第11話「最高ランクの実力」
「何だよこの力…さっきの奴とは比にならないぞ…」
アモンの十倍、もしくはそれ以上の力を直感的に感じ取り、立っているだけで重くのしかかるプレッシャーが体を押しつぶそうとする。
「どこだ…どこにいる!」
士助は近づく程大きくなる力を頼りにどこにいるかを探した。そして見つけた。グラウンドだ。この時間は偶然にも授業は行われておらず人は一切いなかった。巨大な力の発生源。それは黒い翼を羽ばたかせながら腕組みをし、宙に浮いている。黒い衣装に包まれ小さく吹く風に黒髪がなびいている。発生源の正体は言わずもがな悪魔だった。グラウンドに出てきた士助の存在に気づいた。
「何だアイツ?あの姿どこかで…」
「お前…悪魔だな」
「俺が何かわかるのか…そうか!お前虹色士助だな。クキキキッ!そうか…お前があの危険因子か…」
「何言ってやがる!さっさと降りて来い!」
「キキキ…知らなくて当然か。まあ知らなくてもいいことだろうよ」
「しつこい!」
士助は剣を取り出し高く飛び、斬りかかる。
「おっと、危ねぇなぁ。まあいい退屈していたところだ。少し遊んでやるぜ…。この大侯爵、アスタロト・ポイゾニー様がな!」
地に降りて来て手招きをして挑発する。余裕の笑みを見せつけその場から動く様子が見られない。相手に乗せられた訳ではないがスピードをつけた攻撃で剣を振り回す。しかし、容易に見切られかわされる。
「ケッ!こんなもんかよ…どうした?」
「まだだ!」
高速で後ろに回り込み、再度斬りかかる。今度はよけられなかったが、素手で受け止められる。アスタロトの手からは血も流れない。
「ハァ、面白くねーな。本当に玄龍かオマエ…」
怒りを煽られ剣を持つ手に力がこもる。それでも微動だにしない。先程の余裕の表情は消え怠惰に変わっていた。
「もういい。飽きた」
剣を強く掴み士助ごと押し返す。ズルズルと足跡を残し後ろに下がって行く。どれだけ力を加えても止まる気配すらない。
「ぐっ…だったら!」
アスタロトを払いのけ後ろへ下がり剣を右下で構える。距離を詰めるのと同時に士助は回転、剣が黒いオーラを纏ってアスタロトに強襲する!
「魔龍斬!」
左腕で受け止めたもののアスタロトはそのまま吹っ飛ばされて20m以上空を飛んだ。爪を地面に引っ掛け威力を弱めながら着地する。
「クキキ…本気出してんのか、出してないのか…何にせよ今のお前は、面白くないな」
倦怠、怒り。彼にとっての遊びは想像を遥かに下回り期待を裏切られた。つまらない遊びを続けるのは気に入らない。士助の瞬きに合わせ、アスタロトは士助を上回るスピードで距離を詰め、蹴りを入れる。対応も出来ずにくらい、アスタロトの二倍以上を背中で滑った。止まる頃には既に遅く遠くで奇妙な銃を構える姿が見える。禍々しい気配を放つ銃の引き金がゆっくりと引かれる。よけないと駄目だ…しかし、そう理解した瞬間には放たれた巨大なレーザーに包まれていた。光は地面を大きくえぐり、存在する物全てを消し去った。
派手に響いた破壊音を聞き取り大半の生徒や教職員が窓からグラウンドを覗く。皆の目に映ったのは地面に倒れ伏す士助とグラウンドに立つ一人の悪魔。ざわつく者たちを他所にアスタロトは士助に歩み寄る。
「クキキ…ギャラリーが集まってきたぜ…」
「……」
声も出ずただ睨むことしか出来なかった。憎悪のこもった視線を気にかけること無く話を続ける。
「さあどうする?死ぬか?」
「うる…せ」
「フン、そう言ってられんのも今のうちだ。とはいえお前を殺すのはまだ早い…」
徐々に集まってくる生徒のギャラリーを見渡しあることを思いついた。
「こういうのはどうだ?」
