表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【連載版】王太子でも聖女でも悪女でもなく、一番の策士が『剣術バカ(嘘)』の私の婚約者の件  作者: 千秋 颯@3/6「選ばれなかった令嬢~」アンソロ発売!
第一章 私の婚約者は『剣術バカ(嘘)』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/24

第4話 ダブルデート

 休校日の昼下がり。

 賑わう街の中を私は馬車に揺られて移動していた。

 正面にはヴィーが座っており、彼は窓の外を眺めていた。


「ヴィー……いい加減、不貞腐れるのはやめて?」


 陽に照らされた鮮やかな赤い髪と翡翠色の美しい瞳。

 容姿端麗に加えて王太子という輝かしい身分を持つグザヴィエ殿下の傍に居る事であまり騒がれる事はないけれど、一人でいたならば必ず異性の目を引くだろう端正な顔立ち。


 それは今――不服を主張するように目一杯頬を膨らましていた。


「子供じゃないんだから」

「だってさぁ」


 日頃よりも地味な装いの私達が軽い言い合いを始めそうになっていると、馬車が停まる。

 どうやら目的地に到着したらしく、ヴィーは先に馬車の扉を開けて外に出る。


「ん」

「ありがとう」


 外から差し出されたヴィーの手を受け、私は馬車を降りる。

 そうして私をエスコートしてくれた彼は、その仕草は完璧だったのにも拘らず……相変わらず口を尖らせていたので、私は彼の頬を抓んで引っ張ってやる。


「いい加減、機嫌直して頂戴」

「いだだだ……だってさぁ!」


 ヴィーはそう言うと私達の馬車の前方を指した。

 私達が乗ってきた馬車の前には、別の馬車が停まっており、そこからは――グザヴィエ殿下と、彼にエスコートされたジュリエンヌ様の姿がある。


「何でついて来るんですかぁ!?」


 グザヴィエ殿下とジュリエンヌ様も普段社交界に顔を出す時とは大きく異なる、地味な服装をしている。

 つまりは身分を隠したお忍び状態だ。

 ……とはいえ、未来の国王に対して指を差すのは如何なものか。

 私は彼の指を片手で掴み、強く握りしめた。


「……ヴィー? 誰に指を差しているの?」


 にこりと笑いながらも声を低めれば、ヴィーは肩を大きく跳ね上げた。


「ハイ、スミマセン」


 全くと溜息を吐くけれど、勿論ここまでの茶番が日頃の『ヴィクトル・アルナルディ』という人物像を維持する為のものである事は理解している。


 馬車の中の子供らしい態度も、同様のものだろう。

 グザヴィエ殿下がどうかはわからないけれど、少なくとも私には既に考えなしを演じている事はバレているのだから、二人きりの時くらい素を見せてもいいのにとは思っているのだが……彼は私に対しても一切隙を見せはしない。

 とはいえ、彼がそう振る舞う事で何か問題がある訳ではない為、私もまた彼と同じように仮面を付けて茶番に付き合ってやるのだ。


 さて、そんなこんなで、二人きりだろうと誰かの前であろうと表面的なやり取りを続けている私達の前で、グザヴィエ殿下は申し訳なさそうに苦く笑った。


「すまないね、ヴィー、ニコレット嬢。折角のデートだというのに」

「いいえ、彼の事は気にしないでください。そもそも今回は私とジュリエンヌ様が望んだ事なのですから。さあ、早速参りましょう」


 たとえ服装に気を付け、やや小さな馬車を選んでいたとしても、馬車の前に立ち続けていれば人目を引くし、裕福な家の者である事はバレてしまう。

 そもそも馬車移動ができる地位の者が限られてくるのだから当然だ。


 私はジュリエンヌ様の背中を押して先へ進みながらグザヴィエ殿下へ片目を閉じてみせた。


「――ダブルデートへ!」



***



「……グザヴィエ殿下と上手く話せない?」


 この提案は、ジュリエンヌ様の一つの相談から始まった。

 『聖女』レーヌ様による騒動が収束し、落ち着きつつあった学園生活の最中、ジュリエンヌ様は私にこっそりと心の内を打ち明けたのだ。


「ええ。わたくし達がレーヌ様を虐めているという噂があったでしょう。今は周囲にも誤解が解けているけれど……その、当時は殿下がどうお考えなのかが分からないのが怖くて」


