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【連載版】王太子でも聖女でも悪女でもなく、一番の策士が『剣術バカ(嘘)』の私の婚約者の件  作者: 千秋 颯@3/6「選ばれなかった令嬢~」アンソロ発売!
第二章 十二時に解ける魔法

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第19話 変わらない優しさ

 何故、このような場所に第二王子がいるのか。

 王太子側の自分の素顔がバレれば、皆に迷惑が掛かるのでは。

 そして、襲撃の光景や生徒会で交わした会話の数々、馬車の中でのヴィーとの会話が次々と過る。


 ――どうしよう。


 仮面が外れると同時に抱いた焦りは、冷静な思考を絡め取っていく。

 私はすぐに動くことができなかった。


 けれどその時、私は肩を抱き寄せられる。


「……っ!?」


 私の頭に触れた手は自然な動きで、ラガルド殿下から顔を背けるよう促した。

 第三者の介入。

 相手の顔を見るまでの余裕はないが、背丈からして男性だろう。


「何だ、お前は」

「失礼」


 その声を聞いた瞬間。

 何故かヴィーの姿が過った。


 この場にいるはずがないのに。


 私は咄嗟に顔を上げる。

 すると私の視線に気付いたのか、私を抱き寄せた相手――先程友人とぶつかった紺色の髪の男性が私ににこりと笑いかけて来た。


 髪の色の瞳の色も、その面持ちも言葉遣いも違う。

 なのに彼の声と――私を抱く腕の優しさが、どうしても見知った人物を連想させた。


「女性の素顔を無理に暴くというのは……聊か紳士としての品性に欠けると思われますよ」

「ああ、そうだな。つい、うっかりしていた。事故のようなものだ」

「お気を付けください。仮面舞踏会(マスカレード)の作法を信じて夜会に参加する者の中には――素顔を晒される事を恐れる女性も少なくはないでしょうから。……それと、どうやら驚いていらっしゃるようですので、そちらのお手を離してはいただけないでしょうか」


 白々しい返答に対し、どこまでも物腰柔らかに対応する男性。

 その後、ラガルド殿下も男性も、どちらも暫く口を開かなかった。

 恐らくは睨み合っていたのだろう。


 やがて……


「……興醒めだ。横槍が入ったせいでな」

「それは大変申し訳ございません」


 ラガルド殿下が私の手を解放する。


「仮面を」


 男性が私へ囁く。

 お陰で我に返った私は、すぐに足元に転がった仮面を拾い上げ、着け直した。

 それからラガルド殿下の方を向けば、彼は不機嫌そうに鼻を鳴らす。


「まあいい。この場の作法とやらが邪魔をするならば――この外で顔を合わせればいいだけの話だ。また会おう。――名も知らぬ御令嬢?」


 彼はそう言い残すと私に背を向け、離れていく。

 その姿が遠ざかり、人混みの中に完全に紛れ切ってから、私は深く息を吐いた。


「災難でしたね。お怪我は?」

「いえ。……助けてくださって、ありがとうございます」

「いいえ。お気になさらず」


 男性が私から手を離し、隣に立った。


「……顔色が悪いですね」

「え?」

「お気付きではありませんでしたか? 少しお休みになられた方がよろしいかと」


 彼はそう言うと私に手を差し出す。


「この仮面舞踏会では基本的に個室を貸してはいただけないようですから、人気の少ないバルコニーで夜風に当たるのが良いかもしれません。よろしければ、ご案内しましょうか?」

「あ……ありがとう、ございます」


 私はその手を取り、バルコニーまで案内される。

 彼の言う通り、バルコニーに人の姿はなく、ここでならば気が休まりそうだと感じた。


「余計なお世話かも知れませんが……。少しお休みになりましたら、本日はもうご帰宅された方がよろしいかと。……更に悪化する前に、できるだけ早く」

「そう、ですね。……お気遣いいただきありがとうございます」

「いいえ。それでは私はここで失礼いたします。どうぞ、お大事に」


 男性は美しい所作で一礼すると、そのままホールへと戻っていく。

 けれど、私はそんな彼を黙って見送る事ができなかった。


 だって、先程から感じていた違和感は……どうしようもない程に膨れ上がっていた。


「っ、あの……!」


 男性が立ち止まり、振り返る。

 その一連の所作すら紳士然としており、粗雑さや豪快さの欠片もない。

 ましてや『バカ』などと言う俗的な罵倒とは一切縁がないだろう。

 容姿も振る舞いも、目の前の青年の殆どが『彼』とは大きく異なる。


(……ああ)


 けれど……


(どうしてすぐに、気付かなかったのかしら)


 仮面の奥、私を真っ直ぐと映す瞳が――どうしようもなく優しい。

 先程、私を抱き寄せた腕だって、まるで壊れ物に触れるような、あまりに優しすぎる力だった。

 ――自分の力強さを知っているからこそ、慎重になってしまう『彼』と全く同じ触れ方。


 思い返せば、彼は髪の色を変える薬を持ち歩いていた。

 瞳の色を変える薬だって、同じ様に入手する事は出来るだろう。


 それに彼は彼の主と共に第二王子殿下やその派閥の者の動きを追っている。

 本来ならばこんな夜会に現れるはずもない第二王子の姿が確かにあるという事は、ここで何かしら動きがあるという事。

 ならば……それを先んじて読み、同じ現場に駆け付ける事だって彼には可能だったのだろう。


 相手の正体に気付き、何も言えなくなってしまった私の異変に彼も気付いたのだろう。

 そして私が何を思ったのかも、きっと悟ったのだ。

 息を呑む、静かな気配があった。


(――ヴィー……)


 彼は私の表情を窺ってから――困った様に眉を下げて微笑んだのだった。

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