てその時のサタナスは心なしか照れているように見えた。いくら悪魔とはいえ、いくら数多の戦いを潜り抜けていたとはいえそんなこともあるんだな、と考えていた。
その後、袋を返すと加奈は「絶対殺す…」と呟いてどこかへ消えてしまった。
そしてサタナスと2人になって
「…あー。まあ、さ。加奈もなんだかんだ言って優しいところとかあったりなかったり…」
「いつぶりだろうか…」
「へ?」
手の中に食べ物をたくさん抱え込んでサタナスは言う。
「こんな親切を受け取ったのはいつ以来なんだろうか…」
「サタナス…」
少し悲しそうな表情をちらつかせサタナスも戻って行った。少しぼーっとした後、士助も続いた。
時計を見るとあと5分あるかないか。ゆっくり教室に戻るか…。
道中…
「だ、誰か助けて~!」
廊下の向こう側から関西弁が聞こえてきたので目をやるとビニール袋をかぶった女子生徒がふらふらしながら歩いている。しかも袋を固定するために口の部分を首にやり上からロープが結ばれている。
まあ…アレだよね。アイツだよね。花だよね。
「加奈~ごめん~もう加奈の弁当食べへんから~!助けて~!」
ビニール袋お化けが横を通り過ぎる。お化けはそのまま廊下を突っ切って行った。
……………
「戻るか…」
今回はちょっとした小ネタみたいなものです。