 私はレーヌ様虐めの悪評が広まってからのジュリエンヌ様の様子を思い出す。

 公爵家の御令嬢として、厳しい教育に耐えてきたからこそ中々弱みを見せられないジュリエンヌ様と、そんな彼女を理解した上で優しく寄り添うグザヴィエ殿下。

 二人は誰がどう見ても仲睦まじいパートナーだった。


 しかし確かに、悪評が流れ、その噂を信じる者が現れ出してからの彼女は、グザヴィエ殿下と目が合うとすぐに逸らしてしまうし、彼から話し掛けられてもぎこちない受け答えが多かった。

 日頃公爵令嬢として、そして王太子の婚約者として毅然とした振る舞いをしている彼女の印象とはあまりにもかけ離れた様子だった。


 けれどそれも仕方のない事だ。

 ジュリエンヌ様とグザヴィエ殿下の婚約は政略的なものだったが、それでもジュリエンヌ様は確かに――グザヴィエ殿下を愛しているのだから。

 普段ならば気にしないような事で気に病み、不安がり、取り乱してしまう程度には、殿下をお慕いしているのだ。


「自分でもわかるくらい、あからさまに殿下を避けてしまっていた事も、殿下がそれに困っていただろう事も理解しているの。だからその、謝りたいのだけれど」

「グザヴィエ殿下なら、素直にお話するだけできっと伝わるかと思いますが」

「ええ、そうよね……」


 私の返答に肯定をしながらも、ジュリエンヌ様の表情にはいまだ翳りがある。

 ジュリエンヌ様もグザヴィエ殿下も長い付き合いだ。彼がこんな事で愛想を尽かす人物ではないとジュリエンヌ様も頭では分かっているのだろう。

 けれどそれでも不安が拭えないご様子。

 ……レーヌ様絡みの悪評を信じ、自分達から離れていく者達を見た直後ならばそれも猶更だ。


 ジュリエンヌ様の友人としても、お二人には以前のような関係に戻って欲しい。

 かといって、不安な気持ちを抱えたまま二人きりで話す場を設けたとて、きっとジュリエンヌ様は委縮してしまうだろう。


 ならば、どうしたものか。

 そう考えた時、脳裏を過ったのは……


 ――今度、遠くまでデート行こうぜ。


「あ」

「うん?」

「いえ……」


 ヴィーの言葉を思い出した私は、これは丁度いい機会なのかもしれないと思った。

 たとえジュリエンヌ様とグザヴィエ殿下が揃ってぎこちない空気になってしまったとしても私やヴィーが居れば多少は緩和されるし、遠方に出掛ければ気も紛れるだろう。

 長時間行動を共にしていれば会話する機会は出て来るし、他愛もないコミュニケーションを重ねていけば、ジュリエンヌ様の不安も徐々に消えていくとも思った。


 それにグザヴィエ殿下が遠出をするならば、勿論護衛が周囲から見守る事にはなるだろうが、護衛騎士のヴィーがすぐ傍に居られるならばそちらの方が何かと都合がいい。

 そう結論付けた私はジュリエンヌ様にこう提案したのだ。


「でしたら――ダブルデートは如何ですか?」



***



 さて、そんなこんなで王都を離れ少し離れた港町まで私達はやって来た。

 グザヴィエ殿下の視察も兼ねてはいるが、メインの目的は観光に近い。

 貿易で栄えた街には目新しい物品も多く売り出されており、私達はそれらを取り扱った市場や屋台を渡り歩いた。


「お、あれ美味そうじゃないですか? ジュリエンヌさ……さん!」

「お、美味しそう、かしら……。お肉をあんな風に棒に刺すなんて」

「何事も経験ですよ。折角なんですから。すみませーん! 串焼き四つください!」


 私達の中では、間違いなくヴィーが一番はしゃいでいた事だろう。

