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006 初めての錬金術

「まずは錬金術の基礎からね」


 錬金室に場所を移して、さっそく錬金術の講義が始まる。

 師匠は来たばかりだからと難色を示していたが、こちらとしては住む場所が見つかったのだから手に職をつけるのが喫緊の課題ということで、ごり押しさせてもらった。

 というのは口実で、じつは錬金術という前の世界では存在していなかったものに興味があるだけだったりもするんだけど。


「はい、師匠」


「うっ、慣れないわね。……錬金術は理解・分解・再構成の3つの要素からなるわ。そのため、錬金術師の天職を持っている人は全員が最初から、いくつかのスキルを使えるわ」


 理解・分解・再構成……確か、前の世界の漫画でも似たようなこと言っていたな。

 まあ、一般知識として頭に入れている錬金術も化学や神秘学の分野だったはずだから、漫画的というよりは現実に即しているともいえるのかもしれない。


「じゃあ、僕も使えるのですね?」


「ええ。まずは理解を司るスキルで、素材鑑定よ。テーブルの上の石を見ながら、素材鑑定と口にしてみて」


 師匠の言うように、錬金室にあるテーブルの上にはいくつもの石がゴロゴロと置かれている。


「……素材鑑定」


 石を見ながら師匠に言われたように呟くと、石の上に無数のウインドウとでも呼ぶべき半透明の板が現れた。

 半数が『ただの石』と表記され、もう半数は『鉄鉱石』と表記されている。


「見えた? それが素材鑑定。錬金術の根幹のスキルで、錬金術を行使できる素材を見極めるために必須よ」


 なるほど、確かに錬金術には必須スキルだろう。師匠は錬金術の基礎は理解・分解・再構成と言っていたが、分解するためには物質にどんな成分が入っているかを理解するのは重要だ。

 しかし、どんなモノでも鑑定できるとあれば、これほど有用で悪用しがいのあるスキルもないのでは?


「……素材鑑定」


 何気なく、師匠の方を見ながら口にしてみたが、石とは違って師匠にはウインドウは現れなかった。


「ふふ、やってみたくなるわよね。でも、ダメよ。錬金術師が使える素材鑑定は、あくまでも物体限定。人や獣などの生命の宿っているものには効かないわ」


「失礼しました」


 好奇心が先走ったとはいえ、さすがに失礼過ぎたな。とはいえ、流石というべきか、セーフティーはあるようだ。


「次は分解ね。まずは、石と鉄鉱石を分けてもらえる?」


「はい」


 師匠に言われるがままに石と鉄鉱石を分ける。素材鑑定は自分の意志でオンオフが出来るらしく、分けて自分の意識から外れたモノからウインドウは消えていった。


「そうしたら、こちらの石は片づけて……と。鉄鉱石を1つ手に取って、素材分解と口にしてみて」


「……素材分解」


 師匠に言われるがままに、鉄鉱石を手に取り呟くと、ポロポロと細かい破片が零れ落ち、手の中にいくつかの小さな鉄の塊が残った。

 簡単すぎない? え? 鉄って確か高炉とかでドロドロに溶かして、不純物を取り除いて作るんだよね?


「錬金術師ギルドに所属したばかりの錬金術師の仕事がコレ。どう? 地味でしょ?」


「地味というか、あまりにもアッサリし過ぎていて驚いたという感想ですね」


「そう? 大体、錬金術師になりたての人って、こんな地味なことがやりたかったわけじゃない! って怒り出すんだけど」


「どんな物事でも基礎というのは大事ですよ」


 確かに錬金術や錬金術師に憧れている少年少女が地味な作業をやらされれば怒りもするかもしれないが、これでも社会人の端くれだったからね。

 中学・高校の部活や学生時代のサークル、そして会社と何か大きなことをなしたければ、基礎を疎かにはできないと叩き込まれている。


「良かった。これで辞められたら私、泣いちゃうからさ」


「大丈夫ですよ。前の世界でも似たような経験は、いくらでもしていますから」


 そう言いつつも、素材分解を鉄鉱石にかけ続ける……というか、素材分解と呟くだけで鉄鉱石から不純物がボロボロ取れるのは結構おもしろいんだけどな。


「じゃあ、最後に再構成ね。分解した鉄を集めて、再構成と口にしてみて」


 あらかた鉄鉱石を分解し終わったところで、師匠が話しかけてくる。


「……再構成」


 取り出した鉄を集めて呟くと、軽い光が出現した後、手の中の小さな鉄の塊が一塊の鉄へと変貌していた。

 錬金術……あまりにも有能過ぎないか? なんで、冒険者ギルドの奴らは見下した発言をしていたのか、いまさらながらに不思議になるな。

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