というとアスタロトは生徒達の方に一瞬で移動し、悲鳴が上がる。一人生徒を選び士助の元へ戻ってきた。選ばれたその生徒は皮肉にもヒロトだった。逃げられない様に首を締め付け拘束される。
「コイツは人質って奴だ。死ぬのはどちらか片方の楽しい選択だぜ。コイツかお前か」
「ぐっ…士助…」
「てめぇ…!」
「さっさと選ばねえと…」
ヒロトの左腕を掴み力を加え、折る。
「ぐあああああああああああああ!!」
「ヒロト!」
「タイムリミットはコイツが死ぬまでだな。死んだらお前を殺すがな」
ヒロトは苦痛にもがき歯を食いしばりその自我を辛うじて保っている。
「ぐっ…!」
「やめろ…」
「だったら決めな」
今度は逆の腕を掴む。ゆっくり力を込めて行き骨がきしむ音が鳴る。その瞬間士助は目を見開きゆらりと立ち上がる。
「やめとけ…」
「この状況でよく言えたもんだ。なんならお前が死ぬか?」
「お前は一度………痛い目にあわねぇとわかんねぇみたいだな…!」
友を傷つけられ、怒りの臨界点を超えた士助は一変し目が赤く光る。すると士助の体から黒い霧が現れ、全身を包んだ。霧はこちらを除くように静止しながらこちらを見ている。
「これは…」
アスタロトは冷静に受け止めこの状況を理解した。しかし時すでに遅し、黒い霧を鋭い爪が突き破り中から異形のものが姿を現した。
「グルオオオオオオオオオ!!」
高く響く咆哮。牙を持ち、背中は棘で覆われ長く伸びた髪の隙間から紅く光る眼がアスタロトを睨む。悪魔を彷彿とさせる姿は士助とは違った。その姿、例えるならば正に悪魔。
「ヒャハハハハハ!それが闇の力か!面白い…面白いぜぇ」
ヒロトを投げ捨て、アスタロトは爪を立てて頭を狙った。このまま串刺しで士助は殺される。
(ここで反応しねーとは…馬鹿か!)
が、次の瞬間には吹っ飛ばされ宙へと飛んでいた。遅れてやって来た鈍痛。地面で背中を打ち、殴られたであろう胸を押さえ高く笑い声を上げ、湧き上がる戦意をアスタロトは押さえきれなかった。しかし、楽しむ暇も与えず士助の追撃の左ストレートが完全に顔面をとらえる。
「がっ!!」
士助に自我は無く、大勢の生徒がいる校舎に叩きつけた。そして慈悲を感じさせない追撃を次々と喰らわせる。アスタロトの骨は粉々に砕け、身動き一つとれなかった。
「クキキ…こりゃあ、様ぁねえぜ…とにかく、これ以上はまた今度だ…」
士助を蹴り飛ばし闇に包まれその場を去った。しかし、怒りのやり場を無くした士助は止まること無く未だに暴れ続けている。
「グルアアアアアアアアアアアア!」
人を襲うことは無くても校舎やグラウンドを破壊し既に半壊状態になっていた。
「士助…やめろ…」
ヒロトは激痛で動けずただ声をかけるしかできなかった。破壊の限りを尽くすその姿で狂った様に暴れ、ついに人間を攻撃し始める。不幸にもその最初のターゲットとしてヒロトの前に立ち右腕を振り上げた。
(もうダメだ…声すら届かない)
絶対絶命の瞬間にも関わらず、最後の希望にかけて士助の目を見つめる。自我を失っているのはわかっていても、ヒロトは士助を信じていた。無情の拳が振り下ろされると同時に視界が黒で染まった。
「いい加減にしとけ」
声が聞こえてぼやけた視界で見上げると、黒いコートに身を包む青年が、腕を掴んでいた。冷たい視線が士助を突き刺し腕を振り払う。今度は青年に攻撃を仕掛ける。だが、青年はかわそうともせず片手を向ける。すると掌から出現した闇が渦巻きながら士助の手を吸い込み、中へと引きずり込もうとする。士助は激しくもがくが逃れること無く、渦中へと消えた。唖然としたヒロトを青年は担ぎ上げ再び闇を出現させた。
「うぉっ!な、何する気だ!」
「黙っていろ。お前の家まで行くだけだ」
闇に1歩踏み込むと同時にヒロトは強い睡魔に襲われ、気を失った。