 まだ少し不安そうなジュリエンヌ様を連れて屋台へ飛び込む後姿を眺めながら私は息を吐く。


「さっきまで不貞腐れていた癖に」

「ふふ。機嫌が直るのが早いよね」


 グザヴィエ殿下が穏やかに笑う。

 それから青い瞳が私へ向けられ……


「気を遣ってくれたんだろう? ありがとう」


 そう告げられる。


(……ほら。やっぱり、気にする事など何もないですよ)


 細められた瞳があまりにも優しい色をしていて、彼がどれだけジュリエンヌ様を慕っているのかがよくわかった。

 私は目を伏せ、小さくはにかむ。


「いいえ。私はただ、折角ならば大勢で遊んでみたかっただけですから」

「そうかい。君のそういうところは……少し、彼に似ているかもしれないね」


 そう返したグザヴィエ殿下の言葉の真意は恐らく掴めていないのだろうけれど。

 それでも『彼』に似ていると言われるのは……あまり悪い気がしなかった。


「おーい!」


 やがて串焼きを三本持ったヴィーと、恐らくはそんな彼に一本押し付けられて困り果てているのだろうジュリエンヌ様が私達へと向かって歩いて来る。


 ――その時だった。


「キャアッ!」


 少し離れた場所から女性の悲鳴が上がる。

 何事かとそちらを見れば、人を押しのけながら走る男がこちらへ近づいていた。


「返して!」


 そんな声が聞こえる。

 男は宝石のついたネックレスを持っていた。


「っ、失礼」


 男に敵意はない。逃げるのに必死といった様子だった。

 しかし万が一のことを考え、グザヴィエ殿下の体を押し、男から遠ざける。

 すると私の傍を男は通り抜けようとし……その肩が、私に激しくぶつかった。


「……っ!」


 体格差のせいだろうか。

 想像以上に大きな衝撃と鈍い痛みと共に弾かれた私は体勢を崩して背中から倒れそうになる。


「っ、ニコレット――」


 グザヴィエ殿下が私へ駆け寄ろうとする。

 しかしそれよりも先。

 背中に優しい感覚が伝わり、同時に私は転倒を避けられた。


「っ、と」


 すぐ目の前に、ヴィーの顔がある。

 私は彼の腕に受け止められていた。


「大丈夫か? ニコル」

「え、ええ……」


 場の緊迫感にそぐわない暢気な声。

 それに面食らっている間に、私は体勢を直されていた。


「ったく、あぶねーなぁ。ニコル、これ持っててくれ」

「え? ちょっと」


 ヴィーは遠ざかる盗人の背中を眺めながら私に串焼きを押し付けた。

 次の瞬間。

 彼の表情から温厚さが消える。

 静かに細められた目は鋭く光っており、私がそれに気付いたと同時。


「あぶねーから、周り見張っててくれ」


 声だけは普段と変わらない伸びやかさでそう告げ、彼は地面を蹴り上げた。

 かと思えば、その背中は瞬く間に遠ざかっていく。


 代わりに、既に大きな差が開いていたはずの盗人との距離がどんどん縮められる。


「そらよ、っと」


 そして充分に距離が縮まったところで、ヴィーは更に加速して盗人の正面へ回り込んだ。

 それから相手の足を引っ掛けて体勢を崩させ、同時に掴んだ腕を捻り上げる。

 堪らず呻き声をあげる盗人を容赦なく地面に組み敷いた時、相手の体が地面に強くぶつかる音がした。


「全く。人が多いところで盗みなんかするなよなぁ」


 そんな暢気な声が私達の場所まで聞こえてきて、


「こういうのは人が多い場所を選ぶものだと思うけれど」


 と、グザヴィエ殿下が思わず突っ込む声があった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