051 マジックバッグ(冒険者ギルド受付視点)
「はあっ!? 俺たちにはマジックバッグは渡せねえってどういうことだよっ!」
冒険者ギルドで受付の仕事をしていると、年若い冒険者が怒鳴り込んできた。
新人の受付なら、その勢いに驚くのかもしれないけれど、もう10年以上も冒険者の相手をしているとまったく動じなくなる。
「上の判断ですので。A級冒険者以外には、マジックバッグはS級冒険者のみに貸与すると」
「ふざけんな! こんな役立たずどもに持たせるくらいなら、俺が持つ方が有益に決まってるだろ!」
ちなみに目の前にいるのはC級冒険者。パーティーのリーダーという立ち位置だけれど、上にはこびへつらい、下には横暴なことから冒険者内でも嫌われている。
自分が持った方が有益? バカなことは言わないで欲しいものだ。
「自分が持った方がS級冒険者よりも有益……ですか」
「はっ! 荷物持ちくらいしかできない存在なんだから、当たり前だろ!」
「ええ、S級冒険者はサポート役として、大量の荷物を持つ存在。だからこそ、荷物を入れるマジックバッグはS級冒険者に貸与するんですよ」
ギルド長から新しく販売が開始された魔導具はS級冒険者のみに貸与し、他の冒険者には貸与も販売もしないようにと通達が来た時には確かに驚いた。
だけど、その魔導具の性能を知って納得はした。新しい魔導具は一見すると普通の革袋なのに、どれだけ荷物を入れても中身が増えない、文字通り魔法のような魔導具。
一応、要領に制限はあるらしいけれど、ギルド長の部屋に用意された冒険道具がすべて入ったことから、普通の冒険に必要なモノなら、いくら入れても大丈夫なようだ。
現在、冒険者ギルドでは希望を出したパーティー、あるいはギルドが目をかけているパーティーにはS級冒険者をサポートとしてつけている。
ハーフエルフゆえに成長は遅いものの、数多くの冒険の経験があり、小技もたくさんあるからサポート役にはうってつけの冒険者。
サポート、という名前だけを聞いて一部の冒険者が荷物持ち扱いをしている彼らに、マジックバッグを貸与するのは自然な流れだろう。
「だ……だが、ソレさえありゃ、S級冒険者なんていらなくなるだろっ!」
「サポート役がいらないと……おかしな話ですね。あなたたちのパーティーもS級冒険者の派遣を願い出ていたはずですが」
「荷物持ちはいくらいても困らねえだろうがっ!」
「初心者講習も受けず、火のつけ方も、焚火の組み方も知らないあなたたちが、S級冒険者の力なしで冒険できるとは思えませんが……」
大半の冒険者は荷物持ちの足手まといだと思っているS級冒険者だが、彼らはギルドや協会が行う講習はコンプリートしていて冒険に必要な知識は全て持っている。
戦闘面では下位の冒険者ほどの力しかないとしても、その知識により冒険を支えている彼らは全ての冒険者にとってなくてはならない存在だ。
だからこそ、ギルドではS級冒険者を特別枠として雇い入れ、各パーティーに派遣、彼らの報酬はギルドから渡すようにしている。
「はっ! あいつらにできて、俺らにできねえことなんてあるはずねえだろ! だから、とっととマジックバッグを渡しやがれ!」
「……渡すわけないでしょう。そもそも貸与品なんですよ。所有者はあくまでも冒険者ギルド。たかが1パーティーに渡すわけがないと分かりませんか?」
「だったら……」
目の前の冒険者が不穏な空気を出すが、考えていることがバレバレだ。
「S級冒険者からマジックバッグを奪うつもりなら、止めておいたほうが良いですよ。マジックバッグは全て使用者の認証がされているので、奪ったところであなたは使えませんよ」
「なっ!?」
「ちなみに許可のない人がマジックバッグを所持していた場合には、ギルドからの追放、昇級に制限を付けるらしいですよ」
「ふざけんな! 横暴だろ!」
「横暴……ですか。マジックバッグはギルドの所有品。それを盗んだのだから、追放は当然でしょう。それに他人の物を盗むような人は、貴族が絡むことが多い高ランクの依頼は任せられませんしね」
「……くそっ!」
「そんなに欲しいのなら、自分たちで買えばいいじゃないですか……ああ、言っておきますが販売は帝城が一括で扱っていますので、錬金術師協会や錬金術師ギルドに行っても無駄ですよ」
そう忠告をすると、目の前にいた冒険者は苦虫を嚙み潰したような顔つきで受付から離れて行った。
少々茶番じみた展開にはなったけれど、これでギルド内の冒険者にはマジックバッグの扱いが知れ渡っただろう。
本当にいいタイミングでバカな冒険者が難癖をつけてくれたものだ。




