009 協会長への報告
「で、エレオノーラ。そちらの青年は誰かね?」
協会長と呼ばれた男性に連れられてやってきたのは、先ほど男性がやってきた受付の奥ではなく、建物の3階にある部屋。
そこは応接室のようで、部屋の中には一人掛けのソファが2脚と、二人掛けのソファが1脚存在していた。
一人掛けのソファには協会長が、二人掛けのソファには師匠と僕が座っている。
「なんとなく想像ついていると思うけれど、稀人よ」
「やはりか」
師匠は若干嬉しそうに告げ、協会長は沈痛な面持ちでそれに応える。
「言っておくけど、カズはうちのギルドが引き取るから。それがカズの望みだし」
「はあ。稀人の願いはできる限り受け入れろ……それが陛下からの命だからな」
師匠は終始ニコニコとし、協会長の顔色はどんどん暗くなっていく。
「……ええと、なにか問題になるんですか?」
「カズは気にすることないわよ。協会長が苦労するだけだから」
「師匠……全然、安心できないんですが」
協会長が苦労するって、僕の扱いで苦労するってことですよね?
「はあ、稀人様は気にしなくても大丈夫です。ただ、ワタシが陛下や大臣、貴族のお歴々の方々に説明しなければならないだけですから」
あ~、そりゃ国に見知らぬ異邦人がやってきたなら、保護した団体の長が国に報告するのが筋か。
「すみません、ご面倒をおかけします」
「いえいえいえ、稀人様が悪いわけではないですから!」
「ええと、……その稀人様ってやめていただけますか? 普通に名前……カズヒサでもアズマでも、それこそ師匠のようにカズでもいいので」
この世界の人にとって稀人……異世界人は神様が送り出した人間なので、敬意を払うべき存在なのだろうけど、様付けで呼ばれるのはむず痒い。
「ええと……ではアズマ様で」
「呼び捨てにしてください。師匠が呼び捨てで呼ばれているのに、拾われた僕が様付けって変でしょう?」
「うっ、それは」
「別にいいじゃない。カズがそうして欲しいって言ってるんだから。稀人様の願いはできる限り受け入れるのがルールでしょう?」
「それはそうだが、流石に不敬ではないか?」
「口先だけ敬意を払っても意味ないでしょ。呼び方がどうであれ、カズの思うように過ごさせるのが本当の敬意じゃない?」
うーん、やっぱり神様が身近な分、神様が送り出している異世界人の取扱いは慎重になるのかな?
とはいえ、こちらとしても、これからずっと様付けで呼ばれるのは居心地が悪いし、普通に呼んで欲しいものだね。
「……はあ、わかりました」
「あ、敬語もなくて大丈夫ですよ。師匠への対応を見る限り、普段は敬語を使っていないのでしょう?」
「いや、それは……」
「あ、こちらは敬語が身に沁みついているので、お気になさらずに」
「……あ~。わかった、アズマだな。……キミにはエレオノーラのところだけでなく、数多くの選択肢が用意できる。キミが望むのなら、何もせずに遊んで暮らすことも可能だぞ?」
口調を変化せた協会長が提案してきたのは、僕の身の振り方だ。
「いえ、師匠に恩がありますし、錬金術で何ができるのかにも興味があるので」
「ふむ、そうか」
「ちょっと! 何を人の前で勧誘してるのよ!」
「断られたのだからいいだろう。それに、稀人様がやってきた時に選択肢を提示するのは保護した団体の義務だ。アズマだから、特別に話したわけではない」
「……それはそうだけど」
「師匠。僕は師匠の下で、錬金術を学びますから」
「……まあ。それなら、いっか」
「とにかく、エレオノーラ。アズマについては、こちらで国に報告をしておく。……あと、ノルマのポーションについては協会の方に納めるように。こちらで、他の冒険者ギルドに配分しておく」
「え~、バカをしたギルドがなくなったんだから、ノルマもなしでいいじゃない」
師匠と協会長が、子供の言い合いのような会話をしている。
「そういえば、冒険者ギルドがなくなったって……僕のせいですよね?」
「いやいや、それはアズマのせいではない。たとえ稀人様に対して問題を起こしても、その人が清廉潔白であれば、天罰なんか落ちんからな。今回の連中は不正が発覚するほどの悪人だったというだけ。むしろ、こちらが助かったくらいだ」
「そうそう、もともと無法者の集団だったんだから、カズは良いことしたの!」
うーん、師匠も協会長も本気で言っているのは口調や、表情からうかがえるんだが、それでも自分のせいで団体が一つなくなったと聞くと罪悪感が。
まあ、でもこの世界の法で裁かれたのなら、僕が気にし過ぎても仕方ないのかな?




