053 日常業務
「さて、カズ」
「はい、師匠」
「いくら、空間収納の魔導具……マジックバッグが求められているからといって、そればかりを作っているわけにもいかないわ」
珍しく朝食の時間に師匠が真面目な顔をしているかと思ったら、急にこんなことを言い出した。
「何かあったのですか?」
「……冷蔵庫の納期が」
ちなみに僕は冷蔵庫の魔導具……というか、初心者向けの魔導具以外は作っていない。
着火用・小型送風機・水瓶の魔導具を作っている最中に改良型を思いついて、その後はスキル付与や魔法付与の魔導具ばっかり作っていたからな。
「どのくらいヤバいんですか?」
「……カズに手伝ってもらわないとヤバいくらい」
まあ、師匠のお手伝いをするのも弟子の務めだ。確かにマジックバッグの要望は多いけれど、魔導具自体は他の錬金術師が作ってくれているから、錬金術の魔力は使ってしまっても大丈夫だろう。
冷蔵庫ももちろん魔導具なのだが、魔石を組み込むだけではなくパッキン代わりにスライムの素材を再構成で張り付けたりと色々と手間がかかる魔導具だ。
「冷蔵庫の作り方を教えて頂ければ、もちろん手伝いますよ」
「ふふ、流石はカズね」
師匠はにっこりと笑うと、僕を錬金室へと連れて行く。
「冷蔵庫は大型魔導具の中では難しいものではないわ。注意点としては風と水の魔石を使うこと、それとスイッチになる無属性の魔石は裏側につけることね」
「裏ですか? 押しづらくありませんか?」
「それが理由よ。冷蔵庫は設置時に稼働させて、そのままスイッチを入れっぱなしにするから。誤ってスイッチを切らないように、また子供が遊びでスイッチに触れないように裏につけるのよ」
ははあ、なるほど。前の世界の家電はコンセントにつなぐかどうかで稼働タイミングが決まるけれど、この世界の魔導具は魔石を組み込んだ時点で稼働してしまう。
稼働のタイミングを任意で決めるためにスイッチ用の無属性の魔石を組み込むわけなんだが、魔力を流すだけでスイッチが入り切りできてしまうので子供が勝手に使うという事態は結構多い。
そういった使用者の意図しないタイミングで稼働しないように、裏側にスイッチ用の無属性の魔石を付けるということだな。
「意外と大きいですよね、冷蔵庫」
この世界の冷蔵庫は前の世界でいうと4人家族用くらいの大きさがある。
冷凍室がついていないのに成人男性よりも少し低いくらいの高さで、幅もそれなりにある。
「そう?」
「ええ、僕がいたところだと大小さまざまでしたので、かなり大きく見えますね」
まあ、この世界は前の世界ほど流通が発達していないから仕方がないんだけどね。
生鮮食品関係は売っている時は売っているけれど、売ってないときはまったく見かけないレベルで売ってないから、欲しいものは見つけた時に買っておかないとマズいレベルだ。
逆に単身者は自分で料理なんてせずに食堂や屋台を利用する人が多いから、小さい冷蔵庫は必要がないのかもしれない。
「ふーん、まあ水の魔石から出る冷たい水をパイプに流す必要があるから、これ以上の小型化は難しいわね」
そう、冷蔵庫は水の魔石から冷たい水を発生させてそれを風の魔石で循環させる方式をとっている。
その方式が冷蔵庫の作成を難しくしている要素で、水の魔石の稼働時間、風の魔石の稼働時間を回路に正確に組み込まないと魔導具としてきちんと動作しない。
さらに言えば使ってる側も一定期間で排水をしなければならないし、前の世界の冷蔵庫と違って手間がかかるのだ。
「冷蔵庫も便利にできればいいんですけどね」
「改善できる?」
「無理ですね。そもそも僕は自分がいたところの冷蔵庫の構造を知らないですし」
フロンガス? とかを使っていたのはわかるが、ガスをどうしたら物を冷やすために使えるのかはわからない。
もちろん歴史の授業で習ったような、箱の上部に氷を設置することで下部のものを冷やす作りのものならわかるけどね。
この世界の冷蔵庫は手間がかかるけれど、それでも僕が作れそうな冷蔵庫よりは便利だからわざわざ不便なものを作る意味はないだろう。
「そっか、カズでも無理か」
「まあでも、良い感じの魔法があるのなら魔法付与で冷蔵庫は作れそうですけどね」
水魔法の他に氷魔法もあるというのは聞いているから、物を少しだけ冷やすような氷魔法があるのなら、それを付与して冷蔵庫は作れるだろう。
ちなみに水魔法には水の渦を作り出す魔法もあり、それを使えば洗濯機も作れる……まあ、水の魔石と風の魔石で洗濯機は作れるから、作る意味はないけどね。




