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昭和の片隅で。

作者: をはち
掲載日:2026/11/05

夕焼けの赤さだけが、あの日の気配を覚えている。


昭和五十年頃のことだったと思う。


空き地には、まだ土管がいくつか転がっていた。錆びた鉄の匂いと、乾いた土の匂いが混じり合う場所。


夕方になると、空が妙に赤く染まった。泥だらけの子どもたちが、土管の中を潜ったり、上に登ったりして遊んでいた。


笑い声が飛び交い、誰かが転んで膝を擦りむいても、すぐにまた走り出す。空気は乾いていて、夏の残り香が微かに漂っていた。


日が暮れる頃になると、一人、また一人と母親がやって来る。


「よっちゃん、ごはんよー」


「みーちゃん、もう遅いよ」


名前を呼ばれ、子どもたちは名残惜しそうに手を振り、それぞれの家へと消えていく。


空き地は次第に静まり返り、土管だけが黒い影になって残る。俺を迎えに来る者は、誰もいなかった。


最初はただ、少し遅れただけだと思っていた。母親の声が聞こえるはずだった。でも、いつまで待っても、名前は呼ばれない。


他の子どもたちが帰った後の空き地で、俺は一人で土管の陰に座っていた。風が通り抜ける音だけが聞こえる。


とうの昔に、自分の年齢も名前も忘れてしまった。ただ、ここで誰かを待っているという記憶だけが、小さく、しかし確かに残っている。


だから忘れられないように、時折、遊んでいる子どもたちに怪我をさせる。


転ばせたり、土管の縁で膝を擦りむかせたり。血の匂いがすると、この場所に少しだけ注目が集まる。それだけでよかった。


だが、いつしか空き地で遊ぶ子どももいなくなった。草が伸び、土管はひび割れ、やがてゲートボールを楽しむ年寄りたちの声が響くようになった。


白いボールが転がり、木の棒が乾いた音を立てる。俺は、誰かを待っていたのではないと、その頃ようやく気づいた。


ただ、ここから身動きが取れないだけだったのだ。それからさらに年月が過ぎ、地上げが進んだ。空き地は更地にされ、土管が重機でどかされた。


その下から、俺は見つかった。骨と、朽ちた布切れと、泥に染まった何か。


誰だったのか、何者だったのか、もう誰も覚えていない。


名前もないまま、俺は霊園の無縁墓に、似たような奴らと一緒に埋められた。


今も、あの赤い空の下で、誰かが名前を呼ぶのを待っているような気がする。


でも、もう誰も、ここには来ない。

読んで頂き有り難う御座います。

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― 新着の感想 ―
こりゃ、ホラーっていうより、大人が子どもの頃、遊んでいた場所を思い 回想する詩の様な感じがしました。昭和の香りがしてます。 良かったです
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