最終兵器
惑星アルファと惑星ベータは恒星を挟んで同じ軌道を同一の公転周期で廻っていた。ふたつの惑星にはそれぞれ異なった文明が栄え、歴史の始まりの段階から相手の惑星に対して敵意を抱いていた。これは恒星、太陽を崇拝する双方の文明の黎明期からのことで、科学の勃興期、原始的な宇宙船によってアルファがベータに侵攻したことで、限定的な戦争状態に入り、アルファの軍隊が撤退したものの、以後、和解することなく敵対が続いた。ふたつの惑星は散発的にミサイルを双方で撃ち合い、出口のない破壊戦争を展開させていた。
戦争経済は双方の社会を疲弊させていたが、政治指導部は国民を叱咤し、すべての営みが戦争を中心として機能するように緻密な官僚機構によって統制していた。
しかし一進一退を繰り返す長期戦は戦略物資のいちじるしい消耗を招き、アルファもベータも相手を出し抜く為の決定打となる最終兵器を秘密裏に開発することに科学者を動員し、総力を結集していた。
出し抜いたのはアルファだった。
政治指導部最高責任者の前に進み出た科学者は言った。
「閣下、お慶びください! 最終兵器が完成いたしました」
「そうか、でかしたぞ! これでベータの奴らの息の根を止めることができる」
アルファの地下研究所から運搬車両に載せられて最終兵器、反陽子爆弾はロケット発射基地に運ばれた。
秒読みが開始され、反陽子爆弾を積載されたロケットは冷えた液体燃料の作用でまとわりついた氷を落としながら、轟音とともに炎を噴き出して上昇していく。
物質に対して反物質を投射することで一瞬にして対象物を消し去ることのできる最終兵器は、こうして宇宙空間に放たれた。
アルファの司令部ではスクリーンに表示されたロケットの軌跡を要員たちが固唾をのんで注視していた。
「着弾まで15分。ロケット大気圏突入します」
管制官の声がスピーカーに響く。
「あと2分・・着弾!」
瞬間、惑星ベータの球体が発光し、内部の流体が凄まじい勢いで惑星表面に奔流となって溢れ、沸騰した。岩石質が粉砕されて、宇宙空間に弾き飛ばされた。
「ベータを倒したぞ! 万歳! 万歳!」
司令部の人間たちは沸き立った。念願だった勝利をついに手にしたのだ。政府の発表に国民も沸き立った。人々は街頭に飛び出し、手をつないで喜びの感情で踊りだした。アルファ万歳!
・・・恒星を廻る相似形のふたつの惑星は、ひとつが消滅したことで、微妙なバランスで成立していた空間の質量分布が崩れ、残ったひとつの惑星の軌道が逸脱しだしたことに惑星の住人たちはまだ気づいていなかった。その楕円軌道は住人たちの崇拝する太陽、恒星へと、わずかづつ、引き込まれていった。




